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1-10 人類の現実逃避と、ある二人のこと。


「アタシが今日弁当作って来た」


「なっ」



『ざわっ』



その時、クラス中の電子パネルが振り返る。うげぇ気持ちわりい……常なら思うのだが、この現状でそんなことを思う余裕などない。


「どうした岬! 熱か! 熱なのかっ! それとも……もはや手のつけようの無い――」


「バ、バカッ! アタシは何にもおかしいことはねぇよ!」


「嘘だね、おかしい奴は自覚がないからこそおかしい。皆そう言うものだ」


「……殴るぞ。と、言いたいところだが――」


殴らない……だと! まさか殴るよりも非道い攻撃をっ!?


「早まるなっ! 悪かった! 俺が悪かった! 命だけは許してくれ!」


「何の話だよ……殴る前に食え」


「へ? 毒物を、か?」


「……これ見て毒物と言えるならアタシの信用が地に堕ちたか、お前の眼が節穴だな」


「それは勿論岬の信用が――」


<ドカバキドカドカ>


「っいてぇ」


思いっきり殴られた。こいつ力強いからな……手加減したんだろうけど、確実に数か所はアザになったな。 


「ほら、早く食えよ」


「そんなもん……っ!」


岬の弁当箱の中身を見て俺は驚愕する――



「マトモ……だと!」



「マトモで何が悪い!」


「いや、な。 まさか、こんなコンビニで買ってきて詰めてくるとは」


「お前は本当に失礼なことしか言えねぇのな! アタシが1から作ったんだよ!」


「……このソーセージもか?」


「揚げ足とるんじゃねぇよ……」


見た目は至極普通というか良かった。弁当箱は小さめで、中身は隙間なく埋められている。

よくギャルゲなどで見る「女の子がつくるお弁当」そのものだった。


おかしい、何かがおかしい!


「さぁ、食え」


「え、ええ……」


「く・え・よ」


「あ、ああ」


脅されてしまったが為に仕方なく箸を取る。一体どんな劇物が入っていることだろう。

こういう家庭的でない女……でいいのか。女が作り出す料理は「ありゃりゃ、やっちゃったー☆」と大抵、炭がオカズとなるのだが。

見てくれは本当に普通だ。調理もキチんとされているようだ。じゃあ……見てくれだけの見かけだ倒しタイプか!

それが一番口の中に入れた時点でのショックが大きい! ちくしょう、どうすればこの――


「早く食え!」


「は、はいぃ」


岬怒りっぱなしである。顔が真っ赤だ……そんなに食べてほしいのか、この危険料理を。

独断と偏見で酷いことを言っているようにも聞こえるが、長年付き合ってきた俺がコイツの家庭的な要素を見たことが無い。


しかし、男である以上は覚悟を決めて口に運ぶしかない。


さよなら、俺の高校ライフ。来世ではもっとギャルゲが出来ますように、一つ卵焼きを――ぱくっ。

もぐもぐ……もぐもぐ……っ!


「ど、どうだ?」


「っ……味が少し濃いけど、美味いぞ?」


「そ、そうか! 良かった!」


「!!」


コイツはなんとも不思議な笑顔を作った。……一瞬だけだがこいつが女に見えてしまった。

俺も幻覚を見るほどに疲労困憊しているのだろう……しかし、食べた卵焼きは塩分が少し濃いだけで焼き加減は良かった。

意外どころか、奇跡を目の当たりにした気分だ。


「ほら、もっと食えよ」


「ああ」


箸が進んだ。味は全体的に濃いがご飯と一緒に食えば丁度ベストバランスになる。

最近では日常化が進んだ合成バランスフード(栄養が偏らないように調整されたブロック状の主食の事)なんてものより数十倍美味い。

ま、まぁ! 俺の作る料理や妹の料理には負けるけども!


しかし意外であった。岬にこんな一面があろうとは。

そして俺が弁当を食う様を、何処か嬉しそうに見ているのがかなり不思議に思えた。



 片鱗2



午後授業終了の放課後の出来事。

いっつも通りの俺とミサキ以外は電子パネルなカス空間が放課後の廊下では健在――

……と、言いたいところではあるが廊下は虚しく寂しくひっそりと閑寂が包み込んでいる。

その理由も「電子パネルが家へ帰る必要が無い」訳で、授業が終われば家で通信を切断。

通信の切断された電子パネルは揃えて、自分の机へ直立、シャットダウンした上で机上の板に成りはてる。

傍から見ると至極不気味かつ不快な光景で、本数の少ない夕の電車目がけて学校から逃げるように下校する。

相変わらず外は不気味なほどに人気は無く、通信販売の荷物を積んでいるであろうトラックが東奔西走している。



「なぁショウジー」


「んー?」



「お前って……好きな奴とか居るのか?」



「えっ」


この展開は――!?


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