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1-13 人類の現実逃避と、ある二人のこと。

久方振りに続きです



 俺はギャルゲーでしか起動しないパソコンを、アイツのせいで動かすハメになった。 


「(”セカンドデイズ”で待ってるって……どういうことだよ)」


 セカンドデイズに付いてはそれなりに知っている。

 主にアンチテーゼの意味をこめて、徹底的に調べただけで、かなりに毛嫌いしているものだ。


 セカンドデイズは要するに、自分を二次元の世界へと飛ばすゲームだ。

 その物語背景やキャラクターは自分の好きなゲームから持ってきて、その中で主人公になれる。

 

「現実逃避もここまで来たか」


 もともとゲームは娯楽の他にも、現実から逃げる為の口実でもあり、手段の要素も持ち合わせていた。

 それでも一部の人々に限った話で、あくまで何らかの事情で友人や同僚の関係を築くことができなかったり、社会に適合出来なかったりとした者が鈍く輝く為の桃源卿のようなものだったのだ。


 それが今では、殆どの人がそれを行っている。

 この日本だけでも、パソコンを持っている人の九割がそれをプレイしているというのは現状。

 老若男女問わずとはこのこと。閉鎖的情報社会の現代ではあまりにも迎合されたゲームだったのだ。

 

「……しかし」


 ミサキには悪態を付き過ぎた。耐性の無い者に言ったら殺人願望や自殺願望が現れるほどだと、言い終えた後に理解した。

 焦っていたとはいえ、あれはない。

 ミサキはいくら友人関係でも、あれだけ言われて傷つかない訳が無い。


「……仕方ない」


 なんにせよ、呼ばれたからしょうがない。知らん振りはいくらなんでも出来ないものだ。

 俺は調べる為にも登録を済ませていたこともあって、すんなりとゲームを起動した。


「えーと……プレイヤーコードね」


 ミサキのメールに書かれていた”プレイヤーコード”と呼ばれるプレイヤーとの交流をする為のコードを入力すると――


「ミサキ……だな」


 プレイヤーコードが間違っていないか不安だったが、該当したハンドルネームは”ミサキ”だった。

 そのハンドルネームの文字部分をクリックするとプロフィールの欄が現れる。

 そこにはミサキそのものだろうプロフィールが記載されていて、このプレイヤーが改めてミサキであることを確認した。

 ちなみに俺のハンドルネームはショウヤでそのままだった。

 プロフィール欄の下にある「この方へメッセージを送信」というところをクリックし、メール機能が立ち上がり入力。


『題名:ショウヤ 内容:来たんだが』


 そして送信。

 すると三十秒もしない内に、メッセージが返ってきた。


『題名:岬 内容:アタシのところまで来て。パスはchange』


 アタシのとこぉ? プロフィール欄には「この方の居場所への移動」の項目をクリックして、パスワード入力を行って――


「来たんだ……が!?」


 このゲームは、様々な視点でプレイヤー動かせる。

 俯瞰ふかんで見渡すありがちなゲーム方式から、プレイヤーの目と同じ位置で視点が移動するギャルゲー方式。

 俺は後者を選択していて、すぐさま現れたのは――


 ワードチャットとボイスチャットの二つが行える機能を使って、俺はワードチャットを選択して文字を叩く。


『ショウヤ:ミサキか』

『うん』


 ミサキはボイスを使っていて、その声はミサキと瓜二つ。


『ショウヤ:本当にミサキか?』

『そうよ、アタシよ』


 口調までそっくりだった。

 しかし容姿は――


『……ど、どう?』


 そこにいたのは紛れもない”女の子”だった。美少女と付いてもいいほどに、可愛らしい女の子だった。

 しかしミサキでもあった。

 髪も伸ばして、胸にもパッドを入れて、服装もいつもの男が着るようなものを止めたミニスカートで。

 それでもミサキだった。

 さっきのプロフィールも声も口調も――


 ミサキだったのだ。

 画面に映る、確かに彼女な彼女は――見違えていた。


「……困るな」


 可愛いじゃねーかよ。

 

 そして俺は、ときめいた。

 初めて胸が熱くなった。

 ギャルゲーにも色々と可愛い女の子はいる。それでも可愛い止まりで、何も感じなかったのに。


 今目の前で、俺の動向を探るように上目遣いで覗いてくるかつての男らしい彼女に。

 確かに目の前にいるのがミサキだという事実が、痛恨だった。


 というか俺は――その一瞬で惚れてしまったのかもしれない。



* * 


 

 ここまでが冒頭の全て。

 そして、俺のせいで彼女が失われてしまう序曲。


 この世界を恨み、俺に失望し、彼女にきっかけを作らせてしまった後悔。


 そう、この時から始まってしまった―― 

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