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1-12 人類の現実逃避と、ある二人のこと。


 セカンドデイズというゲームは知っていた。

 自分をゲームに投影することが出来る。ゲーム内ではなんでも好きな事が出来る。

 そんなことは最早一般常識で、余りインターネットをしないアタシでも知っていた。


「……そんなにダメか、アタシは」


 アタシの容姿、そんなにダメなのだろうか。それほどにアイツはアタシを女として見てくれないのだろうか。

 アタシの体が女らしくないことは自覚している。口調も髪型も性格も……普通の女子とはかけ離れていた。

 いつでも戻す機会があったのかもしれない、けれどアタシはそれに慣れ過ぎていた。

 中学生頃は男子とサッカーボールを蹴ったり、野球でバットを振り遊ぶ日々。それがアタシには合っていて、とても楽しかった。

 性格は大雑把で部屋は散らかり放題、好きなマンガは少年漫画で……日に日に男っぽさは増していた。

 アタシが久しぶりに小学1年の頃の写真を見てみれば、長く伸ばした黒い髪に水色のワンピースと、しっかりと女の子の格好をしていたのは心底驚いた。

 

「あの頃のまま成長してたら……アイツはどう思っただろうな」


 思った。もしも、と。そうなれば、アイツは――


「一人の女性として見てくれたのだろうか」


 アタシは、アイツに好意を寄せている……ようするにアタシは翔也が好きだった。

 アイツと話していると楽しかった、話題に尽きずに長く長く話し続けていた。

 しかし最近、アイツはゲームにハマり始めた。「セカンドデイズ」なら時代の流れでよく分かる。

 だがアイツは何故か「ギャルゲー」というものに没頭していたのだった。

 アイツは「女の子よりもシナリオに興味がある(キリッ」と言ってはいるが。


「ぜってー、女だって」


 なんでギャルゲーの必要性があるんだ、と。口では何度も言うが、アイツの言う事は嘘にしか聞こえなかった。

 アイツはアタシには女として目もくれず、二次元の女の子に大きな興味を寄せている。そう見えて仕方なかった。

 そう思い始めると、アタシは寂しくなった。悔しくなった。羨ましくなった。

 アイツの心は……画面の中の女の子に向かっている。……アイツが楽しそうにゲームの話をする度に、アタシも同じように見てほしく思えてきた。

 可愛いとか綺麗とか……画面の中の女の子にはそんな感情を抱いているのかもしれない――それにアタシは嫉妬し始めていた。

 だから、最近アイツがゲームの話をする、ゲームをしているのを見ると気分が良くなかった。

 そんなことをしているんだったら、アタシと話そうよ――思うだけで「アタシのキャラじゃない」と諦め言うのを止めた。

 日に日に気持ちは大きくなっていき……ようやくアタシは気づけた。


「アタシはゲームに嫉妬していた。アタシはアイツが好きだった」

 

 沢山の日々を過ごして、沢山の事を話した。その時からゆっくりと、雪が積もるようにアイツへの思いが募っていった。


「料理の勉強もしたのになあ」


 指の絆創膏みて思う。スポーツの一つや二つでかすり傷一つ付かないアタシが慣れない料理で指を何度も切っていた。

 不器用な事も嘆きつつ、自分で材料を買い溜めて、慣れないネットでレシピを検索して、アタシは食べられる程に料理の腕をあげた。


「だけどアイツはよお……」


 何度も疑われ、からかわれ、虚しくなった。でも、アイツがアタシを苛めたいからそんなことを言っているのではないのを知っている。

 いつもの日常で、今までの日常。それはもうよくわかっていた。けれど、最近のアタシは少し辛かった……のかもしれない。


「でも……食って貰えたし」


 それに、美味いとも言ってくれた。その時アタシはすごくうれしかった。

 褒めてくれて、美味しそうにアタシの作った弁当を頬張ってくれて――


「すげえ、嬉しかった」


 また思いは募る。そして思う、アイツにとって好きな人はいるのかと。

 もしかしたらアタシが知らないだけで、好きな人の一人や二人いるのかもしれない――そう思えば思う程、気になっていった。 

 だから、アタシは聞いてみた。好きな人はいるのかと……答えを待つときには胸が張り裂けそうで、アタシはアイツへの思いの強さを思い知っていた。

 

「……貧乳ねえ」


 自分でも触ってもあまりの貧相さに涙が出そうになる。あ、これは……アイツが言う程にはない訳が無い――そう思っていた。

 しかし風呂で、見渡すたびに……切ない平原だった。いつも反論ばっかしていたけれども……これはなあ。


「でも……アイツに言われると、な」


 胸が痛くなった。やっぱり辛かった。


「アイツはきょ、きょ巨乳なんか!?」


 あれだけ言うならそうかもしれない。じゃあアタシは――

 アイツが好きな女が居ないということを聞いても心の底からは喜べなかった。その前にアイツはアタシを「話していて楽しい友人」と言ったからで。

 分かっていたけれども、アタシに気持ちは一切向いていないことを思い知ってしまった。

 そして数日後アイツの家をを訪れ、少しの口論の後にアイツはこう言った。

 

『ふん、なら俺をトキメかせて見ればいい』


 ……トキメかしたら、アタシを女だと認めるのか?


『さぁな』


 ……わかったよ。

 ――だから、アイツをトキメかせたかった。絶対に、必ず。


「ええと、これを付けて……」


 パソコンに繋げられるヘルメットのようなものを用意して、ダイヤルを回し現実への帰還時間を設定する。

 あらかじめダウンロードした「セカンドデイズシステム」のソフトを起動して。

 自分の顔をパソコンに備え付けられたカメラで撮影する。そして名前や性格や容姿を入力すれば――


『ようこそ、セカンドデイズへ』


 ゲームサイトへアクセスし。


『セカンドデイズシステムをご利用になられますか? はい/いいえ』 


 ”はい”をクリック。


『初回起動を1時間に設定の上で、頭にメディ・サポートをセットしてください』


 時間は設定してあるし……頭に付けて。


『準備は宜しいですか? 規定事項をご確認の上でenterキーを押してください』


 規定事項を早読みし、承諾にチェックを入れて――


「起動、っと」


 アタシは、こうして「セカンドデイズ」というゲームへ足を踏み入れた。 


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