1-11 人類の現実逃避と、ある二人のこと。
ギャルゲかよ。
ちなみに歩きながらも確実に歩を進め、駅へと辿りつく。
もちろんこと無人駅で、定期を改札にかざして駅構内へと入った。
それまでは岬の発言に関しては答えていなかった。
「………………」
「な、なんだよ……さっきから黙りこくって」
「いやさ、お前。何か悪いものでも食べたのか? 拾い食いはいかんぞ」
キノコこそ最近は見かけないが、そこら辺に生えてる野草でも貪ったのだろう。
なんてこった、まさか岬がここまで残念な人だったとは――
「だからのアタシのキャラ設定はなんなんだ!?」
最近食べさせてもらった弁当は確かに美味かった。見かけも良ければ味も良い。
しかしなぜに急激に料理の腕をあげたのか……そうか
「……料理の腕をあげたのも食いしんぼう故か」
「ちげーよ! お前が喜ぶとおもって……あ」
……ええと、こいつは何を口走りやがったのだろう。お前が喜ぶと思って……? 俺の為に? はい?
そんな俺がよくやってるテンプレートなデレ台詞を披露してしまうだとっ!?
「お前岬じゃないな……何者だ?」
俺の思うに、岬に化けた何か……しかし、俺に近づく意味があるのだろうか。
俺の家には虚しくも資産はないし、有能な妹と残念な兄しかいない。いったいこいつはっ……!?
「ふふ、バレた――じゃねえよ! 正真正銘の椿原岬だっ!」
「証拠は……その胸の平野っぷりが、ぐふっ」
怒りか顔を赤くした岬のエルボーが俺の腹へと入り、思い切りむせかえった。
いってぇな! 今回は力加減なしとかまったく……痛いって。
「わ、悪かったな! ひ、ひひひひひ貧乳でっ!」
貧乳というより、それは無乳だ。ギャルゲのヒロインでもあそこまでは、ない。
そして傍から見てもさらしを巻いているようにも見えないし……本当にないんだよな。
哀れむような切ない目をして俺は答える。
「悪くは無い。別にどうでもいいことだしな」
実際ただの掛け合いの一環で、そもそも女性に興味が殆どない。
それは変わらないことでもあり、ギャルゲ・エロゲの熱中のし過ぎで見飽きてしまったことにより一層増している。
「じゃあネタにすんなよ!」
「いや、なんというか癖で」
コンプレックスを貶すのは良くないことだとは思うが、ここまで反応してくれると……な。
反応があるから面白い、なんという最低なイジメ理論だが。
親しい仲ということを差し引くと、なんとただのじゃれ合いに。
あっちはあっちで「このギャルゲー廃人」などと褒めてくるので似たようなものなのである。
「……そんなにアタシはダメなのかよ」
「え」
今までのテンションはどこへやらで、一気に声が小さくなり、不安を表情に浮かべる岬。
それは今までに見た岬よりも儚く、ゲームのやりすぎと言わんばかりに消えてしまいそうに俺にはみえた。
「お、おい……らしくないな、しおらしくするなんて岬らしくない」
それは容姿こと男だが、僅かに女っぽさが垣間見えた。
今までの粗気味な性格を見てきたこともあって、今の岬は明らかに変だった。
「なあショウジは……ここまで男らしい女は嫌いなのか?」
嫌い……ねえ。
嫌いというのには、いったいどのような意味を示すのだろう。
”女性に興味がないのにギャルゲーを買う”という矛盾した性格故に少し考えてしまう。
それはライクとしてなのかラブとしたなのか。正直ラブと言われても期待に答えることは出来ない。
しかしライクなら――
「いや、別にいいけども。話しやすくて楽だからな」
「そうなのか……」
その時の岬は安心したような、残念なような複雑な表情を浮かべていた。
……意味わからねえな、最近のコイツはなんなのだろうか?
「それで、好きな奴ってのは――」
「いねえよ?」
「そ、そうか……」
今度は少し嬉しそうに微笑んだ。……最近の岬は百面相過ぎるだろう。
料理をわざわざ作ってきたかと思えば、好きな相手はいるか聞いてきたり。
何か、彼女が変わり始めていた。彼女の中での、気持ちが心が。
そんな彼女の変化に俺は少しずつ戸惑っていたのも事実で。
そうして冒頭へと戻る。彼女が家に来て、俺があまりに言い過ぎたことを悟った時へと。




