善の使者 使えない
これは前に書いた『善の使者 偽』の対となる話です。まだ読んで下さってないお方は読んで下さい!
あぁ…私たちは。
本当に踏み外したのだろうか?
あ、あの子困っている。助けねばっ!しかし…あと5分もたたず会議が始まってしまう!!いやしかし…助けねばぁ。
「貴様。時間の無駄だ。その荷物を私に貸しなさい。私の方が早い。」
「す、スミマセン。あ…済みませんッ!!!」
なんでだ。私は時間がないのに。反対方向の倉庫に持っていく資料だぁ!くっ。しかも…また泣かれてしまった。
ホントになんでなんだろう?あんな言い方しかできないのは。
私はみんなの笑顔が観たいだけなのに。
私は善の使者。
――にはなりきれなくて。
器用な人が好きだ。
自分にないモノをくれる人に…逢いたい。
拾って…何処までもついて行く。
あぁ。善の使者。
「また遅刻か?」
「す、スミマセン。ちょっと途中で安西さんの資料を横取りしてしまい…。」
「はぁ?何でよ。」
どう言い訳していいやら分からない。本当に…向いてない。会社勤めは。自分の事も出来ないのに人助けをしてしまうなんて…バカだッ!意外に遠くて20分も遅刻してしまったぁ~。けど。安西さんのためになれたならいっか。良い事したな!
「はぁ、まぁいい。あとで社長室に行ってくれ。」
「はい…。」
「今日限りで辞めてもらおう。」
「な、何でですか…?」
「分かってくれ…。この会社はそろそろ潰れる。だから一握りの優秀な社員以外は辞めてもらうことになった。」
私は某下着メーカーの跡取り娘だ。中学の時『敷かれたレールの上なんか走りたくないっ!』と言って家出したことがある。幼かったのだ。私はちょっとした冒険のように楽しんでいた。…心臓の弱い母には毒だったのは自覚していなかった。
「てめぇ!何処にいる!里枝が倒れたらお前のせいだ!ぁあぁぁああっ!里枝ぇ…。」
友達の家に掛かってきた電話は私の心を砕いた。『お前のせい』父の声からは母への愛が溢れていた。
幸い母は持ち直したが私の心は治ることが無かった。二度と。『お前のせい』とは言わせない。
私は母が倒れないよに。父に睨まれないように。『善の使者』になる。けど…自然になんてできない。なら…私なりの善をしよう。
「後は祐樹が継ぐから。」
前科のある私はこうなっても仕方がなかった。けど父は私に会社の重役のようなものを任してくれた。
私は父にこう言った。
「少し経験を積みたいんだ。ごめんけど違う会社に就職していい?」
父は寛大な様子で許可してくれた。…なのに。辞めろ、とはね。
何が善の使者だ!我儘娘じゃないか…。
「お世話になりました。」
「寂しくなるね。」
こんな私が居なくなっても寂しくなるんだろうか?嬉しい。
「今までありがとうございましたっ。」
さぁ。今日から暇だ。4月になるまでは父にも言えないし。酒屋でも行ってみるか。
暇だから連日行った店に見覚えある顔があった。
「あれ、お前…確か。うちの会社の人じゃないか?」
「誰?私は辞めさせられたんですけど?」
「済まん…私は不器用なものでな。私は一昨日解雇にされた。」
「うざいのよ。私は負け犬同士で傷を舐めあう主義は無いわ。群れたくないし。」
面白い子だ。横に座らしてもらおうかな。
「…なんで座るのよ。」
「思い出した。お前はうちの…今は私の会社でもなんでもないがな。の、有名な偽善者だ。」
「え…?何それ?」
「優しいんだけど、偽善者めいていると同僚が言っていた。」
そして私が羨ましいと思った子だ。というのは飲み込んだ。バカにされたと思うに決まってるからだ。
「不器用な子。そんなの普通本人には言わないわ。私だって。情報網は常に持ってたから、あなたの事知っているわ。バカみたいに人助けしてまわる子だって言ってたわよ。部長が。」
「ははは。気をつかうなよ。そんなの知っているはずないだろう?」
「言ってたわよ。私それ聞いてやな奴と思ったもの。」
気づいている人もいたのか。私のしている事が善だと。私の顔を見て彼女は呟いた。
「ホント、不器用な子ね。」
「あぁ。そう思う。けど、私は君のように器用な子に会いたかったのだ。」
善の使者になれないと思っていたけど。
たった一人でもいい。誰かに分かってもらえる善の使者になれたのだ。
「あぁ…私たちは。どこで踏み外したんだろーね?」
「あぁ…私たちは。本当に踏み外したのだろうか?」
今度はみんなに分かってもらえる善の使者になろう。
「また~?もういいんじゃないですかィ?」
「五月蠅い。黙れ。」
「善の使者を創りましょ。なんつってェ~駄作ばっかりじゃないですかィ。」
彼らは…そう、善の使者。
「自分が善の使者だと思った奴が善の使者なのだよ。善喜。」
「そ~でしたぁ。スンマセン。善々サン」
読んで下さりありがとうございます。最後らへんは気にしないでください。