1-5 人類の現実逃避と、ある二人のこと。
藍空市初ノ町。
一地方の町に過ぎないこの場所は、正直言って何の変哲もない普通な町である。
娯楽施設は乏しくレジャー施設は一切無い。
そんな町に1校だけ残った高校があった。
「市立藍空高等学校」
かつては高校が乱立していたこの町も、この藍空を残すのみとなっている。
そして「デジタル教育」を率先して推し進め、全校生徒300人中274人の「自宅通学化」が完了した。
その自宅通学化には勿論俺は入っていない。
274人が学校に登校しなくなったが為に、学校内は閑散としている――訳ではない。
電子パネルを通じて発せられる声がそこら中に響いている。
それに――
「ったく。 いつ見ても慣れねぇな」
「そう? まぁ背丈は合わせてくれてるし、いいんじゃない?」
俺と岬はそう話す。
何を話題にしているかと言えば、だ。
「電子パネルのくせして自立歩行とかどういうことだよ」
歩行というには語弊があるが、休み時間は学校中を歩き回った走り回ったりする。
電子パネルからは足代わりのポールが背丈ほどに伸びて、ボール先に供えられたローラーで自由に学校中を歩き回る。
もちろん、自宅の画面から本人が動かしているのは言うまでもない。
「なんかロボットスクールに来たみてぇだ」
「近未来的じゃん」
近未来過ぎて気持ち悪い訳でして。
電子パネルいっぱいにその学生の顔が映っているのも不気味すぎる。
たまに”人の姿”を保った方とすれ違うと、なんだか泣きそうになるね。
あ、ちなみに教師は一応学校に来てるので”人の形”云々は除外で。
授業風景はポールが戻されて板だけになった電子パネルが机の上で勝手に自立して黒板方面を望んでいる。
いやはや慣れない、慣れたくない、気持ち悪い。
俺こと「井口翔也」の説明をしておこう。
藍空高等学校2年3組で11月に17歳を迎える高校2年。
そろそろ進路を真面目に考え始める時期だが、この世の中が世の中だけに考えられない。
殆どが自宅通勤なんだもんな……やってられっか。
俺には兄一人、妹一人が居る。
兄は成人し21歳をむかえたのにも関わらず頼りない。
妹は今年15歳となって残りの中学生活を楽しみながらも我が家では結構しっかりしていたりする。
両親の説明は……特に特筆するものはないし、省略。
友人の中に「椿原岬」が居たりする。
なんとも色気が無く、見た目は”美少年が学ランを着ている”ようにも見えなくないから困る。
短髪で口調も男っ気ありまくり。 そして整った精悍な顔はなんともボーイッシュだ。
そして胸が無い、板。 本当に板。
遠慮とか配慮する必要が無いほどに「ツルペタ」なのだ。
いつも短髪でそんな体だから女子に見えないのだろう、カツラ付けてパッドでも入れてみたらどうだろうか?
もともと綺麗な顔ではある訳だし、案外イケるかもしれない……というのがこれまた友人の相田の談。
俺はこいつというか異性に興味がないので、カツラ付けようが増量しようが女装しようが俺が揺れ動くことは無い。
……いやまぁ、この世には「ギャップ萌え」というものが存在し、それに俺は振りまわされる訳だが。
それはまだまだ先の話にしておこう……少し情けないので多少は躊躇する。