言い切り屋さん
1
とある噂を私は風の流れで聞いたのだ。
「言い切り屋さんって知ってる?」
「私しってるよ。あそこ評判良いよね。私もこの前行ったんだ。」
その後、私は自分が通う高校に貼ってある言い切り屋さんのチラシを見た。
そのチラシに書いてあることを簡単にまとめると、言い切り屋さんで悩みを相談すると、そのお店の人がアドバイスをくれるらしい。
悩みは何でも相談できて、しかも無料。
評判が良いと噂で聞いていたので、私は未だに解決できていない悩みを打ち明けようと思った。
チラシに住所が書いてあったので、その場所をスマホで調べた。
その場所へ向かうと、言い切り屋さんはボロボロで山小屋のような見た目をしていた。
中に入ると私より明らかに年上の大人のお姉さんがいた。
「あら。いらっしゃい。見ない顔ね。もしかして初めて?」
「は・・・はい。初めてです。よろしくお願いします。」
私は彼女に軽く自己紹介をした。
「あら、いいのよ。そんなかしこまらなくて。とりあえず、まずは席に座って。」
「はい・・。」私は席に着いた。
四角い机を挟んで彼女は私と向かい合うように席に着いた。
「本題に入る前にまずはこの店について話すわ。この店は私が趣味で始めたもの。つまり、仕事ではなく趣味なのでお代は一切貰いません。」「はい。」
「それともう一つ。私はね、言い切るのが大好きなの。」
「は・・はい?」
「世の中って本当に複雑で、白か黒かで判断することができないでしょ。私はね、それが嫌なの。白か黒かで判断したいの。つまり言い切りたいの!だから私は私が白か黒かで言い切れる空間を作ったの。それがここ、“言い切り屋さん”よ。」
私は思った。
この人めっちゃ変な人だと。
私は彼女に悩みを話した。
「私は、すごくネガティブで余り良くない事ばかり考えてしまうんです。」
私は私自身がネガティブですぐに落ち込んでしまう事や、私のネガティブな発言が周りの空気を悪くしてしまった事、今までポジティブになろうと努力したけど結局意味がなかった事を話した。
「私・・・どうすればネガティブを辞められますか?もっとポジティブになれますか?」
彼女は答えた。
「あなたはそのままでいなさい。」
「え?」
「世の中はね、苦しいことや悲しいことで溢れているのよ。人間にとって都合の悪いもの・・・それがこの世界なのよ。そんな世界でポジティブになれる人間は存在しないの。」
「はぁ・・はぁー?」
え!?何言ってんのこの人。
私の話聞いてた?
「いや・・・でも私以外の人は皆ポジティブなんじゃ・・・?」
「ほかの人は分からないけど、あなたの言うポジティブな人間がいた場合その人間は私が思うに楽観的なバカ、もしくは現実逃避している弱い人間、それかサイコパスよ!だからあなたはそのままでいなさい。そしてこれからももがき続けなさい。」
「えぇ~!?」
なんかこの人とんでもないこと言ってる。
確かに私はこれまで様々な方法を試した。
自己啓発本を読んだり、YouTubeでポジティブになるための動画を見た。
そして実践もしてみた。
けれど結局私にはあまり効果がなかった。
だから私は最終手段として言い切り屋さんに行こうと思ったのだった。
彼女は言う。
「ただし、皆の前でネガティブな発言はしない方がいいわ。なるべく心の中にとどめておきなさい。それが上手く生きるコツよ。」
彼女と話し終えた私は、彼女にお礼を言って店を出た。
私の心は、なぜか以前より少し軽くなっていた。
2
暗い顔の少女が一人で言い切り屋さんに来ました。
「あの・・・すいません。今やっていますか?」言い切り屋さんのお姉さんは言いました。
「えぇ。やっていますよ。どうしました?」「私・・・家を追い出されたんです。」
「なぜですか?」
「・・・。」
「とりあえず席についてください。何か飲みます?」
「はい・・・ありがとうございます。」
「すいません。なんか飲み物なくて。水道水だしますね。」
しばらく沈黙が続いた後に少女が話し始めた。「あの・・私家族と喧嘩してしまったんです。」「どうして喧嘩したんですか?」
「私実は推しのVチューバーがいるんです。彼にスパチャを送ったんです。」
「スパチャとは?」
「スーパーチャットのことです。Vチューバーの配信中にその人に文字でメッセージを送ることが出来るんです。そのメッセージと一緒にお金を送ることをスパチャといいます。」
「どうしてお金を送るのですか?」
「推しのVチューバーに私のメッセージを読んでもらいたいし、彼に喜んで欲しいからです。私は彼にお金を両親に内緒で沢山送りました。私のお金だけではなく、両親の口座からも。それが両親にバレて家を出されました。私は辛い時、苦しい時に彼の配信を見て救われました。私は彼が大好きなんです。私はこれからどうすれば良いでしょうか?」
言い切り屋さんのお姉さんは答えました。
「まずは私と友達になりましょう。」
「え?」
「あなたは心のどこかに寂しさを抱えています。だから画面の向こう側にいる、素性も分からないし、実際に会って話したことすらない人に執着してしまうのです。」
少女は言う。
「でも私が彼に救われたのは本当です。学校で嫌な事があった時も彼の配信が私の唯一の心の支えでした・・・。」
「そんな彼に認知されたくて、メッセージも読んで欲しくて、そのために彼にお金を送ったのですよね。」
「・・・はい。」
「人間は寂しがり屋です。孤独を感じると、それを忘れるために何かに依存してしまう、そんな生き物です。だから、私があなたと友達になります。相談したいことがあったら、私に聞いてください。もちろん私はあなたから決してお金をとりません。ラインやっていますか?」
「はい?もちろんやってます。」
「ライン交換しましょう。」
「・・・よろしくおねがいします。」
少女は言った。
「あの・・・私家族に謝りに行きます。あなたは私を責めなかったけど、私は最低なことをしました。親の金を盗むなんて。あの・・・今日はありがとう。友達になってくれて・・・。でも良いんですか?こんな初対面の人と・・・出会ってすぐに友達になるなんて。」
「ええ、私友達少ないんでむしろ好都合というか。」
少女は思った。
(あっ・・・確かに冷静に考えたらこの人明らかに変な人だし。)
少女は少し笑った。
「ちょっと、何がおかしいんですか!?友達少なくても別に良いでしょ!私の生活は充実していますし・・・。」
3
「ここが言い切り屋さんですか?」
「はい。」
四月の桜が散る頃、言い切り屋さんに一人の高校生の男が来ました。
「まじか。やべぇ!ホントにあるのかよ。」
「ええ。ありますよ。何でも相談してください。」
「いいんすか!?じゃあ相談しますね。俺今好きな人がいるんですけど、どうすればその子と付き合えますか?」
「・・・まあ、とりあえず一旦座りましょうか。」
「あ、確かにそうっすね。」
「あなたの好きな人と、あなたはどのような関係なのですか?」
「高校の同級生です。クラスが同じで。いや~実はまだ一回も話したことなくて。一目ぼれって奴です。雰囲気が良くて、かわいくて、時々目が合うとドキッとするんですよ。これが恋なんだなぁ~って思いましたね。」
「なるほど・・・そうですか。で、その子に話しかけに行ったのですか。」
「いや、まだっすね。」
「じゃあ、なぜ話しかけられないのですか。」
「緊張するからに決まってるじゃないすか。俺そのこのこと好きなんですよ。」
「その子のことを知っているのですか?」
「余り知らないんすよ。」
「まあ、まずは話しかけなければ何も始まらないかと。」
「あれ?もう終わりですか?なんか言い切り屋さんって、もっとズバッと言い切ってくれる店だって聞いてたんですけど。」
「あら、それが望みですか?」
「まあ、はい。」
「では、私の考えをハッキリ伝えようと思います。あなたがその女性に向ける感情は恋ではありません。」
「は・・・?え?」
高校生の男は驚きました。
「いや、なんでそう思ったんですか。」
「あなたはその女性に一目ぼれしたのでしょう。一目ぼれは恋ではありません。ただの性欲です。私思うんですよ。一目ぼれって都合の良い言葉だなって。そもそも相手と話したこともなければ、相手のことを知っているわけでもない、その人の体と顔にしか興味ないのに、それを一目ぼれという言葉に置き換えることで、自分は恋をしていると思い込んでいるのです。一目ぼれという言葉を使うことで、あなたはそれが恋という美しいものだと思っているでしょうけど、実際あなたはその人の顔と体に欲情しているだけです。」
「・・・マジすか…。」
少し沈黙が流れる。
「すみません。少し言いすぎました。」
「いや、ありがとうございます!!俺、これを求めてたんすよ。ズバッと言い切るこの感じ。いやぁ~爽快でした。俺、確かにそうかもって思いました。」
「そうですか。まあ、でも私はただ私自身の中にある偏見を言ってるだけであって、別に私の言ってる事が正しい訳じゃありませんよ。」
「あ、はい。でも家に帰ったらもう一度自分の心と向き合おうと思います。参考になりました。」「それは良かったです。」
4
言い切り屋さんのお姉さんには数少ない友人の一人に和子おばちゃんがいます。
夜は暗く、風の冷たい小さな林の中に、木でできた小さな小屋が小さな明かりを放っていました。
屋根にランタンをつるしている。
そこが言い切り屋さんです。
和子おばちゃんが来ました。
「こんにちは。洋子さん。これ、お土産です。」「あら、いつもありがとうございます。」
言い切り屋さんのお姉さんの本名は洋子と言います。
「とりあえず座ってください。」
洋子さんは椅子と机とコーヒーを持ってきました。
「あら、どうも」
「私はね、今日は洋子さんのことを聞きに来たのですよ。」
「そうなのですか?」
「えぇ。だって、洋子さんって、謎に満ちてるじゃないですか。私、もっと知りたいんです。洋子さんのこと。」
洋子さんは答えた。
「私はただの無職です。あと、公園や学校、ありとあらゆる場所にこの店のポスターを貼っている不審者でもありますよ。」
終わり




