168/Aドライブが必要
早朝、ジョーが志麻の家を訪れると、まずは解析を依頼していた百色ちゃんから貰った四角い物体について、志麻から報告があった。
「フロッピーディスクよ」
「何だ、それは?」
「うーん。十年前くらいまではまだ見かけたらしいのだけど。PC用の記録媒体。その後、CDになったりMOってのがあったり。今だとDVDとかUSBメモリに相当するものよ」
「へー」
「で、オークションでAドライブ付きの古いノートPCを落札して、中身を見てみたんだけど……空っぽだったわ」
「マジで?」
「そ。魂のない器。百色ちゃんの話、やっぱり夢でも見てたんじゃないの?」
百色ちゃんとの顛末は、アスミには話さず志麻にだけ話していたが、志麻は未だに半信半疑のようである。ジョーとしてもあの夜のことは何だかフワっとしていて、積極的に論証する意欲も湧いてこなかった。
「じゃあまあ、この件はこの件で。それは志麻が持っててくれ。Aドライブ付きのパソコンなんて家にないし」
「いいけど。これ、1.4メガくらいしか入らないから。使い道はあんまりないかも」
そこで話題は次に移った。
「志麻も、アスミの誕生日に何かプレゼントとかするのか?」
「するわよ。私なりに、アスミが今一番欲しいものを準備してるつもり」
「へぇー」
それが何なのか。直接は聞かなかった。ジョーとしては、自分で考えてそこに辿り着かないといけないと思ったから。
「私。アスミの裸の写真いっぱい持ってるんだけど、隅々まで凝視して今考えてるの」
その言動には、ジョーはちょっと引いた。
「し、志麻は本当にアスミが好きなんだなぁ」
「好きよ。宮澤君が考えてるような意味とは違うかもしれないけれど」
穏やかな語り口だが、志麻の言葉には内に秘めた熱情のようなものがこもっている。その熱は、少しジョーにも伝播した。
「じゃ、ま、俺も考えてみるわ」
「宮澤君は」
そこで何故か、志麻は目を伏せた。
「お母さんに愛されてきた人だから、アスミが本当に欲しいものは分からないかもしれない」
ジョーも欧州に行っているというアスミの母・アリカ小母さんのことは気になっていたのだが、母親に関して事情がある志麻の前ではその話は避けていた。志麻の方から「母」の話を振ってきたのは意外だ。
志麻はジョーと視線を合わせないまま、こう告げて話を打ち切った。
「でももし、宮澤君がアスミの本当の願いに気づいたら。その時は、一人で叶えようとしないで、私にも連絡頂戴ね」




