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非幸福者同盟  作者: 相羽裕司
第九話「サヨナラの音」
181/277

181/凝縮された攻防

 ジョーの動体視力では、全てを追うことができない。それは数秒の攻防だった。


 超速で間合いを詰めた陸奥が上段からの袈裟(けさ)斬りを落とすと、大王は半身だけズラしてそれを避けた。大王はそのまま動作を繋ぎ、上体が「抜け」ていた陸奥の腹部に向かってボディーブローを放つ。


 重い拳が陸奥の中心を貫くと思われた刹那、陸奥は前転し、猫のような俊敏さでその攻撃を避ける。流れるように技が繋がるのは陸奥も同じ。陸奥は着地と同時に再び大王に向かって半歩踏込み、今度は片手突きを撃ち込む。


 大王は喉元に迫る突きを上体の捻りのみで数ミリの所で避けると、暴力的に、前傾した陸奥に向かって前蹴りを放つ。


 大王の蹴りは大気を震撼させる威力であったが、陸奥には当たらない。一瞬の後転でこちらも数ミリの所で蹴りを回避すると、そのままバク転を続け、一旦間合いを離す。


 ジョーに知覚できたのは、半分程度だった。これだけ接近しても、お互いに相手の体に触れることがないという、高度に技巧的な攻防であった。


 ただ、分かったことがある。今の攻防に、大王の本質能力(エッセンテティア)の一旦が含まれていたかというと、それはないということだ。


 牛人を、熊を、怪人を圧倒してきた陸奥の体術に、本人の身体能力のみでついてきている。あるいは空中で戦闘機を沈めた正拳突きも、能力ではなく、単純な大王個人の腕力なのか?


「結界が、張れない」


 ジョーとは別の角度から大王の能力について検証を始めたのは、志麻である。


 既に、戦闘機の墜落に、その場で始まった男と少女の攻防にと、人目をつく事態になっていた。徐々に、市民たちが周囲に集まり始めている。オントロジカにまつわる闘争はまだ一般人には秘匿しておくという原則の元、この場で戦闘を続けるならば、大天寺(だいてんじ)山に張っていたもの、あるいは大巨神(だいきょしん)との戦いの際に(ちょう)女王から志麻が引き継いだもの。そういった類の、人除け・防護の結界を構築しなくてはならない。しかし志麻は、何度スイッチを押しても使い慣れた機械が動作しないといった趣で、先ほどから数度試しても結界が張れないことを伝えている。


本質能力(エッセンテティア)自体は?」


 アスミの問いに、志麻が簡潔に応える。


「フェラーリの駆動系とは繋がってる。『機構的な(リ・エンゲージ)再契約(メント)』の方は使えてるわ」

「能力を封じる類の能力では、ない、か」


 アスミが大王の能力の分析を試みる中、ジョーは場に集まり始めたS市の市民たちの方が気にかかっていた。敵は、人間を殺すことを厭わない男である。戦いを秘匿するという観点とは別に、市民たちから大王を遠ざける必要がある。


「来い!」


 敵は、ジョーのことをスヴャトポルクの縁者と称した。ジョーに対して何らかのこだわりを持っている。ジョーは、自分を(おとり)として大王を引きつけようと、国道の東方面に向かって駆け出した。

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