天田紗栄子のメモ帳①
※自分用。あとで読み返すこと。
インスタントメモリー。
通称インスタ。
研修で何度も聞いたし、
使い方も覚えた。
理屈も、一応は分かってる。
形はインスタントカメラ。
昔の「写るんです」みたいなやつ。
軽くて、安っぽくて、
シャッターしかない。
最初は正直、違和感があった。
こんな見た目で、人の記憶を消すなんて。
でも現場では、
考えてる余裕はない。
非公開事案。
一般市民が接触。
規定通り、処理。
インスタを構える。
シャッターを押す。
白い光。
それで終わり。
怪物を見た記憶も、
戦闘の音も、
血の色も、
全部「なかったこと」になる。
残るのは、
少し気分が悪かった、とか
疲れて眠ってしまった、とか
そんな曖昧な感覚だけ。
だから世界は、今日も普通に回る。
御庭番も、宇宙人も、
誰にも気づかれない。
インスタは、
そのための道具。
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実際に使うのは、専門の部署。
私たち前線は戦うだけ。
事件が終わったあと、
彼らが来て、
現場を“日常”に戻す。
警察で言うなら鑑識に近い。
証拠を集める代わりに、
記憶を処理する人たち。
だから現場では、
「インスタ案件」
「インスタ回す」
って言い方になる。
軽い。
軽すぎるくらい。
でも、
そうしないと続かないのかもしれない。
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今日、想定外が起きた。
インスタが、効かなかった。
白光は出た。
操作も間違ってない。
装置も正常。
それなのに、
彼の記憶は消えなかった。
ぼんやりしてない。
ちゃんと、理解していた。
あの目。
今も思い出せる。
故障じゃない。
そう直感した。
インスタが効かない人間なんて、
教わってない。
マニュアルにもない。
だから、思わず口に出た。
「……あなた、普通じゃない」
言い方はよくなかったと思う。
でも他に、言葉が見つからなかった。
⸻
インスタは、
一瞬で消えるものの象徴。
押したら終わり。
やり直しはできない。
でも、
消えない人がいる。
それは、
装置の問題じゃない。
この世界の仕組みそのものが、
どこか無理をしてる気がする。
新人の私が考えることじゃない。
そう言われたら、たぶんその通り。
それでも、
忘れないように書いておく。
今日、
インスタが効かなかった人がいた。
そして私は、
それを見た。
――以上。
次に同じことが起きた時、
ちゃんと判断できるように。




