148/お風呂の後で
銭湯から上がった志麻は、エッフェル搭と並んでフルーツ牛乳を飲んでいた。その文化圏の定番はとりあえずやってみるのがエッフェル搭の流儀らしく、一気に飲み干し、プハーっと息を吐く。
「今度は、砂風呂入りたいな」
「あ、はい。S市にもあるのか後で検索してみます」
「なかったら、京都行こうよ、京都」
京都か。志麻としてはまだ訪れたことがない場所だった。そもそも、県外に旅行した経験があまり多くなかった。
「おおぅ。コレは、ナニカ、キますね」
そこに、フルーツ牛乳以外の飲料が所望だと遠くの自販機を探しに行っていた陸奥が戻って来た。手元には、小さな缶ビール。
「居酒屋で飲んだ時はそれほどでもなかったんですけど。今は、キューンとキてます」
「お風呂の後だからじゃない? 大丈夫?」
「ちょっと、喜びに満ちてますっ」
身体の見かけは中学生くらいの陸奥である。その大きくはない体に染みわたったのか、普段よりもハイな言動をしている。
「アンタさ」
パリジェンヌの装飾と内面について、なんてことを、的を射ているようなテキトーなような調子で陸奥は語っている。絡まれたエッフェル搭はタメ息まじりに応えた。
「仮にも伝説の戦艦なんだから、安酒で酔いなさんなよ」




