104/ガンディーラ
長くは明治の時代からS市で交通の要所となってきた愛護大橋は、今や志麻の本質能力『機構的な再契約』の極大行使によって、その存在を「再構築」されてしまった。
愛護大橋を素材に再構成されて現れたるは、全てを拒絶せんとするような機械の体。暗闇の中でその存在を圧倒的に主張せんと発光する両眼。大きさは大怪人テンマの十メートル級をゆうに超える三十メートル級。その姿は、まさに幼い頃の志麻が世界を壊すために妄想し、絵に描き続けた大怪獣の顕現。尾をふりあげる、直立・竜型機構怪獣『ガンディーラ』であった。
志麻の姿を表示していた蝶女王の『生物の宝物庫』の志麻の映像は砕け散った。愛護大橋そのものも無くなってしまった。端の欄干から生成されていたアイアイマン達は橋下へと落下し、鉄の体で水没している。大怪人達も落下し、いずこかへ。今、その存在が確固たるものとして場にいるのは、対峙する巨大機構怪獣と、蝶女王の巨大紋白蝶のみ。
竜型機構怪獣の肩口には志麻が、巨大紋白蝶の上には蝶女王の姿が見える。
「ガンディーラ、子供の頃の夢はもう終わりにして、苦しい現実の時間を一緒に闘いましょう」
綺麗な言葉を口にしているはずなのに、実感が、志麻の魂の奥の本心が、言葉に乗っていない。そもそも、そんなものはあるのだろうか。あったのだろうか。今、志麻の中心にあるものは。
やがて機構怪獣が暴れ出す。
ガンディーラはしばし悲鳴のような咆哮をあげると、口を開き、巨大蝶めがけて青く燃え盛る大・放射火炎を吐き出した。
元・愛護大橋があった空間が、灼熱の煉獄に変わる。
求めていたのは、穏やかなる平和だったのか、全てを壊し尽くす破滅だったのか。
志麻の心は、バラバラになった。




