見た目の違い
「魔物の子だ!」
僕が村の広場を通りかかると、どこか嗤うような声が聞こえた。振り返ると、同い年のレンと、その弟のタクが僕を指さしていた。
「無視しろ」
マルコさんが小声で言った。僕はうなずき、前を向いて歩き続けた。
「おい、聞こえないのか?」
レンが僕の前に立ちはだかった。彼は村長の息子で、いつも僕をからかう一人だ。
「どいてくれ」
僕は静かに言った。
「帽子を取れよ。みんなに見せてやれよ、その気持ち悪い髪を」
レンが僕の帽子に手を伸ばした。僕は反射的に後ろに下がった。
「やめろ」
「何だよ、怖いのか?」
レンの目には嫌悪感と好奇心が混ざっていた。彼は本当に僕を憎んでいるわけではない。ただ、違うものを理解できないだけだ。
「レン、やめなさい」
マルコさんの声は厳しかった。レンは一瞬ひるんだが、すぐに反抗的な表情に戻った。
「なんでこんな奴をかばうんですか?村の人たちは皆、アルトが魔物の子だって言ってます」
「人を見た目で判断するな。それが大人への第一歩だ」
マルコさんの言葉に、レンは何も言い返せなかった。
「行くぞ、アルト」
僕たちは再び歩き始めた。背後でレンたちが何か言っているのが聞こえたが、振り返らなかった。
「気にするなよアルト。彼らはまだ子供なんだ」
「僕も子供です」
「お前は違う。お前は早く大人になることを強いられた」
マルコさんの言葉に、僕は何も答えられなかった。
マルコさんの家に着くと、彼は机に向かって手紙を書き始めた。僕は窓の外を見ていた。村の風景は美しい。緑の野原、小さな家々、遠くに見える森。ここで生まれたわけではないが、僕の記憶はすべてここにある。
「できた」
マルコさんが手紙を封筒に入れた。
「これをグリーンリーフの冒険者ギルドのエレナに渡せ。彼女がお前を助けてくれるだろう」
「ありがとうございます」
僕は封筒を受け取り、大切そうにポケットにしまった。
「いつ出発する?」
「明日の朝です。おばあさんとも話して…...」
「分かった。では、これを持っていけ」
マルコさんは棚から小さな袋を取り出した。中には銀貨が数枚入っていた。
「これは...」
「旅の資金だ。遠慮するな」
僕は感謝の言葉も見つからなかった。マルコさんは僕の肩を叩いた。
「さあ、帰ってマルタに報告しろ。彼女も心配しているだろう」
僕はうなずき、マルコさんの家を後にした。
家に戻ると、おばあさんは庭で野菜の泥落としをしていた。僕が帰ってきたのを見て彼女は微笑んだ。