透明な恋と制度の影で
第一章:通知、それは妹の恋人
2045年。結婚出産義務法のもと、22歳以上の男女に政府がパートナーを割り当てる日本。
LOVEYOUの“Crystal Voice”担当・玲奈(れな/24歳)にも、ついに通知が届く。
> 【通知】あなたの義務婚対象者は「風間 悠斗/23歳・会社員」
※同意手続きは3日以内。性交履行期限:30日。
玲奈は通知を見て凍りついた。
悠斗は、実の妹・真琴(20歳)の恋人だった。
「……どうして……そんなの、間違ってる……」
だが制度は“私情”を一切考慮しない。
妹に告げることもできないまま、玲奈は悠斗と国によって“結びつけられる”ことになる。
---
第二章:仮面の同居と張り裂けそうな沈黙
悠斗は困惑しながらも冷静に言った。
「……あの日、通知を見たとき、正直、最初に思ったのは“最低だな”って自分への怒りだった」
ふたりは同居を開始。
妹・真琴には「政府の撮影用に一時的な同居がある」と説明し、秘密を貫いた。
玲奈は表面上は冷静を装いながら、レコーディング、テレビ収録、ファンイベントをこなし続けた。
だがマイクの前に立つたび、“声”にわずかな翳りが生まれていく。
---
第三章:期限と声のゆらぎ
> 【警告】性交履行期限:残り5日
未履行の場合、生殖医療措置が適用されます。
玲奈は追い詰められていた。
「妹の彼氏を……国家が私に抱かせようとしてる……」
ライブ直前、ステージ袖で過呼吸を起こす。
スタッフが駆け寄る中、悠斗だけが、彼女の震える手を静かに握った。
「……無理しなくていい。君の声が、壊れるのは……見たくない」
玲奈の目から、初めて涙がこぼれた。
---
第四章:交わるという選択
その夜、玲奈は決意した。
「制度が決めた関係でも、心まで奪われるのは、もう嫌なの……。
私は、私の意思であなたに触れたい。たとえ、妹を傷つけることになっても……」
涙と罪悪感に揺れながら、ふたりは静かに身体を重ねた。
> 初めての夜は、冷たくて、温かかった。
それは国家の義務ではなく、玲奈の“告白”でもあった。
---
第五章:妊娠と妹との決裂
玲奈の妊娠が発覚し、真琴に知られるのは時間の問題だった。
事務所には報告し、アイドル活動は“休止せず継続”を選んだ。
そしてついに、真琴に全てが伝わった。
「……お姉ちゃん、なんで……なんで、あの人だったの……」
「ごめん……でも私、ただ制度に従っただけじゃない。
最後は、自分の意志で……彼を選んだの……」
真琴は泣き崩れ、その後、玲奈とは距離を置いた。
---
第六章:透明な声、確かな想い
玲奈は妊婦として初めてのステージに立った。
“母になる”身体で、“アイドルであり続ける”ことを選んだ自分。
その声は、どこまでも透明だった。
> ファンは驚きながらも、拍手を送った。
一部は離れたが、それでも残ってくれた人たちがいた。
悠斗は観客席の端で静かに見守っていた。
彼女の歌う「Crystal Heart」は、今やただのアイドルソングではなかった。
命を宿し、傷を抱えた“生きた女性”の歌だった。
---
最終章:制度を越えて、ふたりで育てる
義務は完了したが、玲奈と悠斗は婚姻継続を希望した。
妹との関係は修復途中だが、玲奈はそれでも前を向く。
「私は、声で生きる。
どんなに傷があっても、透明な声の奥には、人間としての“選択”が響いてるから」
> 最後のシーン――
スタジオで子どもを抱きながら、玲奈はレコーディングマイクの前に立っていた。
「ママ、歌ってるよ」
そう微笑む悠斗の姿が、ブース越しに見えていた。
---
―完―