147/歩いて行こう
「お父さんの甚平あるから、着ていったら?」
ジョーが午後は駅方面の七夕の街に出てみるつもりだと告げると、ジョーの母から提案があった。確かに七夕祭りと言えば、男女を問わず街に和装が行きかう時期でもあった。
「うーむ。やぶさかでもないけど、俺、たぶん似合わないぞ」
「イイんじゃない? 私、ちょっと見てみたいわ」
意外なことに、アスミからのプッシュがあった。
ジョーとしても別に強く拒否する理由もないので、ではではとしばしお着替えタイム。母の手ほどきを受けながら纏い、ジョーは黒の編み模様というシックな感じの甚平姿になってアスミの前に現れた。
「イイ! なんか、不思議な落ち着きがある感じ」
アスミの評が思いのほか良いものだったので、ジョーとしても悪い気がしない。
「ところで、父さんは? 今日、休みなんじゃなかったっけ?」
「なんか、商店街のお手伝いに行ってるみたい。あの人も、仕事休みの日くらい、家族サービスすればいいのにね」
ジョーとしては当の甚平の所有者が今何をしているのか気になっただけだったのだが、母の回答はジョーに示唆を与えるものだった。エントランスホールで待っている百色ちゃんのやる気のない顔を思い出す。
「じゃ、ま、行くか」
志麻からはリンクドゥで連絡を受けており、何やら銭湯に入った後に駅方面に向かうとのこと。アバウトに合流場所も決めてあった。
エントランスホールまでエレベータで降りてくると、百色ちゃんはそのまま立っていたが、手にアスミが渡していた携帯食の包みを持っていた。アスミがゴミは後でまとめて捨てるからと受け取って、ボディバッグの中のビニール袋に入れる。
「歩いて、行くか」
駅方面までは少し距離があるが、地下鉄やバスを利用するのは、百色ちゃんには難しいように思われた。
アスミも徒歩での移動に同意したので、ジョー、アスミ、百色ちゃんの順でマンションの玄関を出て、そのまま敷地の外へ。夏の日差しに照らされたS市の街の歩道を踏みしめる。
甚平姿の異国風の少年に、ツインテールの美少女、ゆるキャラのような何か、と続いて行く行軍は、七夕の日に現れた怪奇めいている。それでもそこは、あ、こういうのもありかな、くらいのノリで受容してスルーする寛容さ、耐性。S市の街の人々はそういったものも持っているのだった。
停車中の自動車の中から好奇の視線を感じたりしつつ、横断歩道を渡って、三人は駅の方へと歩いて行った。




