1-8 人類の現実逃避と、ある二人のこと。
……散々今までグチグチと現世界批判をしてきたのだが、今回は思い切り私情だ。
現時点での家族関係やら友人関係やら……そして俺についてなどを少し話すことにする。
俺は井口翔也。
まぁ以前にも紹介したが、藍空高校に通う17歳間近の高校2年だ。
今までの話を聞いて、話して分かると思う……分からなかったら、もう何も言う事はない。
このデジタル化した社会が、世界が――大っっっっ嫌いだ。
冷たく虚しく悲しく下らない。 そんな世界を人は受け入れ始めている――いや、受け入れてしまった。
俺だけが異端で、俺だけが狂っているのかもしれない。 だとしても、それを生理的に受け入れることは断固として出来ない。
2000年を迎えるまでは、パソコンなんて情報をただただ集めることしか出来ないインターネットを趣味でする端末に過ぎなかった。
それがどうだ?
今では生活の一部となって、それなしでは生きることもままらない事態だ。
なぜ、ここまで世界を壊す? なぜ、ここまで人から生活を奪う?
俺には分かりっこないし、分かる日も絶対に来ない。
公言する。 俺は古臭いアナログ人間であると――
まぁいつも通り家を出て、学校へと走るガラガラガタガタ電車の発着する駅へと歩いていた。
「よぉー、翔也っ」
こそりこそりと近づいて、バシッっと不意打ちで背中を叩いてくる。
「いてて……んだよ、岬」
うあー、意外に力つええっての! 朝から背中がヒリヒリする……ちくしょうこの乱暴野郎め。
「翔也は今日も憂げだな!」
「お前はよくも元気だな」
はぁ……こっちは色々疲れてるってのに。
「お疲れか? どした?」
うん? すると、岬が心配気に俺の顔を覗きこんできた。
「いやさ……ギャルゲーをな、夜遅くから始めたらなんかハマっちゃっておうふっ」
い、いや背中痛いのに今度は腕か! 右腕かっ!
「ばーか、自業自得じゃねぇか!」
「てて……ふん、理解しているつもりだぐば」
こ、今度は腹か! 朝食ったものをリバースさせる気か!
「心配して損した」
「お、心配してくれたんか?」
「ま、まぁな」
「そりゃどうも」
「……なんかムカつくな、その言い方」
いや、少しは感謝してんだぞ? 少しだけど。
彼女(?)は椿原岬。
付き合いは結構長い、俗に言う幼馴染だ。
……一見魅力的に聞こえるその表現は、俺にとってはトキメキを一切もたらさない。
2008年……5歳を向かえた幼き俺は幼稚園でこいつと出会った。
彼女とは言い難く、なんとも男友達をバンバン作り、幼少期からなんとも男勝りだった。
屋内でママゴトをする女子とは裏腹に土煙浴びて、服や顔をあちこちに土汚れを作っていたのをよく覚えている。
……制定服はスカートで、確かにこいつも履いていたのだが、いかにも性格と短い髪やらで女っ気を打ち消すほどだった。
小学生になっても同じところに通う、そして相変わらずの男っ気。
見かけ倒しでは全くなく、スポーツ強し、腕力強し、握力強し――ようするに小1の女子とは思えない総合的な力の持ち主だった。
小学3年で6年の上級生を拳喧嘩で打ち負かしたのは一時期伝説になった程。
中学生になれば少しは女っぽく身体の変化が起きそうなものの、小学生時代をそのまま背だけ伸びて、顔が更に凛々しくなった。
それが為に女子からよく告白されていたという……なんて羨ましい奴め。 と、その頃からつるみ始めた相田が呟いていたのを偶然覚えていた。
そしてスポーツ万能で、なんでも軽々こなしたが……部活はどこにも入らず、俺と帰宅部エブリデイだった。
ちなみに、この頃になると俺が「男扱い」すると何かしら拳が飛んできたのだが、どうしたものか?
高校生になっては、もう何も言うまい。 顔をより精悍に背はグングン伸びて、それなりの身長である俺と並びそうな勢いだ。
そして散々言うが、背と比例して大きくなるはずの胸は一向にぺったり。 隣や他の女子を恨めしく睨んでいる時が度々ある。
背が高く、胸も無いのでより「男っ気」が勝る。 大げさかもしれんが、男が女装しているようにも見えなくない。
……そんなことを言った時には、拳と足が器用にも両方飛んでくるので注意を払わなければならない。
まぁ……こいつの付き合いはそんな感じ。
適当に笑い話して、適当に遊んで、適当に喧嘩したり――なんとも親友だ。
正直言ってここまでウマが合う奴はなかなか居ない。 それほどに貴重な親友だ。
そんな親友という関係が壊れてしまうのを俺は恐れていた。
こいつ――彼女がちょっとしたコトの片鱗を見せ始めた頃に。