第一話
誤字脱字や変な文章がありましたら申し訳ありません。温かい目で見守っていただけると幸いです。
皆様ごきげんよう、私はエドワードと申します。王家にお仕えする魔法使いであり、今をときめく美青年です。深い海のような美しい眼に艶やかな黒髪、涼しげに整った甘いマスクに皆様が魅了されてしまうのも無理はないでしょう。悲しむべきは仕事もでき過ぎてしまうばかりにプライベートを楽しむ時間が取れないことでしょうか。次から次へと舞い込んでくる仕事をスムーズに片付け過ぎてしまった結果、陛下からの無理難題が絶えません。隣国の龍を味方に引き入れてこいだの、魔女から恋の秘薬を手に入れてこいだの私使いが荒すぎます。私だって名の知れた魔法使いですよ??もう少し丁重に扱っていただいても良いのではないでしょうか???この前なんて人身御供として神の成り損ないに捧げられそうになりましたからね。取り敢えず捧げられる前に消し去っておきました。完璧すぎるのも困りものですね。
「エドワード、次は救済の魔女のところに行ってきてもらっても良いかな?」
爽やかな笑顔でまぁまぁ嫌なことをおっしゃるのは現国王陛下であるユリウス様です。先王が若くして亡くなった後に王位を継承されたため、まだ二十二歳というガキンチョ…失礼。若くして大変な苦労をされている方です。幼少期から教育係を務めている身としては成長されたお姿に感慨深くもあり、気心知れた仲だからなのか扱いが雑で誠に遺憾です。
「救済の魔女ですか……正直に申し上げるとお会いしたくないのですが。」
「東が不穏な動きをしているのはお前も知っているだろう?最大限争いになることは避けるつもりだよ。しかし万が一に備えて味方は増やしておきたい。」
我が国に隣接している東の国とは先王の時代から休戦状態にあります。しかし最近東の国からの密偵が増加し武器の生産も増えていることから、休戦条約が破棄されるのではないかと懸念の声が上がっているのです。再戦となる可能性がある以上味方を増やしておくことには賛成ですが、交渉役として彼女のもとに赴くとなると大変気が重いですね。気が重すぎてお布団から出られそうにありません。
「味方を増やしておくことは得策だと思いますが、何故よりにもよって彼女なのですか?」
「強いのだろう?もしかするとこの世界で一番かも知れないと聞いた。」
「そこそこ強いですよ。確実に一番ではありませんけれど。彼女については『触らぬ神に祟りなし』。敵であっても厄介ですが、味方としても厄介です。彼女とその周囲を制御することはほぼ不可能ですからね。」
「その周囲?」
「彼女の信徒たちです。」
救済の魔女というと何やら素晴らしい人格をお持ちのように聞こえませんか?きっと皆様はまるで聖女のような慈愛に満ちた姿を想像されているのではないでしょうか?
ところがどっこい。天使や聖女とはかけ離れた彼女の厄介さは世界一と呼んでも過言ではないでしょう。彼女の得意とする魔法は精神操作系、つまりは洗脳です。自身を教祖として崇めさせ、彼女の全てを肯定し時には命すらも投げ出させる。彼女の素晴らしいところは洗脳されていることに信徒本人も気が付かないばかりか、信徒の周囲の人間たちも全く気が付かないところでしょう。普段は少しもおかしな様子はありません。しかし一度彼女が命令を下せば、他のどんなことよりも優先して動きます。沈黙の傀儡とはよく言ったものです。先程まで談笑していた村人たちが急に無表情になって襲い掛かってくる様子は、なかなかの恐怖体験でしたね。
「信徒……?まさか、」
「救済の魔女とは彼女を崇める信徒たちが呼んでいる名前です。本来、と言いますか彼女をよく知る我々は傀儡の魔女と呼んでいます。」
「……僕の情報収集が甘かったようだね。今の話は無し。」
「おや、よろしいんですか?諸刃の剣ではありますがそこそこ強いですよ。」
「過去に同じことをしようとした南の国がどうなったのかはよく知っている。同じ轍は踏まないよ。」
「英断ですね。おまけに我らが西の魔女様は傀儡の魔女を殺したいほど憎んでいますから、危うく我々の命が尽きるところでした。」
「もっと早く教えてくれ……。」
陛下にしては情報収集が雑ですね。一体どんな阿呆から仕入れたんでしょうか。
「そう言えば新しい密偵でも雇われたのですか?」
「ん?あぁ…先程解雇したところだよ。優秀そうだから雇ってみたんだけど、東と仲良しみたいだからね。今はアランがじっくりお話ししてるんじゃないかな?」
「それは良かった。是非とも色々と情報を仕入れて頂きたい所ですね。……ところでその嫌な感じがする本は何です?」
実は部屋に入った時から気になっておりました。陛下の執務机の上に飾られている嫌な感じの本。見たところ古びた魔術書のようですが何らかの魔法がかかっていそうですね。おまけに知っている魔力のような気がします。
「城下町の書店で偶々見つけたんだけど、やっぱりあまり良い物ではなさそうだね。」
「……取り敢えず私がお預かりしても良いですか?少し気になります。」
「構わないよ。もし何か分かったら教えてくれ。」
預かったは良いものの、普通に私の部屋にあること自体嫌になってきましたね。私の有り余る知的好奇心にも嫌気がさしてきました。どうして持って帰ってきてしまったのでしょう……。しかしそのままにして陛下に何があっても大変面倒ですね。過去の私グッジョブ。
「何でしょうね、確実に嫌ではありますがどこかで会ったような……吐き気を催すような……。」
魔法使いや魔女の魔力は個人によって性質が違いまして、かけられた魔法にもその性質が色濃く残ります。つまり私ほどの魔法使いともなれば、誰がかけた魔法なのかはっきり分かるという訳です。まぁ誰の魔力なのか覚えていればの話ですが……。
「過去に会ったことがある存在で何となく嫌な感じがする……まぁまぁ、そこそこ、かなり嫌な感じがする存在………ん?」
ふと机の上に置いた本を見てみると何やら魔法陣が発動しているではありませんか。何てこったパンナコッタ。さてさて一体どこのどなたでしょう。私の前で魔法を使うだなんて良い度胸ですね。
「あら嫌だ、あたくしの領域に不届き者が。」
おっと……
「エドワード?あたくし言わなかったかしら、傀儡の魔女を憎んでるって。次に会ったら消す予定なのだけど……この世から。」
「ご無沙汰しております。我らが西の魔女様。」
どうやらこの本は傀儡の魔女が魔法をかけた物のようです。運良く陛下の元では魔法が発動しなかったのでしょう。しかし運悪く私の部屋で発動しました。一体私に何の恨みがあると言うんでしょうか。お陰で西の魔女様に感知された上に本を破壊された衝撃で私の執務室が半壊してしまいました。え、今からでも入れる保険があるんですか⁉︎
「発動する前に対処しないだなんて貴方らしくもない…。腕が鈍っているのではないかしら?」
「いえいえ、そのような事は。ただ私は発動したらどうなるのかなという知的好奇心に従っただけです。」
「呆れた…前から言っているでしょう?過ぎた好奇心は身を滅ぼすと。」
「えぇ、肝に銘じております。ところで本日はどのようなご用件で?」
魔女様は盛大に眉を顰めると深く、それは深くため息を吐かれました。魔女様の緩くウェーブのかかったお美しい暗紫の髪も、心なしか普段より艶めいていないご様子。心当たりはいくつもありますが、私は何かしましたでしょうか。
「……あたくしの末の弟子の行方が分からないの。」
「末というと…フローラ様ですね?」
西の魔女様には現在三人のお弟子様がいらっしゃます。フローラ様は3番目のお弟子様で、修行を兼ねて東の国で諜報活動を行なっていると聞いたような。
「そう。フローラには東の国で情報を集めて貰っているの。定期的に情報を送ってきてくれていたのだけれど、一週間前から連絡が途絶えているわ。他の二人なら珍しくもないけれどあの子はマメだから…一週間以上何の連絡も寄越さないのはおかしいわ。」
最後にお会いしたのは随分と前のことですが、フローラ様は勤勉で真面目なお方。どのような状況であっても手紙や蝶を飛ばすなど何かしらの方法で連絡を取ろうとされるでしょう。そのフローラ様から連絡が途絶えたとなると状況はあまり良くないかも知れません。
「そうですね。他のお二方ならいざ知らず、フローラ様からの連絡が途絶えたとなると心配です。」
「今すぐにでも探しに行きたいところだけれどあたくしが此処を離れる訳にはいかないし。ウィリアムとキースも別件で動けそうにないわ。そういう訳でちょっと東の国に行ってきて貰えるかしら?」
「え、私がですが?」
「勿論。まさかあたくしの大事な可愛い弟子がどうなっても良いって言いたいのかしら?」
「いいえ全くもってそのような事は。速やかに東の国に行って参ります。」
やはりあの本不幸しか運んで来ませんでしたね。こんなことならさっさと灰にしておくべきでした。
「くれぐれもあたくしの弟子をよろしく。貴方が居ない間もあたくしが責任を持ってこの国と陛下をお守りするわ。」
「かしこまりました。陛下をよろしくお願いいたします。」
取り敢えず陛下に経緯をご説明してから東の国に向かうとしましょう。それにしても東の国に行くのは何百年ぶりでしょうか、知り合いも随分と少なくなっているんでしょうね。
「あ、陛下にはあたくしから説明しておくわ。貴方はさっさと東に行って頂戴。」
「え、ちょっとお待ち下さ、」
「武運を祈るわ。」
魔女様が薄紫の魔法石を冠した長杖を二度床に打ち付けると私の足元に見知った魔法陣が……。こうして私は陛下にご説明することも叶わないまま東の国へと吹っ飛ばされたのでございます。




