7 クロード視点
お待たせしました。クロード視点です。明日の朝7時に最終話を投稿します。
妻のキャスリーンと一緒に、キャスの妹のグロリアの結婚式に参列した。
白いドレス姿で微笑むグロリアは、それは綺麗だった。
元々綺麗な子だった。頭も良く両親の期待を背に、教養やマナーを身に付けていた。明らかに高位貴族へ嫁がせるのを目的にした教養だったので、本人は悪気無く周囲の子爵家や男爵家の令嬢たちを見下していた。多分自覚もしていなかっただろう。
そういう点では、イーサン・ギネス公爵令息との婚姻は本人の態度に身分が釣り合うことになったのかもしれない。
キャスリーンは満面の笑顔で、グロリアの結婚を喜んでいた。私との結婚前に起こった自らの婚約解消が、家族に及ぼした影響の大きさをずっと気に病んでいたからだろう。
私の家、キャンベル男爵家とキャスの実家クレア子爵家とは、領が近隣だったため、幼い頃からの付き合いがある。たいして特色もないうちと違って、クレア子爵家は人当たりの良さと人脈で、作物や酒類などの食品を主に取り扱う商店を近隣の領で展開しており、それなりに裕福だった。
クレア姉妹に弟が誕生し、キャスやグロリアの嫁ぎ先を探すとなったときには、いろんな家からの申し込みがあったらしい。姉妹は評判の美人だったし、実家が裕福なので援助も期待できたからだ。
多数の申し込みにも係わらず、クレア姉妹の婚約はまだ幼いので、というクレア子爵の一言で保留にされていた。
弟が生まれて、グロリアの地頭の良さが判明してからは、クレア子爵夫妻はキャスに関わる時間が少なくなったように思う。いくら領地が近いからと言っても、度々会えるわけでもなく、まだ子どもだった私がそう思うくらいだったので、実際にはもっと放ったらかしにされていたんだろうと思う。
男爵家の次男の私とキャスは、気が合ってよく一緒に過ごした。人見知りで恥ずかしがり屋なキャスだったが、私の前では割とお転婆な一面も見せてくれていた。
時々は二人で遠乗りに行って、景色や外での食事を楽しんだりした。もちろん二人っきりではない、護衛代わりの下男やメイドが一緒だった。
その時間をグロリアは勉強に充てられていたわけなので、グロリアには彼女なりに言いたいこともあるんだろうと思うけれど、キャスは寂しかっただろうと思う。
クレア子爵夫妻は、キャスがお転婆なことも恥ずかしがり屋なことも知らなかっただろうから。
私は継ぐ家も爵位もないので、将来は騎士になって働こうと騎士訓練校に行っている頃、キャスの婚約が決まった。
いずれ彼女と、と思って励んでいた私はかなり落ち込んだ。それでもお相手のコノーヴァー卿は穏やかで評判の良い方だったので、キャスの幸せを遠くから祈ることくらいは許されるだろうと、自分を立て直した。
あのクレア家の中で、その存在を軽視されていても歪まずにいたキャスを見習って、ヤケになって自分を粗末にすることはするまい、と考えたのだ。
そんな頃だった。キャスとガーデンパーティで会ったのは。
王宮の庭園の奥でベンチに座り、キャスに似たピンクがかった紫の花を眺めていたら、後ろに気配を感じて振り向こうとした。
「振り向かないで、そのままでいらして」
震えるキャスの声が、聞こえていた。
「突然何を、と思われるでしょうが……。今日を逃すともうお話することは出来ないと……思うので」
私は前を向いたまま、彼女の途切れがちな声を聞いていた。
「もし……もし……わたくしを望んでくださるお気持ちが、お有りなら……」
「……わたくしは……両親にわたくしの婚約をグロリアへ婚約者を変えると……言われております。不出来な娘を……それでも、もしわたくしを……望んでいただけるなら……」
彼女の途切れがちな話を聞いて、私は歓喜の声を抑えながら、目の前にある華やかな花弁に向かった。キャスに話しかけるつもりでゆっくりと語った。
「こんな心地よい爽やかな日には、つい胸の内が口から零れ出てしまいますね」
「私には仲の良い幼馴染がいて、大きくなったら彼女と結婚するんだ、と無邪気に考えてました。今、彼の人には縁談があるようですが、きっと彼女もそう望んでくれている、と今でもそう思ってるんです」
後ろから時折息を呑む気配がした。彼女から拒絶を感じないのを良いことに、少し調子に乗ったかもしれない。
「彼女はこの花のように華やかなのですが、実は恥ずかしがり屋なのは私くらいしか知らないんですよ。いつか、この花を持って申し込みに行こうと思っているんです」
顔を見ずに話していたので、つい気持ちが出すぎた…言い過ぎたか…
「……きっと、……きっと彼女はお受けするはずですわ」
キャスの涙声が、私を一瞬で幸せにしてくれた。
だが、まだ早い。彼女はまだ婚約中の令嬢なのだ。誰かにこんな状況を見られたら、困るのは彼女だ。
「さあ、私はもうしばらくここに居ますので、どうか先にお戻りになってください」