非科学な世界
「聞きたいことはたくさんあるんだけど、まずは何で科学文明が滅びたの?その頃から居るなら知ってるよね」
フェンリルに質問する。二千年前のことだしそこら辺の情報は手に入らないかもしれないと思っていたけど、その頃から生きてる存在がいるなら分かるかもしれない。
「詳しいことまでは分らぬが世界中で何度も大きな爆発が起きたらしい。我らはその後に生まれた」
世界中で爆発?それなら私も知ってる。世界大戦での核爆弾とかのことだよね。でもあれだと文明が滅びることはなかったと思うけど。核爆弾への対策で色々作ってたし。
「その爆発って核爆弾だよね」
「我は科学に詳しくないから機械のことは分からぬ」
そっか。でも核爆弾を知らないってフェンリルはその時代に作られたんじゃないの。
「その爆発によって世界の在り方が大きく変わったらしい」
爆発で世界の在り方が変わったってどういうこと。文明が滅びたっていうのもよく分からないし。もしかしたら核爆弾のことじゃないのかもしれない。
「それで科学文明が滅びてさっき言ってた魔法文明になったってこと?」
「ああ、それで背化に魔力が満ちたらしい」
魔力。世界に満ちているっていう謎のエネルギー。
「メギド、魔力のこと分かった?」
「いえ、先程から色々な角度で調べてんすが分かりません」
隣で静かに立っていたメギドに訊いてみる。だけどやっぱり分からないみたい。
「爆発で満ちったてことは、その爆発を起こした何かのエネルギーってことかな」
「それだと簡単に観測出来ます」
「だよね」
思いついたことを言ってみたけどメギドに否定された。うん、その通りだね、私も納得する。
「我もその爆発で生まれたのだ」
えっと、どういうこと?爆発で生まれた?誰かに作られたんじゃないの?
「フェンリルってどうやって生まれてきたの?」
「言っただろう、爆発によって生まれたのだ」
意味分からないのだけど。何で爆発で生物が生まれるの。錬金術?
「それって、どういう原理なの?」
「そこまでは分らん。ただ爆発により生まれたと知っているだけだ」
「そか。それじゃあその爆発はどういうものか知っている?」
知らないなら仕方ない。フェンリルの知っていることぉ聞いて、そこから推理しよう。
「ふむ。確か爆発が世界を歪めたとか言っていたな」
「どういう意味?」
「詳しいことは知らん」
世界を歪める。どういう意味合いなのかが分からない。
「それじゃあ、魔力についてもう少し詳しく教えて。それも関係してるのよね」
「詳しくといわれてもな…」」
爆発により世界に魔力が満ちたというなら関係ないわけがない。それを知れば何か分かることがあるかもしれない。何も分からない時は色々な視点から見る。科学の基本の一つだ。
そしてフェンリルが私の質問に「ふむ」と一言考えるような声色で呟いてから返答する。
「そうだな、一度見るといい」
そう呟いた。
「…」
そして何も起こらないまま時間が流れる。
え、見ろって何を。フェンリル今何かしてる?
「どうだ」
「何が?」
「見えていないのか」
どうやらフェンリルは今何かをしているようだけど私には何も分からない。何か変わったところある?ただ動かないで視線を交わしているだけだと思うけど。
「メギドは何か見える?」
「いえ、私にも何も見えません。様々な間方向から見ても何も観測できません」
私だけ見えていないのかと思ってメギドに訊いてみたけど、私と同じみたいでメギドにもなんも見えていなかった。さらに視覚以外の方法でも調べてくれたみたいだけど何も分からなかったみた。
だけどメギドは「しかし」と言葉を続ける。
「周辺の動物などが一斉に騒ぎ出したのを確認しました」
「動物?」
「はい。ほぼ同時に半径300メートル程の動物達が逃げるように勢いよくこちらと反対方向に移動しました」
つまり動物達は魔力を見ることが出来る。それどころか視覚以外でも感じ取れるようだ。ていうか、何で逃げるの?
「どうやら貴様らは魔力を感じることが全く出来ないようだな」
フェンリルの口ぶりから普通なら感じられるみたい。二千年の間にそういう風に生態系が進化したのかも。
「これで分からないとなると、魔法を見せるか」
別案を出してくれるフェンリル。そしてまた知らない単語。魔法?やっぱりオカルトの話?
「これなら見えるだろう」
そして続けた言葉と共にフェンリルの目の前に火の玉が突如として現れた。
…え、この火の玉どこから?
「どうだ。これが魔法だ。魔力はこういった魔法を使うための源となるものだ」
「どうやって、だしたの」
「魔法でだ」
理解出来ない。非科学的だ。可燃性のものは何もなったはず。
「メギド、分かる?」
「…いえ、分かりません。熱エネルギーの変動がなかったのに急に炎が起こりました。空間の歪みも観測していません」
炎とは熱エネルギーが可燃性の物質に一定以上たまったときに起きる現象。そしてエネルギーは無から生まれない。だから何も無いところから炎は生まれない。
メギドは更に続けて説明する。
「炎自体は幻影の類ではなく本物のようです。周りの酸素を消費しています。しかし何が燃えているのかが分かりません」
炎の色は赤。つまり炭素が燃えているということ。でもメギドによるとそれは行われていないらしい。
「魔法は魔力を現象を起こす技術だ。これで少しは分ったか」
むしろ分からないことが増えた。非科学的すぎる。確かに目の前の火の玉は間違いなく炎だ。でも何故その炎が目の前にあるのかが分からない。
「…分かった。とりあえず私たちには感知できない何かがあるのは理解した。今はそういうものとして置いておくわ。それでさっき言ってた魔物とかも関係あるのかな」
今考えても分からないことは後にする。情報を集めて何れは原理を解き明かす。それが科学だ。だから今は出来るだけ多くの情報を得なくてはならない。
魔物とか名前の雰囲気からして関係があるに違いない。
「魔物とは魔力を使う動物のことだ」
「魔法が使えるってこと?」
「うむ」
今までの話から普通の動物でも魔力を持っていると分かる。そして魔法は魔力を使って現象を起こす技術と言っていた。なら動物でも魔法が使えても不思議ではない。
「それじゃあ、魔物と動物の違いは?」
動物が魔法を使えるならわざわざ魔物なんて呼び方は生まれないはず。さっきのフェンリルの説明だと違いが分からなかったのでそこを訊いてみた。
「さっきも言った通り、魔法が使える動物が魔物だ」
「えっと、動物はみんな魔力を持っているんじゃなかったの?」
「ああ。だが魔力を持っているからと言って魔法が使えるわけではない」
うん、これは私の思い違い、というか思い込みだ。っ炊きまでも話からつい魔力があれば魔法が使えると思い込んでしまったけど、フェンリルは技術って言ってた。つまりその技術を持たない者は魔法を使えない。
私も科学者の一人なのに思い込みで視野を狭めてしまった。反省。私の悪い癖だ。
人間はもっと視野を広く持たないといけない。
魔力、魔法、魔物。二千年の間で非科学的な存在がどうやら世界を変えてしまったらしい。
だけど、非科学と言っても何らかの物の法則があるはず。それを解明すればいずれそれが科学になる。いつの時代もそうやって世界の真理を作ってきたのだから。