冒険者試験
朝日が窓から差し込み、僕の目を覚ました。今日は冒険者試験の日だ。
「よし、頑張るぞ」
僕は勢いよく起き上がり、身支度を始めた。新しい服に着替え、帽子をかぶり、目薬を差す。剣も腰に下げた。
宿の食堂で朝食を取りながら、試験のことを考えていた。どんな内容なのだろう?マルコさんから教わった剣術は役に立つだろうか?
「冒険者試験を受けるのか?」
隣のテーブルから声がかけられた。振り向くと、年配の男性が座っていた。その風体から明らかに冒険者だと言わんばかりの迫力を感じる。強面の男だ。
「はい、今日受けます」
「そうか。緊張してるようだな」
「少し...…」
「心配するな。基本的なことができれば大丈夫だ。それに、君は剣を持っているな。指導を受けたことがあるのか?」
「はい、村の元兵士から教わりました」
「それなら問題ないだろう。ああ、自己紹介が遅れたな。俺はガルド、Cランクの冒険者だ」
「アルトです。よろしくお願いします」
ガルドは親切に試験の内容を教えてくれた。基本的な知識テスト、簡単な実技、そして面接があるらしい。
「とにかく、自分の力を信じることだ。冒険者に必要なのは、技術だけじゃない。勇気と決断力も大切だ」
「ありがとうございます」
朝食を終え、僕はギルドに向かった。街は朝の活気に満ちていて、多くの人が行き交っていた。
ギルドに着くと、すでに何人かの若者たちが集まっていた。どうやら、僕と同じく試験を受ける人たちのようだ。
「アルト!」
振り返ると、リナが手を振っていた。
「リナ!どうしてここに?」
「応援に来たんだよ。それに、エレナさんの手伝いもするの」
リナは明るく笑った。彼女がいてくれると思うと、少し安心した。
「おはよう、みなさん」
エレナさんが現れ、集まった若者たちに声をかけた。
「今日は冒険者試験を受けてもらうわ。全部で10人ね、まずは室内での筆記試験から始めましょう」
僕たちは建物の中に入り、大きな部屋に案内された。そこには机と椅子が並べられていた。
「基本的な知識を確認するテストよ。魔物の特徴や、冒険者としての心得などについて答えてね」
試験用紙が配られた。僕は緊張しながらも、問題を読み始めた。
「魔物の分類について」「冒険者の倫理規定」「危険地帯での対処法」...…etc。
マルコさんから教わったことや、村で読んだ本の知識を思い出しながら、僕は一つずつ答えていった。
一時間ほどで筆記試験は終了し、次は実技テストだった。僕たちは裏庭にある訓練場に移動した。
「次は基本的な戦闘能力を見るわ。あそこにある木の人形を使って、自分の技術を見せてね」
訓練場には木で作られた人形が立っていた。一人ずつ順番に、その人形に対して攻撃を行う。
僕の番が来た。
少し緊張するけど、マルコさんとの訓練を思い出すーー。
「深呼吸して、剣は体の一部だと思え」
剣を抜き、木の人形に向き合う。そして、教わった基本の型を一つずつ実演した。斬り、突き、防御の構え。
最後に、僕は一連の動きを流れるように行った。剣が風を切る音が響き、木の人形に正確に当たっていく。
終わると、周りから小さな拍手が起こった。リナも笑顔で拍手している。
「素晴らしいわ、アルト」
エレナさんが声をかけてきた。
「本当に基本がしっかりしているわ。マルコさんの教え方は相変わらずね」
「ありがとうございます」
全員の実技テストが終わると、最後は個別面接だった。僕は小さな部屋に呼ばれ、エレナさんと向かい合った。
「アルト、なぜ冒険者になりたいの?」
僕は少し考えた。単に村を出たかったからというのは、本当の理由の一部でしかない。
「自分が何者なのか知りたいんです。そして...…自分の力で生きていきたい」
エレナさんはうなずいた。
「正直な答えね。冒険者の道は険しいわ。危険もあるし、時には命の危険もある。それでも進みたい?」
「はい。僕には、他の道はないと思います」
僕は自分の髪に触れた。エレナさんは理解したように微笑んだ。
「わかったわ。あなたの決意は伝わったわ」
面接が終わり、僕は他の受験者たちと共に結果を待った。緊張で手に汗をかいていた。
しばらくして、エレナさんが戻ってきた。
「みなさん、お疲れ様でした。結果を発表します」
一人ずつ名前が呼ばれ、合格か不合格かが告げられる。10人中8人が合格したところで、僕の名前が呼ばれた。
「アルト」
僕は緊張して立ち上がった。
「合格よ。特に実技の評価が高かったわ」
「ありがとうございます!」
僕は思わず声を上げた。リナも喜んで拍手している。
合格者には、それぞれギルドカードが渡された。小さな金属製のカードで、僕の名前と「Fランク」の文字が刻まれている。
「これが冒険者の証よ。大切にしてね」
エレナさんは僕にカードを渡した。
「明日から、ギルドの依頼を受けることができるわ。最初は簡単なものからね」
「はい!頑張ります」
試験が終わり、僕はリナと共にギルドを出た。
「おめでとう、アルト!これで正式に冒険者だね」
「ありがとう、リナ。君のおかげだよ」
「そんなことないよ。あなた自身の力だよ」
リナは明るく笑った。
「これからどうするの?」
「まずは簡単な依頼から始めようと思う。経験を積まないと」
「そうだね。あ、そうだ!」
リナは突然思いついたように言った。
「私のパーティに入らない?今は3人だけど、もう一人欲しいと思ってたんだ」
「え?本当に?」
「うん!あなたの剣の腕は確かだし、一緒に冒険できたら楽しいと思うんだ」
僕は驚いた。パーティに誘われるなんて、予想していなかった。
「でも、僕はまだFランクで経験もないし...」
「大丈夫だよ。みんな最初は初心者だったんだから。それに、私たちもまだDランクだし」
リナの誘いは魅力的だった。一人で冒険するより、仲間がいた方が心強い。
「ありがとう、ぜひ入れてほしい」
「やった!じゃあ、明日の朝、ギルドで他のメンバーに会おう。きっと気に入ってくれるよ」
リナは嬉しそうに言った。
「明日が楽しみだな」
僕は心から思った。冒険者になり、パーティに入り、これから始まる新しい生活。すべてが新鮮で、期待に胸が膨らんだ。
「さあ、今日は祝杯を上げよう!冒険者になった記念にね!」
リナは僕を近くの酒場に連れて行き、冒険者デビューを祝って乾杯した。
いつの間にか昼間に親切にしてくれたガルドさんも来ていて、みんなでわいわいと楽しい時間は過ぎていった。




