プロローグ
――まもなく上り電車が 到着します。黄色い線の内側でお待ち下さい。
持っていたスマートフォンをカバンにしまい、列の後ろで待つ。
前にいるカップルと目が合って思わず目を逸らした。彼らがクスクスと笑っているのがなんだか自分のことのように思えて、スマホをもう一度カバンから出す。
「時刻表」と検索をかける。
普通、急行、特急。時刻表の文字を読んで繰り返して気を逸らす。
扉が開く音が耳の奥を揺らす。
いつも乗っているのは普通電車だが、今日は急行電車に乗ることにした。みんながそれに乗ったから。
ひとりホームに残されるのは惨めな気がするのだ。仕方がない。
私はその選択を後悔している。
他人に流されるように行動してうまくいったことなんかないのに。
でも、自分で物事を決めるなんてことはできない。いつも優柔不断の四文字が私の心を引き裂いていく。
――ドアが閉まります。
外の景色は目まぐるしく変化していく。
私は逃げ込むようにイヤフォンをつけて外界を遮断した。家族も友達も先生も赤の他人も、私を一番に考えてくれる人なんていなかったらしい。
「君は真面目な子だから」「君は優しい子だから」そうやっていいように使われて用済みになったら切り捨てられる。
自分に価値を感じることなんてできなかった。
突然、電車が揺れる。
まるで、地震のように。
咄嗟に吊り革をつかんだけれど、ドアに体が思いっきりぶつかって痛い。
電灯は点滅、文字通り天地がひっくり返ったかのような衝撃で手も足も痺れて動かない。
――痛い、痛い、い……たい。
何が起こったかはバカな私でもすぐにわかった。
脱線したのだ。
頭がぼーっとしてくる。
だんだん、痛みも感じなくなってきた。
背中に生暖かい感覚を感じる。そして、鉄のようなにおいが充満していくことに気づいた。私は、考えないことにした。
右手の感覚がない、これは吊り革をつかんだはずの手。どこかにいってしまったみたいだ。
よく死に直面すると走馬灯が流れるなんて聞いたことがあるが、嘘じゃないか。それとも他の乗客のみんなには見えているのだろうか。
また、私だけがみんなと違っているのだろうか。
もっと意識が遠のく、呼吸ってどうやるんだっけ。
これは神様からの罰なのかもしれない。私が価値のない人間だからこの世にとって用無しになったんだ。きっと。
そんなことを考えていたら、あっという間にすべてが真っ暗になった。




