グリーンリーフへの道
朝日が窓から差し込み、僕の顔を照らした。目を開けると、リナはすでに起きて、荷物をまとめていた。
「おはよう、アルト。よく眠れた?」
「うん、ぐっすりと!」
僕も急いで起き上がり、身支度を始めた。
「今日はグリーンリーフに着くよ。楽しみだね」
リナの声は明るく、その元気さが僕にも伝わってきた。
二人は宿の食堂で朝食を取り、すぐに出発した。朝の空気は清々しく、鳥たちのさえずりが森に響いていた。
「昨日よりも道は開けているよ。午後には森を抜けて、平原に出るはずだ」
リナは前を歩きながら説明した。彼女は本当に道に詳しい。
「リナはどれくらい冒険者をしているの?」
「えっと、正式に始めたのは一年前かな。でも、その前から父と一緒に狩りに行ったりしてたから、森には慣れてるんだ」
「親も冒険者なの?」
「うん、Bランクの。すごく強いんだよ」
リナは誇らしげに言った。
「いいな...…僕は両親のことは、ほとんど知らないんだ」
「そうなんだ...…」
リナは目を少し伏し目がちにしている。
「でも、これから自分の道を見つければいいんだよ。過去より、未来が大事だって父が言ってた」
「そうだね」
僕は微笑んだ。
二人は歩きながら、様々な話をした。リナの冒険の話、僕の村での生活、将来の夢...。時間が経つのも忘れるほど、話は尽きなかった。
昼頃、小さな丘の上で休憩することにした。リナはバッグから干し肉とパン、それに水筒を取り出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
僕たちは丘の上から景色を眺めながら、昼食を取った。遠くには、森の向こうに広がる平原が見えていた。
「あそこに見えるのが、グリーンリーフの見張り塔だよ」
リナが指さす方向に、かすかに高い塔が見えた。
「あれがグリーンリーフの?」
「うん、グリーンリーフの中心にあるんだ。冒険者ギルドも、その近くにあるよ」
「すごい...…!」
僕は感動して見つめた。ついに目的地が見えてきたのだ。
休憩を終え、再び歩き始めた。午後になると、森はだんだん開けてきて、木々の間から日光が差し込むようになった。
「もうすぐ森を抜けるよ」
リナの言葉通り、しばらく歩くと、森の終わりが見えてきた。そして、一歩踏み出すと、広大な平原が目の前に広がった。
「わあ...」
僕は思わず声を上げた。こんな広い景色を見たのは初めてだった。緑の草原が風にそよぎ、遠くには街の輪郭が見えている。
「あれがグリーンリーフだよ」
リナが指さす方向に、大きな街が見えた。高い城壁に囲まれ、中央には先ほど見た塔がそびえている。
「すごい...…こんな大きな街、見たことない!」
「グリーンリーフは三国の中でも大きな商業都市なんだ。色々な人や物が集まる場所だよ」
二人は平原を横切り、グリーンリーフに向かって歩き続けた。日が傾き始める頃、ついに街の門に到着した。
「ここがグリーンリーフの東門だよ」
大きな石造りの門の前には、鎧を着た衛兵たちが立っていた。彼らは旅人たちを検査している。
「冒険者ギルドの紹介状があれば、すぐに通してもらえるよ」
リナは自分のギルドカードを取り出した。僕もマルコさんからもらった手紙を用意した。
「冒険者か?」
衛兵が声をかけてきた。
「はい、私はギルドのFランク冒険者、リナです」
リナはカードを見せた。衛兵はそれを確認し、うなずいた。
「そちらは?」
「僕は...…これから冒険者になろうと思っています。紹介状があります」
僕は手紙を差し出した。衛兵はそれを開封し、中身を確認した。
「マルコさんからの紹介状か。あの人には昔世話になった。通っていいぞ」
衛兵は手紙を返し、僕たちを通した。
「ありがとうございます」
僕たちは門をくぐり、グリーンリーフの街に足を踏み入れた。
街の中は活気に満ちていた。様々な店が立ち並び、人々が行き交っている。商人たちの声、子供たちの笑い声、馬車の音、すべてが新鮮だった。
「すごいね...…」
僕は圧倒されて、あたりを見回した。
「初めて来る人は、みんなそう言うよ」
リナは笑いながら言った。
「さあ、まずはギルドに行こう。エレナさんに会わないといけないんでしょ?」
「うん、そうだね」
僕たちは街の中心部に向かって歩き始めた。道は石畳で、両側には様々な店が並んでいる。食べ物の香りや、人々の声が混ざり合い、活気あふれる雰囲気だった。
リナは立ち止まり、僕を見つめた。
「ギルドに行く前に、少し身なりを整えた方がいいかも。第一印象は大事だからね」
「そうかな...…?」
僕は自分の服を見下ろした。村で着ていた古い服に、おじいさんのマントを羽織っている。確かに、少冒険者というよりは小間使いのようだ。
「大丈夫、すぐそこに服屋があるよ。冒険者向けの服も売ってるから」
リナは僕を小さな店に連れて行った。店内には様々な服が並んでいる。冒険者らしき人たちも何人か見かけた。
「いらっしゃい」
店主の老婆が声をかけてきた。
「この子が冒険者になるの。何か良い服はある?」
リナが僕を指さして言った。老婆は僕をじっと見つめ、うなずいた。
「ちょうど良いものがあるよ。ちょっと待ってね」
老婆は奥に行き、しばらくして戻ってきた。彼女の手には、シンプルだが丈夫そうな服と、深い青色の帽子があった。
「これはどうかしら?丈夫で動きやすいし、魔法の糸で縫ってあるから、少々の攻撃なら防げるよ」
僕は服を手に取った。確かに丈夫そうだ。
「試着してみる?」
リナの勧めで、僕は着替えの場所に行った。新しい服に着替え、鏡を見ると、自分でも驚くほど印象が変わっていた。
「どう?似合う?」
リナが声をかけてきた。
「うん、いいと思う」
「見せて」
僕が出てくると、リナは目を輝かせた。
「わあ、すごく似合ってる!冒険者らしくなったね」
僕は少し照れた。新しい服は体にフィットし、動きやすかった。青い帽子も、僕の髪をうまく隠してくれる。
「いくらですか?」
老婆に尋ねると、彼女は少し考えた。
「初めての冒険者さんだから、特別価格で...銀貨5枚でどうかな?」
マルコさんからもらった旅費で十分払える金額だった。
「ありがとうございます」
僕は銀貨を支払い、古い服をバッグにしまった。おじいさんのマントだけは、新しい服の上に羽織った。
「さあ、これで準備万端だね」
リナは満足そうに言った。
「ギルドに行こう」