違いの重み
僕は今日、17歳になった。
「おめでとう、アルト。立派な青年だ」
マルタおばあさんが僕の肩をたたいてくれた。15年前、村はずれで泣いていた僕を拾いずっと育ててくれた恩人だ。
「ありがとう」
僕は帽子の縁を少し下げながら頭を下げた。この帽子は僕の命綱だ。これがないと、僕の紫がかった髪が見えてしまう。それに、ポケットの中の小さな瓶も大切だ。目薬を差さないと、興奮した時に目が赤く変わってしまうから。
「今日は特別だ。好きなものを食べようね」
おばあさんはそう言って、台所へと向かった。僕は窓の外を見た。村の広場では、同い年の子たちが集まって何かを話している。彼らは僕と同じ日に生まれた子もいるけれど、誕生日を一緒に祝うことはない。
僕は村では「変わり者」だ。紫がかった髪、時々赤く変わる目。普通の人間とは違う。だから、みんな僕を避ける。
「ーー魔物の子」
そう呼ばれることもある。最初はただのからかいだったのに、いつしか本気でそう思われるようになった。
「アルト、手伝ってくれるかい?」
おばあさんの声で我に返った。僕は急いで台所へ向かった。
「何をすればいいの?」
「野菜を切ってくれるかい?」
僕は黙ってうなずき、包丁を手に取った。おばあさんの手は最近震えるようになった。年を取ったせいだろう。おじいさんが亡くなってから、おばあさんは一人で僕を育ててくれた。
「アルト、考え事?」
「ううん、なんでもないよ」
僕は微笑んだが、心の中では考えていた。このまま村にいていいのだろうか。おばあさんはいつまでも元気ではない。僕が自分の力で生きていく道を見つけなければ。
「おばあさん、冒険者になろうと思うんだ」
言葉が口から出た時、自分でも驚いた。でも、それは長い間考えていたことだった。
おばあさんは手を止め、僕を見つめた。その目には心配と、何か別の感情が混ざっていた。
「そうか...…いつか言うと思っていたよ」
「驚かないの?」
「目を見ていれば分かるよ。この村にずっといたいわけじゃないんでしょう?」
僕は黙ってうなずいた。おばあさんは僕の気持ちを分かってくれていた。
「でも、おばあさんを一人にするのは..….」
「心配しないで。私はまだまだ元気だよ。それに、マルコさんが時々様子を見に来てくれる」
マルコさんは元兵士で、今は村の警備を担当している。僕に剣の扱いを教えてくれた唯一の大人だ。
「本当にいいの?」
「アルト、あなたには自分の道を見つける権利がある。この村では.…..」
おばあさんは言葉を濁したが、僕には分かっていた。この村では、僕はいつまでも「魔物の子」のままだ。
「ありがとう、おばあさん」
僕は思わずおばあさんを抱きしめた。小さくなったおばあさんの体が、僕の腕の中で震えているように感じた。
その夜、僕たちは特別な夕食を食べた。おばあさんの得意な鳥のホロホロまで煮たスープと、村で取れた新鮮な野菜のサラダ。デザートには甘い木の実のパイ。
「明日、マルコさんに会って相談してみるといいよ」
おばあさんはそう言って、僕の頭をなでた。子供の頃と同じように。
「うん、そうする」
窓の外では、満月が村を照らしていた。明日から、僕の人生は変わり始める。