第2話 優太は普通じゃない
夕方の帰り道。
養護施設へ向かう、いつもと同じはずの道。
(……つけられてる?)
振り返ると、スーツ姿の男が立っている。
目が合った瞬間──笑った。
次の瞬間、全力で走り出していた。
(なんで追ってくんだよっ!?)
細い路地に逃げ込む。
だが、足音はすぐ後ろへ。
「はぁ、はぁ……!」
息を切らした優太の前で、男の体がぐにゃりと歪む。
骨が軋み、毛が生え、牙が伸びる。
「……嘘だろ」
優太は壁に背を押しつけられ、体が震えた。
白い光。
乾いた炸裂音。
「危ない!!」
制服姿の少女が飛び込んでくる。
抜き放った刀が怪物の爪を受け止めた。
――刃鳴り。
――銃声。
少女は刀を振るいながら、空いた手で拳銃を撃つ。
少女は素早く距離を取る。
怪物は低く唸り、獣のように四足で迫ってきた。
「……っ!」
少女は受け流すので精一杯だ。
刃が火花を散らし、拳銃の反動で腕が震える。
(やばい、このままじゃ……!)
優太は固まったまま見ていることしかできない。
「後ろに下がって!絶対に来ないで!」
少女がそう叫んだ瞬間、
怪物の動きがさらに加速した。
牙が少女の肩に掠る。
「痛っ……!」
(血……出てる……!)
怪物は勝ち誇るように息を荒げ、
少女を狙って跳びかかる。
彼女は歯を食いしばり、
反撃の一太刀を叩き込む。
黒い血が散った。
「っざけんな……まだ、倒れるわけには……!」
――タタタタッ!!
路地の奥から重い足音。
黒装束の男たちが駆け込んでくる。
「紗栄子!応援遅れた!」
(一瞬で形勢が変わった……!)
怪物が鋭い視線を周囲へ走らせる。
数で不利と悟ったのか──
「ッ……!」
地を蹴り、建物の壁を駆け上がる。
その背がねじれ、翼が生えた。
鳥の影となって夕闇へ溶け込む。
「待て!!」
少女は拳銃を向けたが、
狙う暇もなく姿は消えた。
「……逃げられた」
唇を噛む少女。
肩の傷から、赤が伝って落ちた。
少女は息を整えると、すぐに優太へ向き直った。
「……怪我は?」
「あ、ない……。ありがとう……!」
――カチャ
背後で、黒装束の隊員が
小さな“カメラ”のような装置を構えた。
「非公開事案。対象、市民。記憶処理を──」
「待って……まだ状況が……!」
「ですが規定では、“一般市民との接触即処理”──」
「……すぐ済む。ただ、少しだけ眠るだけだから」
(ダメだ、逃れられない……!)
白光が優太の視界を包む――
――パチン……
光は点滅しただけで、消えた。
「……え?」
「処理が……入らない……!?故障では……ない……」
(なんで……俺だけ……?)
少女が、息を呑む。
「……あなた、普通じゃない」
その言葉だけは、
優太にも否定できなかった。
「ここは危険。
詳しい話は別の場所で」
少女は警戒を解かぬまま、
優太の腕を掴んだ。
遠くで、白と赤のパトライトが回り始めていた。




