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非幸福者同盟  作者: 相羽裕司
第六話「たとえばそこにいてくれるだけで」
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127/自分の中にある気持ち

 S市一級河川の水中を進むジョーは、水の冷たさで身体が冷やされるほど、魂の方が研ぎ澄まされていくのが分かった。熟練の料理人には簡素なスープであっても微細な出汁の違いが分かるように、エッフェル塔を呼び出した今だからこそより行き届いて感じられることがある。オントロジカと存在変動律についてだ。


 それは、外界を知っているからこそ内側が分かる、という事象に似ている。外国の文化を知っているからこそ、認識が相補化され自国の文化をより豊穣に理解できる。外国語ができるからこそ、外国語の語彙や文法にはない、母国語の機微がリリカルに理解できる。そういう現象に似ている。


 今、水中を泳ぎながらジョーが感じている存在変動律について。フランスのオントロジカが源になっているエッフェル塔のそれは色は蒼で質感は雄大だ。そして、そんなエッフェル塔を知ったからこそ、この地の、この国のオントロジカで現界している陸奥の存在変動律が今までよりも隅々まで理解できる。彼女の存在変動律は(あか)く鮮烈な一方で、どこか儚さがある。


 アスミのものは赤く朗らかだけど悲しい。志麻のものは青く狂おしいけれど内に触れたものに抱擁を与えるような温かさがある。そんな新たに知覚される様々な感覚の中、大巨神テンマの荒ぶる存在変動律とは異なる、微細な、今までは感じられなかった、それでいて今にも消え入りそうな存在変動律をジョーは感じ取っていた。色は黄色の系統で、激しい衝動に突き動かされながら、その源に深い悔恨の念が宿っている存在変動律だ。


 その、新たに感じられるようになった小さな存在変動律の主を理解した時に、ジョーの中に生まれた気持ちがある。ジョーは自分自身が思ってしまったことに、自分で驚いた。しかし、この驚くべき気持ちもまた、自分自身の中に確かに存在している。


(これは、アスミと志麻に怒られるかもしれないな)


 暴虐の王が、さらなる大いなる力の前に打ち倒される。この夜の戦乱が落ち着き始めている中、また波紋を立ててしまいそうな想いを抱きながら、ジョーはバタバタと足を動かして、潜水で向こう岸にいるアスミ達の方に向かって行った。


 しょうがないことでもある。気持ち・物理的存在・その他、などなど。そこに生まれて


()る」以上、世界に波風を立ててしまう、何らかの影響を与えてしまうことは、避けられないことなのだから。

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