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1-4 人類の現実逃避と、ある二人のこと。

この世は見事なデジタル社会。

それに全力で遅れを取っているのが我が家とも言える。


ここらでも未だに照合式でない玄関を持つのはこの家ぐらいで、典型的な鍵式。

かつては不用心だったそうだが、今ではこんな古い設備を専門にする泥棒なんぞ残って居なく、逆に安全な程だ。

時代の流れ以前に、時代が90年代後期で止まっているかのようにも見える。


テレビこそ薄型液晶……と言っても薄型のテレビ時点で現在は骨董品。

可視映像放映機「ホログラムTV」や紙ほど薄さに全て集約された「ペーパーTV」などが争っていて。

既に過去の遺物もとい異物となった”形を持つ”テレビは骨董品レベルまでに消滅した。

特に俺の部屋に残るブラウン管は骨董品というかもはや化石。 動いてるのが奇跡に感じてしまう。

キッチンもかろうじてガスコンロで、積年の汚れがこびりついて変色している箇所が有って時代を感じさせる。 


書籍そのものは大半が消滅し、薄型電子パネルにダウンロードしてから読む「電子書籍」が一気に普及した。

俺の自宅にカビの臭いを漂わせる本棚も、もはや言うまでも無い。


時代の流れに逆行し独自の道を爆進する我が家は、俺にとっての誇りだ。


 

  

 ――ジリリリリン。


「……うあぁ」


 俺の朝は年代物のベルが鳴る目覚まし時計によって叩き起こされる。

 睡眠妨害装置の原始的なモノで、適当にバザーで買ってきたものだ。


「6時30分か」


 まぁ、いつもの起床時間だ。 食って起きて登校……なんて簡単には行かない。

 俺の起きて最初の日課はあることから始まる。


 まずは廊下に出て少し左に向かって歩いた先に目的はある。

 ――ドンドンドン、ガンッ。


「兄貴ー、起きろや」


 兄貴を叩き起こすことから始まる。

 まずはドアを強くノックして、なんとなくドアを蹴るのもいつものこと。

 

 10秒経たぬ間に部屋主は現れた。


「……翔也、毎朝ありがと」


「なら自分で起きろや。 社会人だろ?」


 毎朝弟に起こされているこいつは一応だ。 そして建前は兄だ。


「……ごめん」


 気弱で、ひ弱で、無口で人見知りなノッポな兄貴こと”井口直人”だ。


「早く起きた、起きた」

 

「うん」


 そう言って男兄弟が二人で歩いていく先には”リビング”なんて洒落た名前では決して呼べない居間がある。

 居間と言っても食卓も兼ねるこの家はなんとも古臭い。 だがそこがいい。


 そして出迎えるは――



「あ、お兄ちゃんズおはよー」



 俺の可愛い妹こと”井口真奈美”だ。

 

「おはーす」


「おはよう」


 真奈美は食卓に、朝食を準備して正座して待っていた。  

 ちなみに朝食は当番制で俺と真奈美が交互に作っている。


「お兄ちゃんズ、まずは顔洗って来てねー」


「へいへい」


「はい」


 相変わらず出来た妹で、関心するね。

 近頃の若い者と来たら……というフレーズ(死語)を玉砕するほどにしっかりしている。

 

 てーことで、顔洗い。

 一応兄貴を立てて先にどうぞー、まぁこれが立てているかどうかは少し疑問だけども。


「顔洗いしゅうりょー」


「終わった」


「よろしい! じゃあいただこう!」


 そう言って制服の上に来ていた生活感あふれるエプロンを外す。

 そして3人揃って――


『いただきまーす』


 ここだけは3人共通だ。

 

 ちなみに母親父親は居るけど、あんま出居ない。二人とも会社が遠いので早朝出勤なのだ。

 決してギャルゲにありがちな「両親は海外先に赴任して当分帰って来る様子はない」というこではない。

 ちゃんと夜には帰ってきて、家族だんらんの5人の食卓が展開される。


『ごちそうさまでしたー』


 朝食が終了すれば歯磨くなり、ある程度行く準備を整えてから――


「じゃあ出るぞー 電気とか消したかー?」

 

 と、俺が家の鍵をキラリと光らせて兄と妹を急かす。 これ日常茶飯事。


「はーい」


「うん」


 二人が出るのを見計らってからガチャガチャガチャンと鍵を閉めて、仲良く3人で駅に向かう。

 これが我が家井口家の朝だ。


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