1-14 人類の現実逃避と、ある二人のこと。
『昨日午前十時頃○○県△△市××町の二十代前半の男性が自宅で餓死していることが、近所の方の通報で発覚しました。死後数十日が経っていることが発覚しており、この男性も”セカンドデイズ”というオンラインゲームのプレイヤーであることから”生命維持装置の機嫌切れによる停止”が主な死因と考えられ、以前までの餓死事件とも全くもって同じケースと思われます。しかしこの男性は違法パッチが自宅から押収したパソコンから発見されており、ゲームの強制終了プログラムが起動しないよう故意にパッチを使用して設定していたということが今日の調べで分かった。セカンドデイズを運営するNEXT FEELは「生命維持装置の停止よりも前にゲームは強制終了されるようになっており、このセカンドデイズが要因で餓死事件に至るとは考えにくい」「今後このような事件が起きないよう、プレイヤーの査定や更なる対策の行使を検討している」と発表した――』
以前見た時には失踪事件だった。それで今度は餓死事件だと。
自分で調べてわかったことで、ニュースの通り失踪事件こそ真相は明かされていないが、餓死事件の大半はゲームプレイをする上で基本的に付けることが義務付けられている「生命維持装置」は一週間が使用限度で、期限切れの前にゲームが強制終了されて現実に意識が戻るように設定されているらしい。
しかしそれを嫌うプレイヤーはもちろん存在しており、非公式で強制終了プログラムが起動しないよう設定する違法パッチが配布され溢れかえっているとも聞く。
調べれば調べる度に明るみになるのは、その事件の多さであろう。失踪・餓死合わせて一〇〇〇件弱存在というのだ。
あまりにも多すぎる。
そうだというのに、世間はその原因の一つであろうセカンドデイズを一切糾弾しない。
それが心底気持ち悪く思えた。
実際ゲームという枠組みを超えて、職に一部は学に幅広く使われているのは確かで、このゲームの登場で様々な商売なども行われているらしく世界への浸透度も高い。
十分に貢献してもらってるこのゲームに頭が上がらない、ということなのかもしれないし。あるいはゲーム会社の圧力か。
以前にも調べて知っていたことが大半だが、最近になってパソコンでさらに調べた。
最近のあまりにもデジタルデジタル化した世界の傾向は個人的にはに芳しくないのだが、いくらなんでも情報端末の一つは持っていないと暮らしてはいけない。
電子パネル一枚と、古典機としか言いようのないMOCのパンサー「こんな厚い画面でこのスペックかよ」とこれは友人に鼻で笑われた。それでも実際に動くのならば、俺にとっては何の問題もない。
……最近調べたのは、まあなんだ。岬が始めたからな、色々と教えなきゃいけないからな。俺も一般知識ぐらいは必要だろうと、改めて勉強したまで。
一応言っておくが、一度ハマると一直線な岬を案じているわけではない。決して。
「……にしても」
岬があそこまで変わるとは。
何かを合成した、またはキャラクター・記号化した容姿を自分のプレイヤーモデルにすることは出来る「キャラモード」。
それとは別に実際の自分の容姿をモデリングしたものをプレイヤーモデルとすることも可能だ「リラルモード」
ちなみに岬は後者で俺は前者(前髪で目元の隠れた中肉中背の男子モデリング)、よっぽどのナルシストでしかそんなことしないだろうと思われがちかもしれいないが、職や学にも使われる以上本人と一発で分かる為には現実の容姿が一番。そういうことから存在するモードだ。
岬の容姿をモデリングした上に、装飾とも言える「長髪」「豊胸」「服」を追加設定している。
だから、岬に違いなく。たとえ髪を伸ばそうが、胸が増えようが紛れもなく岬だった。
だから俺は……その、トキメいてしまった訳で。何度も言うようだが、ギャップ萌えってことだな、うん。
「現実でもすりゃいいのに」
そうすりゃモテるだろう、少なくとも今までの女子ウケからは変わるな。
そうメールを送ったが「む、無茶言うなよ。バカっ!」と怒られた。乙女心はよくワカランと、初めて岬を乙女と・女性と認識することにした。
その後、岬は案のハマった。
度々セカンドデイズに来るよう言われた、そこでの彼女は現実と対極をなすほどに乙女乙女していた。
まあ、時折いつもの岬の片鱗が見えるのが少し笑える。
「あー、椿原もネット通学になったのか」
更に岬は途中からネット通学になった。ゲームを始めてから数日後のこと。
「てことは、井口だけだな」
岬曰く「あの格好見せた後で、直接顔を合わせるのは……なんというかな、悪い」気まずいってことなんだろうか?
もしかして、セカンドデイズとのギャップで落胆してほしくないとかそんなことじゃねえよな?
じゃあ家でずっとヘルメット付けてるのか? と聞くと、
『アタ……私はご飯も食べてるしお風呂にも入ってるし、大丈夫だって!』
その時はヘルメット外して退出するしかないしな。と納得しておく。
『大丈夫だって! それより、これ似合う? 結ってみたんだけど』
「悪くないな」
可愛い岬と会えるのは決して嫌な事じゃない。でもこの画面を通じて出会っているのが次第に虚しくなりつつあった。
そして岬がセカンドデイズのプレイを始めてから一週間、その日は日曜日だった。そんな時、俺の古びた暑さが一センチもある携帯に電話がかかってきた。
「もしもし?」
『ショ、ショウヤ! 大変なんだっ』
電話を出ると岬が凄い剣幕と焦りを交えた早口でまくしたててきた。
「何かあったのか? 風呂入り損ねて臭いが気になるとかか」
『そうじゃねえんだ! あのな――』
それを聞いて携帯を滑り落とした。
まさか、いやそんな馬鹿な。こんなことがあってたまるか、いつも岬とは話せていただろ?
学校にも来てたし、風呂はまだしもヘルメットを外して飯は食ってるだろ? 何の不具合だ? 何が起こってる?
そう、岬はこう言った。
『現実に戻れない』と。