112/デルタ
一方、陸奥の前にも異変は訪れていた。水上に待ち構えていたのは七メートル級怪人であった。アスミが警戒していた巨大な三体のうち、大怪人テンマを除く最後の一体。おそらくは、この街で二位か三位の男が元となっている怪人である。
先手必勝とばかりに陸奥は菊一文字の尖端から三つの副砲を生成すると、怪人の両肩と腹部にめがけてデルタ型になるように発射する。
副砲は怪人に着弾するものの、そこはこれまでの三、四メートル級とは違う七メートル級の怪人か。数歩後退しながらも、怪人は耐えて見せる。
(アスミさんと志麻さんが心配ですっ)
ここはリサイクル作戦よりも、スピードを重視する局面かと陸奥が判断し、追加の副砲三連弾をお見舞いしようと菊一文字を構え直した時である。陸奥も異変に気づく。
水上を駆ける足を止め、しばし流れる水の上に制止する形になる。
デルタ型に撃ち込まれた副砲に抵抗していた七メートル級怪人だったが、陸奥が様子を伺っていると急に怪人から重さが消え、そのままゆっくりと水面に向かって倒れはじめた。
そこでジョーと同じく、陸奥も怪人の胸から光の糸が吸い出されているのが目にとまる。やはり、光の糸が向かう先は大怪人テンマである。
ジョーよりは、自分自身がオントロジカにまつわる特殊な存在ゆえに理解する。光の糸の正体は、蝶女王が指摘する所の、人間一人一人が持っているオントロジカであった。そのオントロジカの光の筋が十一本、大怪人テンマの背中に向かって集まっていた。
今や水面に死体のように浮かぶ七メートル級怪人は、次第にその大きさを縮小させ、元の人間の大きさに戻っていく。しかし光の糸は、それだけでは許さないというような得体の知れない不気味さを醸し出している。元の人間になっても、血の一滴、皮一枚、骨一本まで吸い出してやる、とでもいうような。
陸奥は苦々しくつぶやいた。
「まだ収奪する、ということですか」




