約束の日
一ヶ月が過ぎようとしていた。毎日の訓練と依頼をこなす中で、僕の魔力制御は確実に上達していた。今では小さな光の球を作り、それを維持することができるようになっていた。
「上出来よ、アルト」
エレナさんは満足そうに微笑んだ。今日の訓練は特に順調だった。
「ありがとうございます。でも、まだ完璧ではないです」
「完璧を求めすぎないこと。大切なのは、危機的状況でも冷静さを保てるかどうかよ」
エレナさんの言葉は、いつも的確だった。
「そろそろリナたちとの約束の日ね」
僕は驚いて顔を上げた。
「覚えてたんですか?」
「もちろん。あの子、毎日のように『アルトはいつ戻ってくるの?』って聞いてくるのよ」
エレナさんは笑った。その言葉に、僕の胸が温かくなった。
「明日で一ヶ月になります」
「準備はいい?」
「はい……でも、少し不安です」
「当然よ。でも、あなたは一ヶ月前とは違う。自分を信じなさい」
僕はうなずいた。確かにあの頃とは違う。魔力をある程度制御できるようになり、いくつかの依頼も無事にこなしてきた。もう仲間を危険にさらすことはないはずだ。
「明日、彼らに会いに行きます」
「良い決断ね」
訓練を終え、宿に戻る道すがら、僕は空を見上げた。明日、リナたちに会う。その考えだけで、心が躍った。
ーー翌朝、僕は早めに起きて準備をした。久しぶりに会う仲間のために、少しだけ気合いを入れて身支度をする。
ギルドに着くと、すでにリナたちが待っていた。リナが僕を見つけると、大きく手を振った。
「アルト!」
彼女は駆け寄ってきて、いきなり僕を抱きしめた。
「待ちくたびれたよ!」
「ごめん……」
グラムとセリアも近づいてきた。
「戻ってきたな、アルト」
グラムは力強く僕の肩を叩いた。
「お帰りなさい」
セリアが微笑む。
「みんな……ありがとう」
僕は感謝の気持ちでいっぱいになった。一ヶ月間、彼らは待っていてくれた。
「さあ、今日は特別な依頼を受けようよ!」
リナは嬉しそうに言った。
「特別な?」
「うん、私たちの再会を祝うにふさわしい依頼!」
リナは掲示板に貼られた一枚の依頼書を指さした。
「『東の森での調査任務』……グリーンリーフの東にある森で、最近の魔物の動きを調査する依頼だ」
グラムが読み上げた。
「危険度はDランク。私たちにはちょうどいいわ」
セリアが言った。
「どう?アルト」
リナが期待に満ちた目で僕を見つめた。
「いいね。受けよう」
僕の返事に、リナは嬉しそうに飛び跳ねた。
「やった!エレナさん、この依頼を受けます!」
エレナさんは少し考え込むような表情をしたが、すぐに微笑んだ。
「わかったわ。気をつけて行ってらっしゃい」
僕たちは準備を整え、東門から街を出た。久しぶりのパーティでの冒険に、僕の心は高鳴っていた。
「この一ヶ月、どうだった?」
リナが尋ねた。
「毎日訓練と依頼の繰り返しだったよ。でも、少しずつ魔力を制御できるようになってきた」
「すごい!見せてよ」
僕は少し緊張したが、手のひらを広げ、小さな紫色の光の球を作り出した。球は安定して浮かび、僕の意思で動かすことができた。
「わあ、きれい!」
リナは目を輝かせた。
「確かに上達したな」
グラムもうなずいた。
「私も少し魔法を教えたいわ。エルフの魔法は制御が命だから」
セリアがそう申し出てくれた。
「ありがとう、セリア」
森に入ると、僕たちは警戒しながら進んだ。依頼の内容は、最近この森で魔物の動きが活発化しているため、その原因を調査するというものだった。
「最近、東の方から来る魔物が増えているらしいな」
グラムが言った。
「ええ、通常見られない種類の魔物も目撃されているわ」
セリアが周囲を警戒しながら答えた。
「アルトも前にケルベロスと戦ったよね。あれも普通じゃなかった」
リナの言葉に確かに、と思い出す。あの時のケルベロス、そして後に倒した魔物。どちらも通常現れない場所で見つかったーー。
「何か大きな動きがあるのかもしれないな」
グラムの言葉に、全員が緊張した面持ちになった。
森の奥へと進むにつれ、周囲の気配が変わってきた。最初は微かな変化だった。風の音が少し弱まり、葉の揺れる音が減っていく。やがて鳥のさえずりが途絶え、虫の声も消えていった。代わりに広がったのは、不自然な静けさ。まるで森全体が息を潜めているかのような、重苦しい空気感。木々の間から差し込む光も、何か不吉なものに変わったように感じられた。
「おかしいわ……森が静かすぎる」
セリアの声は、この異様な静寂の中で一層鮮明に響いた。彼女の長い金髪が風もないのに微かに揺れ、尖った耳が僅かに動いた。エルフ特有の湖のような鮮やかな青い瞳が森の奥を見据えている。
立ち止まり、耳を澄ませる彼女の表情には、不安と警戒が入り混じっていた。
「何か来るわ」
その言葉は囁くように小さく、しかし確信に満ちていた。セリアの指先が弓の弦に触れ、その緊張が僕たちにも伝わってくるようだ。
警告と同時に、僕たちは身構えた。グラムは大剣の柄に手をかけ、リナは素早く弓を構えた。僕も剣を抜く準備をし、周囲を警戒した。何か危険な魔物だろうか。熊か狼の群れか、それとも……?
森の奥にうっすらと大勢の人影が見えた。最初は木々の間から漏れる影のようだったが、次第にはっきりとした形になってきた。それは人間ではなかった。薄暗闇の中でも鮮明に光る赤い目。間違いなく魔族だ。そして、その先頭には他の者たちとは明らかに異なる巨大な体格の者がいた。黒い鎧に身を包み、その表面には古代の文字のような模様が刻まれている。頭からは二本の赤い角が突き出し、それは血のように鮮やかに輝いていた。
「魔族だ!」
グラムが低い声で言った。その声には緊張と警戒が混じっていた。眉間にはしわが寄っている。剣の柄を握りしめるその腕には筋肉が緊張で盛り上がっていた。
「あれは……魔王軍?」
セリアの声が震えている。顔からは血の気が引き、瞳が恐怖で見開かれていた。
「魔王軍?」
僕の問いかけに、セリアは一瞬僕を見た。
「東の大陸から来た魔族の軍隊よ。こんな場所で見かけるなんて……」
セリアの説明は短いが、その声の震えが状況の深刻さを物語っていた。
僕たちは急いで茂みに身を隠した。木々の葉が僕たちの姿を覆い、影の中に溶け込んでいく。地面に腹ばいになり、息を殺して様子を窺う。魔族の一団は、整然と隊列を組んで進んでいた。彼らの足音は不思議なほど静かだった。進行方向を見ると、グリーンリーフの方向へと進んでいるようだった。
「これは大変だ。町に報告しないと」
グラムが言った。彼の声は落ち着いていたが、その目には焦りが見えた。
「セリア、君は森の移動に長けている。急いでギルドと駐在兵に報告してくれ」
的確な指示だ。
「わかったわ。皆、気をつけて」
セリアは頷き、僕たちに最後の視線を送った。彼女の目には心配と決意が混ざり合っていた。次の瞬間、彼女は素早く身を翻し、森の中を駆け抜けていった。その動きは風のように軽やかで、葉一枚揺らすことなく森の中に溶け込んでいった。
「俺たちはもう少し様子を見よう。何の目的でここにいるのか知る必要がある」
グラムの提案に、僕とリナはうなずいた。リナの顔には緊張が見えたが、手は弓をしっかりと握り、いつでも戦える準備ができているようだ。
僕たちは慎重に魔族の一団に迫った。木々の間を縫うように進み、影から影へと移動する。足元の落ち葉を踏まないよう気をつけ、息を殺して近づいていく。魔族たちは森の中の小さな開けた場所に集まり、テントを張り始めていた。その周りで魔族たちが忙しく動き回っている。どうやら、ここを拠点にしようとしているようだ。
「すごい数……少なくとも友好的な感じはしないわね」
リナが小声で言った。
「もう少し近づいて確認しよう」
グラムの提案に、僕たちは頷いた。より良い観察ポイントを探して、僕たちは慎重に移動を始めた。木の幹に身を寄せ、茂みの影に隠れながら、見つからないようにしながら、もう少し近くで観察できる場所へと移動する。
足元の枯れ葉が微かに音を立て、僕の心臓が早鐘を打つ。一歩一歩が緊張の連続だ。リナの呼吸が僕の耳元で聞こえ、彼女も同じように緊張しているのがわかる。
突然、左前方の茂みが揺れた。最初は風かと思ったが、その動きはあまりにも不自然だった。次の瞬間、茂みから一人の魔族が姿を現した。彼は僕たちと同じように周囲を警戒していたようで、僕たちを見つけた瞬間、その赤い目が驚きで見開かれた。
「ッ!人間だと?ここで何をしている!」
魔族は驚いた声を上げた。その声は低く、しかし森の静けさの中では雷のように響いた。手が腰の剣に伸び、体が戦闘態勢に入る。
「見つかった!」
グラムが剣を抜いた。金属が鞘を離れる音が鋭く響き、その刃が月明かりに冷たく輝いた。
「逃げるぞ!」
グラムの命令に従い、僕たちは急いで身を翻した。しかし、魔族の叫び声が森に響き渡り、すぐに別の魔族が木々の間から現れ、僕たちの前に立ちはだかった。
新たに現れた魔族は他のものとは少し異なっていた。細身の体つきだが、その目は鋭く、知性的な顔立ちをしていた。彼の身に纏う黒い衣装は高位の者を思わせ、その手には不思議な杖が握られていた。
「人間か……」
魔族はこちらを、特に僕の顔をじっと見つめた。その目には驚きが宿っていた。彼の視線が僕の顔を隅々まで観察し、特に目に注目しているようだった。
「お前たち、何をしている?」
魔族の声は意外にも落ち着いていた。その声には威厳があり、単なる下級兵士ではないことをうかがわらせる。
「それはこっちの台詞だ」
グラムが剣を構えた。その姿勢は堂々としており、恐怖を見せない。彼の目は魔族を見据え、その声には挑戦的な響きがあった。
「なぜ魔族がこんな場所に?」
グラムの質問に、魔族は薄く笑った。その笑みには皮肉と優越感が混ざっていた。
「もうすぐわかるだろうさ、人間よ」
その言葉に込められた意味深な響きに、僕の背筋に冷たいものが走った。
リナが素早く弓を引き、矢を放った。矢は風を切り、魔族に向かって飛んでいった。しかし、魔族は身体を僅かにひねるだけで、軽々とそれをかわした。その動きはあまりにも滑らかで、まるで風のようだった。
次の瞬間、魔族の手から黒い炎が放たれた。それは通常の炎とは違い、光を吸収するかのように周囲を暗くしていく。炎は蛇のように蠢き、僕たちに向かって迫ってきた。
「危ない!」
僕の叫びと同時に、僕たちは身をかわした。黒い炎が僕たちがいた場所を襲い、地面を焦がした。焦げた土の匂いが鼻をつき、熱気が頬を撫でる。
「こっちだ!」
グラムの声に従い、僕たちは森の中を駆け抜けた。足元の枯れ葉を蹴散らし、低い枝をかき分け、全力で走る。肺が焼けるように熱く、心臓が胸を突き破りそうなほど激しく鼓動する。しかし、魔族は執拗に追ってきた。彼らの足音は僕たちよりも軽やかで、徐々に距離を縮めてくる。
「このままじゃ追いつかれる!」
リナが振り返りながら矢を放った。
「戦うしかないな」
グラムが立ち止まり、剣を構えた。顔には覚悟が浮かんでいた。大剣を両手で握り、足を肩幅に開き、安定した姿勢を取る。
僕も覚悟を決め、剣を抜く。
直ぐに追いついた魔族の口元には薄い笑みが浮かんでいた。
「降伏するなら命だけは助けてやろう」
魔族の提案は冷たく、その声には余裕が感じられた。彼の姿勢はリラックスしており、僕たちを脅威とは見ていないようだった。
「冗談言わないでくれ」
グラムが答えた。
「なぜ人間に味方する?」
突然魔族が僕に問いかけた。その声には若干の疑念があり、まるで何かを確認するかのようだった。
「何?」
僕の声は驚きで震えた。なぜ魔族が僕に対してそのような質問をするのか理解できなかった。
「お前の目……こちらの血族の者だろう?」
魔族の言葉に、僕は息を呑んだ。僕の特徴を見抜いたようだ。今は目薬も差して帽子も被っているのに。
「僕は人間だ」
声を張り断固と否定するが、魔族の鋭い目が僕の心の奥まで見透かしているようで、居心地が悪かった。
「嘘をつくんじゃない。その紫の髪、赤い瞳……高位の魔族の血だな」
魔族の言葉は確信に満ちていた。
「黙れ!」
グラムが魔族に飛びかかった。瞬間、大地が震えるような衝撃が走った。彼の巨体から繰り出される一撃一撃が空気を切り裂き、金属の塊がぶつかり合うような轟音が森全体に響き渡る。
「こいつ、下級魔族じゃない!」
グラムの声には焦りが混じっていた。彼の額から流れる汗が地面に落ち、その一滴一滴が彼の命の重さを物語っているようだった。魔族は人間離れした速さで攻撃を繰り出し、グラムの防御を徐々に崩していく。剣と杖がぶつかるたびに火花が散る。
「アルト、リナ、援護を!」
グラムの叫びは絶望的な響きを帯びていた。
リナは弓を構え、矢を番えた。彼女の指先が微かに震えている。それでも彼女は次々と矢を放った。矢は空気を切り裂き、魔族の体に突き刺さるが、まるで蚊に刺されたかのように、魔族はほとんど反応を示さない。
僕も剣を振るい、魔族に立ち向かった。しかし、剣が魔族の皮膚に触れると、まるで岩に当たったかのような衝撃が腕を伝わってきた。僕の攻撃は、この怪物にとって痒みにもならないようだった。
「お前たちの抵抗は無駄だ」
魔族の声は地の底から響いてくるような低く重い音だった。その言葉には絶対的な確信があり、それが僕たちの心に冷たい恐怖を植え付けるように感じる。
次の瞬間、魔族の手から黒い炎が噴き出した。それは通常の炎とは違い、光を吸収するかのように周囲を暗くしていく。グラムはその炎を避けようとしたが、間に合わなかった。
黒い炎がグラムを包み込み、彼の悲鳴が辺りに響き渡った。その声には言葉にならない苦痛が込められていた。炎の勢いでグラムの体は宙に舞い、何メートルも吹き飛ばされた後、大きな木に激突した。木の幹が砕ける音と共に、グラムの体が地面に崩れ落ちた。
「グラム!」
リナの叫びは絶望そのものだった。彼女の声は震え、その緑の瞳には涙が溢れていた。グラムの体は動かず、僕たちからは彼が生きているのかさえわからなかった。
僕の中で何かが壊れた。
友を守れなかった無力感と、目の前の魔族への憎しみが混ざり合い、体の奥底から熱いものが湧き上がってきた。それは怒りであり、絶望であり、そしてその場を制することの出来る力だと不思議に分かった。
瞬時に練り上げた魔力の激流は今までの比では無く、しかし不思議な程に素直に従う。
両手から放たれるは、内側に周囲の全てを吸い込むように渦巻く至極色の球だ。
魔族は驚いた表情を見せ、かわそうとするが、すでに遅い。
衝撃と共に、魔族の体が後方へ吹き飛ばされた。その体からは黒い煙が立ち上り、空間が歪むような異様な光景が広がった。魔族は地面に膝をつき、その巨体が揺れる。力が抜けていくように、魔族の赤い瞳の光が徐々に弱まっていく。
「これは……何だ……こんな魔法は……」
声はもはや威圧感を失い、弱々しく震えていた。その目は僕を見つめ、そこには恐怖と共に、何か別の敬意のようなもの—が宿っていた。
「お前は……一体……」
言葉を最後まで言う前に、魔族は重い音を立てて倒れた。その体が地面に横たわり、最後の息を吐き出した。
「やった!」
リナの声には安堵と喜びが混じっていた。彼女はグラムのもとへ駆け寄り、彼の状態を確認しようとした。
しかし、つかの間の喜びは長く続かない。
森の奥から、重い足音が聞こえてきた。それは一人や二人のものではなく、大勢の足音だった。木々が揺れ、地面が震え始めた。
「何の騒ぎだ?」
その声は、先ほどの魔族とは比べものにならないほど重く、深く、そして威厳に満ちているとさえ言える。それは単なる音ではなく、僕たちの心に直接響いてくるような圧倒的な存在感を持っていた。
振り返ると、そこには巨大な体格の魔族が立っていた。黒い鎧に身を包み、その表面には古代の文字のような模様が刻まれている。頭からは二本の赤い角が突き出し、それは月明かりを受けて血のように輝いていた。
その威圧感は、先ほどの魔族とは次元が違った。まるで山が動いてきたかのような存在感。僕の足は震え、呼吸が浅くなった。明らかに高位の魔族、おそらく指揮官クラスだとわかった。
「将軍!人間どもが……」
最初に僕たちを見つけた魔族が報告しようと近寄るが、その強者であろう魔族の目は、僕から視線をずらさず、まるで見定めるかのようにしている。
「お前は……」
将軍の目が赤く光った。僕は身動きできなかった。まるで蛇に睨まれた蛙のように。
「捕らえろ」
その一言と共に、森の中から無数の魔族が現れた。彼らは一瞬のうちに僕たちを取り囲んだ。その数は数十を超えるかもしれない。
「まだ……!」
そう言うリナの矢筒はもう空っぽで、彼女は短剣を手に取るが戦えはしないだろう。
僕も魔力を使おうとするが、先ほどの攻撃で体力を使い果たしてしまったようだ。両手から紫の光を出そうとしても、かすかな光の残滓が散るだけだった。
抵抗する間もなくあっという間に、僕たちは捕らえられてしまった。
「将軍、この人間どもをどうします?」
「連れていけ、殺さずにうまく利用してやろう」
どうやら人質にでもされるようだ。グラムの安否が気になる。
「アルト……」
リナが心配そうにこちらを見た。彼女の目には涙が光り、その中に映る僕の姿は、あまりにも非力で頼りない存在だろう。
「大丈夫」
僕は小声で言ったが、心の中は不安でいっぱいだった。言葉とは裏腹に、僕の声は震え、その言葉には説得力がなかった。
僕たちは魔族の陣営へと連れていかれた。夜になり、魔族たちの松明の光だけが道を照らす。その光は僕たちの絶望的な状況をより一層際立たせていた。
セリアだけは逃げ切れたはず。彼女がギルドに報告すれば、救援が来るかもしれない。
それまでは何とか生き延びなければならない。しかし、将軍の赤い瞳を思い出すたびに、僕の心は氷のように冷たくなった。一体あの化け物をどうすればーー。
夜風が冷たく頬を撫で、遠くからは狼の遠吠えが聞こえた。それは僕たちの絶望的な状況に対する自然の哀歌のようだった。




