冒険者ギルド
街の中心部に近づくにつれ、建物は大きく立派になっていった。そして、ついに大きな建物が見えてきた。その正面には、交差した剣のマークが掲げられている。
「あれが冒険者ギルドだよ」
リナが指さした。二階建ての石造りの建物で、多くの人が出入りしていた。
「すごいな...…」
僕は感嘆の声を上げた。
「さあ、行こう。エレナさんに会わないと」
二人はギルドの入り口に向かった。大きな木の扉を押し開けると、中は予想以上に賑やかだった。
大きなホールには、多くの冒険者たちが集まっている。壁には依頼の掲示板があり、カウンターでは受付の人たちが忙しそうに働いていた。
「あ、エレナさんがいる」
リナはカウンターの一角を指さした。そこには、30代くらいの女性が座っていた。彼女は長い茶色の髪を後ろで結び、優しそうな表情をしている。
「エレナさん、こんにちは」
リナが声をかけると、女性は顔を上げ、微笑んだ。
「あら、リナじゃないか。依頼は無事に終わったの?」
「はい、バッチリです。それと、こちらを紹介します。アルトくんです」
僕は少し緊張しながら、一歩前に出た。
「は、はじめまして。アルトです」
「アルト?……ああ、新人の子だね」
エレナさんは優しく微笑んだ。
「マルコさんからの紹介状を持っています」
僕はポケットから手紙を取り出し、エレナさんに渡した。彼女はそれを読み、うなずいた。
「なるほど、冒険者になりたいのね。マルコさんが太鼓判を押している子なら、きっと大丈夫よ」
エレナさんは机から書類を取り出した。
「まずは登録からね。名前、年齢、出身地を教えてくれる?」
「アルト、17歳、ウィローベイルの村から来ました」
エレナさんは情報を書き込んでいった。
「特技や得意なことは?」
「えっと...…剣術は少し」
「マルコに教わったのよね。彼は優秀な剣士だったわ」
エレナさんは懐かしそうに言った。
「あとは...…」
僕は少し迷った。自分の特徴について言うべきか悩んだ。
「アルトは特別な目と髪を持ってるんです」
リナが突然言った。僕は驚いて彼女を見た。
「リナ...…」
「大丈夫だよ。エレナさんなら理解してくれるはず」
エレナさんは興味深そうに僕を見つめた。
「特別な目と髪?」
僕は少し躊躇した後、帽子を少し持ち上げ、紫がかった髪を見せた。
エレナさんは驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「なるほど...…これは確かに特別ね」
「村では...…『魔物の子』と呼ばれていました」
僕は小さな声で言った。エレナさんは優しく微笑んだ。
「アルト、この世界には様々な人がいるわ。エルフ、獣人、そして魔族の血を引く者たちも。グリーンリーフでは、そういった違いは問題にならないの」
エレナさんの言葉に、僕は少し安心した。
「それに、その特徴は冒険者としては強みになるかもしれないわね。魔族の血を引いているなら、魔力を扱う素質があるかもしれない」
「魔力...…?」
「そう、魔法を使う力よ。もちろん、訓練が必要だけど」
僕は驚いた。自分が魔法を使えるかもしれないなんて、考えたこともなかった。
「では、登録は完了したわ。次は簡単な試験ね」
「試験かあ」
「心配しないで。基本的な知識と、少しだけ実技テストよ。明日の朝、ギルドの訓練場で行うわ」
エレナさんは僕に小さな紙を渡した。
「これが仮登録証。明日の試験に持ってきてね」
「ありがとうございます」
僕は紙を大切にポケットにしまった。
「今日は疲れているでしょう。まずは宿を取って休むといいわ。『緑の風』という宿があるの。ギルドの提携宿だから、安く泊まれるわよ」
「案内するよ」
リナが言った。
「ありがとう、リナ。アルト、明日の試験、頑張ってね」
エレナさんは微笑んで見送ってくれた。
僕たちはギルドを出て、エレナさんが教えてくれた宿に向かった。
「どうだった?ギルドの印象は」
リナが尋ねた。
「想像以上に大きくて、賑やかだった。でも、エレナさんはとても親切だね」
「うん、彼女は新人冒険者にはとても優しいんだ。私も最初助けてもらったんだよ」
宿に着くと、リナは僕を入り口まで案内した。
「私はここでお別れするね。自分の家があるから」
「ありがとう、リナ。本当に助かったよ」
「どういたしまして!明日の試験、頑張ってね」
リナは笑顔で手を振り、去っていった。
僕は宿に入り、部屋を取った。窓から見える街の景色は、夕暮れに染まって美しかった。
「ついに来たんだな...…グリーンリーフ」
僕は深呼吸をした。明日から、本当の冒険が始まる。
その夜、僕は新しい部屋のベッドに横になりながら、これまでの旅を振り返った。村を出てからわずか三日だが、多くのことが起きた。リナとの出会い、魔物との戦い、そして今、冒険者になる一歩手前にいる。
「明日は試験か...…」
少し緊張したが、同時に期待も膨らんだ。
「頑張るぞ」
そう決意して、僕は目を閉じた。窓の外では、夜の灯りが静かに輝いていた。