リル
「やっと見えてきたわね」
メギドが見つけてくっれた街へ歩いて、ようやくその街の外壁と思われるものが見えてきた。時間はすでに十九時を過ぎているので暗くなってきている。ちなみに今の季節は夏。
数十メートル先に曲線を描く巨大な壁が見える。ら分縁になっているんだと思う。敵からの侵入を防ぐためのものだと思うけど。
「それじゃあ行きましょう二人とも」
『その前によろしいですか』
ようやく目的地も見えてきたので二人に声を掛けて歩き出そうとしたところでメギドが話掛けてくる。
『フェンリルの名前について治んですが』
「我の名前がどうかしたか」
『この時代においてフェンリルとはあまり知れ渡ってないのでしょうか。それとも一般的な名前なのでしょうか』
メギドがフェンリルに問いかける。
多分だけどメギドの言いたいことは分った。エンリルは神獣とか言っていたけど、話を聞く限りかなり特別な存在だと思う。だったらその名前が知れわたっていてもおかしくない。
「当然我の名前は有名で、恐らく唯一無二だぞ」
誇らしげに答えるフェンリル。
でもそうなってくると目立つわね。
『でしたらフェンリルという名前は目立つかもしれませんね』
「そうだね。神獣としてか神話の怪物としてかはともかく珍しい名前なら目立つわよね」
「そうかもしれんが、それが何か問題か?」
「問題ってわけじゃないけど」
問題居て程でもないけど、それでもむやみに目立つのは避けたい。まだこの時代に来たばかりで常識も全く分からない。それに魔法という未知のものまである。そんな中、目立ってむやみに敵なんかも作りたくない。
「こおれからはリルって呼んでいいかしら」
「別に構わんが、そんなに目立ちたくないのか」
「そこまで気にしてるわけじゃないけど、変に目立って敵も作りたくないしね」
あとこれを言ったら怒られるかもしれないけど、神獣も魔物の一種なのよね?そうなると無断で魔物を街に入れたとかで何かの罪になるかもしれない。魔物は私たちを見つけたらいきなり襲い掛かってくるような危険な生物だし罪になってもおかしくない。
「それじゃあこれからリルって呼ぶから」
「あぁ」
フェンリル改めリルに呼び方が変わったところで街へ向けて歩いて行くことにした。
「何だお前たち、見かけない顔だし旅人か?」
街の壁の近くまで歩いて行くと男の人に声を掛けられた。
壁付近まで行くと門を見つけたのでそこに歩いて行くと二人の軽い金属鎧の男が二人いた。その一人が私たちを見つけて話しかけてきた。
「えぇ、そうだけど、街に入れるかしら」
事前にメギドに調査してもらっていたので日本語であることには驚かないけど、二人の人物の髪色も赤と黄色に顔つきも日本人には見えない。でもそれはかなりの長い年月がっ経っているんだし、色々な人種が混ざっていても不思議ではない。
私の知ってる日本語のままなのは気になるけどね。
話は相手に会わせることにする。フェンリルには直ぐに気付かれたけどそれはフェンリルが異常なだけで他には多分気付かれないでしょう。
「身分証はあるか?」
私だ頷いて答えると何故か疑うような目で新たに質問される。話しかけてこなかったもう一人は腰に下げた剣の柄に手を掛けている。
「リルは持ってるかしら?」
「持ってないな」
当然私とメギドはこの時代の身分証なんて持っていない。リルに確認しても彼女も持っていなかった様子。そんな私たちの会話を聞いた男二人は更に警戒を強くした。
なぜかわ分からないけどすごく警戒されているわね。そんなに怪しく見えるかしら。
「そんな軽装で旅をしているのか?」
そこで疑問を解決する質問をされる。成程、私たちは軽装、というか手ぶらだ。こんな状態で旅とか言われても怪しさしかない。
「こいつは収納魔法が使えるからな」
怪しむ男たちに対してリルが私を指さしてそんなことを言う。
私魔法とか使えないけど、多分リルがうまいこと話をまとめてくれてるのね。ここはぼろを出さないために黙っておきましょう。
「収納魔法?こんな小娘が?」
小娘とは失礼ね。私はもう二十歳は超えているのよ。
「見せてやれ」
「はいはい」
リルに収納魔法を見せてやれと言われたので従う。とはいっても魔法は使えないので使う不利だけど。
「はい。これでいいかしら」
腰に付けていたポーチから短刀を取り出す。
「な、本当んに収納魔法を使えるのか」
驚く男性。
このポーチの中は空間を捻じ曲げ、その歪みで在空間の入り口を形成したもの。在空間は別次元の性質を持っていて、大きさや重さを無視している。どんな大きさや重さだって入ってしまう。
他次元収納袋、『宝物庫』と呼んでいる。
これもここに来るまでのリルに話していた。
「旅人だというのは分った。だが身分証がないなら入れないぞ」
困ったわね。無理矢理入ろうと思えば容易だろうけど不法入国者とかで指名手配されるのも嫌だし、どうしようかあしら。
(マスター、賄賂などはどうでしょうか)
メギドが脳内に直接話しかけてきた。
賄賂か。何かあったかしら。こういう時は金がいいでしょうけど。
「あ、これを上げるから中に入れてくれないかしら」
『宝物庫』の中に金のインゴットがあったのを思い出したのでそれを男に差し出す。
「…賄賂か。そんなものでは入れんぞ」
ダメみたいね。この時代では金は大して価値はないのか。それともこの人たちが真面目でこういう行為には加担しないのか。
「だったら身分証を作れないかしら」
「そもそも、どこから来たんだ。身分証がないなら他の町にも入れないだろう」
疑いの目で見てくる。今の賄賂でますます怪しまれたのかもしれない。
『私たちは田舎の辺鄙な村から出てきたばかりなので、そういったものはないのです』
今度はメギドが男に話しかけた。メギドは交渉もうまいし、ここは任せましょう。