第12話 配置
江戸文字の研究室。
白光の中、交戦ログが空中に展開される。
「天田紗栄子――交戦データ」
波形を拡大。
骨格変位。
皮膚擬態。
瞬間加速。
「一致率、六十二パーセント」
記録上のみ存在。
実在確認例なし。
「……シェイプシフター」
端末を閉じる。
「少年の所在は」
別モニターに空白。
「……掴めない」
おおよその方向は読める。
だが座標が固定しない。
「ならば、対象を変える」
「入れ」
黒装束の男が音もなく現れる。
「お呼びでしょうか」
「例の個体を追え」
一拍。
「少年は後回しだ」
「……承知」
「地球の外へ出すな」
「了解」
音もなく消える。
扉が閉まる。
江戸文字は机の下の隠しスイッチを押す。
「目目連、起動」
水槽型ユニットの中で、
ひとつの“目”がゆっくりと開く。
「対象:未登録波形」
交戦ログの波形を転送。
視界共有、開始。
都市の裏側が映る。
数秒。
「……反応なし」
江戸文字は黒い端末を取り出す。
「未登録種反応」
短い報告文を入力。
送信。
応答はない。
既読のみが表示される。
江戸文字は端末をしまった。
* * *
喫茶店。
女性は静かに立ち上がる。
「少し、失礼」
席を外す。
店の奥。
端末を耳に当てる。
「報告は受け取りました」
間。
『未登録種反応』
低い声。
「ええ」
『少年の所在は不明』
「構いません」
一拍。
「観測は継続を」
『了解』
通話を切る。
女性は席へ戻る。
男が待っている。
「御庭番に邪魔されました」
「対象の少年は確保できず。
想定外でした」
女性は微笑む。
「そうですか」
一拍。
「しばらく、休暇を取りなさい」
「……休暇?」
「ETGへ」
静かな声。
「向こう側で、好きに過ごして構いません」
男はわずかに眉を動かす。
「御庭番が動く可能性もあります」
女性は変わらない。
「あなたなら問題ありません」
「……承知しました」
喫茶店のベルが鳴る。




