第4話 ここ、何階?いいえ別世界です
夜の街を、二つの影が歩く。
人目を避けるように、早足で。
「なぁ優太。腹減ってねぇ?」
場違いな質問が飛んできた。
「いや……今そんな状況じゃ……」
「いやいや、状況に関係なく腹は減るぞ?
ほら、あそこ。寄ってこーぜ」
塚原が指差したのは
派手な黄色い看板のハンバーガー店だった。
「……なんで?」
「手ぶらで行くと怒られんのよ。
そこの住人、ジャンクフード好きだからな」
「あ、そういう……手土産……?」
「そういう」
結局、優太も奢られたセットを片手に進む。
*
「さてと自己紹介がまだだったな」
歩きながら、塚原はポリポリ頭を掻く。
「俺、塚原 崇。
部署的には“御庭番”。公安の秘密部隊みたいなもんだ」
「御庭番って……江戸時代のやつですよね?」
「そういうノリのまま現代まで来ちまった残党だ。
上はガチで時代錯誤」
肩をすくめる。
「で、あの白衣の変態──江戸文字。
あいつは“研究屋”。倫理観が箸より軽い」
「軽すぎるだろ……」
「ま、それで何人死んでるのか数えたくもねぇ」
冗談みたいに話すからこそ、
優太は余計に背筋が冷えた。
「だからお前は逃がす。
あいつに目ぇつけられたら終わりだ」
「え、でも勝手に外連れ出して大丈夫なんですか」
「大丈夫じゃねぇよ~。俺、明日クビかも!」
へらっと笑いながら言う。
(この人、めちゃくちゃなのに……なんか安心する)
*
「着いたぞ」
止まったのは──
くすんだ看板の古い雑居ビル。
「……ここ?」
「入口はいつも違うのさ。
“動く街”だからな」
意味がわからない。けど質問する暇はなく。
ギィィ……。
エレベーターの扉が重たく開いた。
乗り込み、塚原が操作盤に向かう。
「6階建て……ですよね?」
「だな」
だが塚原は
6つの階ボタンと
上↓下↑ボタンを
リズム良く、暗号のように叩いた。
――ピピッ……ガコン。
「っ!?」
ありえない方向へエレベーターが動き出す。
地下なんて無いはずなのに──下降。
耳がツン、と痛む。
視界が一瞬、
ざらついたように乱れた。
蛍光灯が反転し、
真っ黒な視界がひっくり返る。
まるで 現実が裏返る。
「酔いそうなら目ぇ閉じてろ」
「あの、なんでこんな──」
「普通じゃない場所に行くからだよ」
不気味な静寂。
――チーン。
軽い音がした。
扉が開く。
そこは暗いトンネル。
地上と似ているようで、どこかが違う。
風の匂いが変わっている。
「ようこそ──
ETGへ」
塚原は、上空へ軽く手を上げた。
カチリ、と小さく装置が解除されるような
気配が走る。
「入場許可の合図だ。
ここは客を選ぶ街だからな」
トンネルの奥に、小さな光が灯った。
吸い寄せられるように二人は歩き出す。
足を踏み出すたびに、
空気の質が変わっていく。
鉄の匂いから、甘いスパイス。
暗闇から、色の洪水。
視界が開けた瞬間──
世界が、裏返った。
眩いネオン。
空に浮かぶ看板の星座。
耳慣れない言語と笑い声。
人間じゃない“誰か”が行き交う大通り。
ここは地球じゃない。
でも、地球のどこかにある。
「歓迎するぜ、優太。
地球外の庭(ETG)へ。」




