第6話 地球人ですが、何か?②
扉を開けた瞬間、じゅわっと油の音が耳に飛び込む。
「へい、いらっしゃーい!」
左右お団子頭の少女が、元気に近づいてきた。
制服はチャイナ風、笑顔は100点。
「席、空いてるよ。こっち〜」
優太と塚原はカウンターへ案内される。
中華の香り。
異星のスパイス。
それらが混ざった温度の高い空気が
優太の鼻と肺をくすぐった。
「久しぶりだな、これ差し入れ」
塚原が紙袋をカウンターへ置く。
「うはっ!出た!
地球のハンバーガー!しかもセット!
一番人気なんだからね!」
少女は袋を抱きしめてご機嫌。
「ご注文どうぞ〜。おすすめは全部!」
「あ、じゃあ──」
言いかけたところで、
――コトン
目の前に、いつの間にか水が置かれていた。
「うわっ!?」
ビクッと肩を跳ねさせる優太。
空中にふわりと光文字が浮かぶ。
『いらっしゃいませ』
「見えない店員ね。気にしなくていいよ〜」
「気にしないって無理…!」
『注文は?』
優太は、オロオロしながらメニューを広げた。
「えっと……じゃあ無難にチャーハンで……」
『了解』
――スッ…(文字が消える)
(怖いけど……仕事は早い……)
◆ ◆ ◆
カウンター奥。
厨房では、腕が六本ある店主が
器用に鉄鍋を振っている。
「頼みがある。少し話いいか」
塚原が小声で近づく。
「……仕事の話か?」
「預かってほしい。アイツを」
店主の腕が一瞬止まる。
だが、すぐに鍋を再開した。
「……タダはやらん」
「地球のハンバーガーセット一年分だ」
「ダブルチーズにしろ」
「はぁ……分かったよ」
「契約成立だ」
店主は無表情のまま、
満足げにタコ足で領収印のように
まな板を ベチッ と叩いた。
◆ ◆ ◆
「待ちどおさま〜!」
お団子少女が皿を置く。
香りが一瞬で空気を支配した。
「……いただきます」
一口。
「………………うまっ」
気付いたら涙腺が緩んでいた。
(なんだこれ……!
地球のとは違うのに、
めちゃくちゃうまい……!)
「ふふん。宇宙一うまいからね」
少女が胸を張る。
そこへ塚原が戻り、
自分の皿を持って隣へ腰を下ろした。
「お、もう食ってんじゃん。どうだ?」
「……言葉になんないっす。最高……」
「だろ? 俺もこれのために地球から逃げ込む」
冗談みたいな本気の声。
優太は、思わず聞いた。
「ここって……何なんですか?
さっきの化け物とか……御庭番って……」
塚原は、箸を止めて答えた。
「簡単に言うと──
宇宙からの客が、地球に迷惑かけないようにする人たちだ」
「じゃあ……俺は巻き込まれた?」
「まあそんな感じだな。
悪いのは全部“あっち”だ」
優太は唇を噛む。
「俺、地球に……帰れますよね?」
塚原はチャーハンを一口飲み込んでから
静かに言った。
「優太。悪いが──
しばらく帰れねぇ」
「…………っ」
「安全のためだ。
ここなら、奴らの目が届かねぇ」
「……でも、学校とか……施設とか……」
「全部俺がなんとかする。
お前は生きてりゃいい」
優太は小さく息を呑んだ。
「今日からここで
面倒見てもらえ」
「…………え?」
「…………え?」
優太と少女の声が重なる。
そこへ、
先ほどの見えない店員の文字が
ひょいと浮かんだ。
『仲良くしてね』
「「なんで!?」」
流星飯店に、
見事なハモり声が響き渡った。




