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ああもう最悪だ!〜異世界に来たのに何も上手くいかないんだけど!〜  作者: 御厨 火花
一章 『安らぎの町』レンタメンテ編 チャプター1【譎らゥコ繧偵%縺医◆縺輔″縺ァ縲√∪縺】
2/22

1. 死後の世界は絵に描いたような異世界でした

風鈴色 #A6A8D3

紫苑#5F4B8B

紅玉#9B1B30


カラーコードで調べたら出てきます。

 ちゅんちゅん


 鳥の鳴き声が聞こえる。


(うるさいな……眠いんだ。もうちょっと寝かせてくれよ……)


 ちゅんちゅんちゅん


 (うっせえな!せっかく人が気持ちよく眠っているってのによ!!)


 ちゅんちゅん、ちゅんちゅん、ちゅんちゅん


(わかったよ!起きるよ!起きればいいんだろ!!ったく、もう。って……あれ?)


「え?ここは……」


 (どこ?っていうか俺死……)


「うぷ……」


 死んだ瞬間のドロドロとした感覚が体に刻まれているせいか俺は体全体に嫌悪感を感じた。


 だが確実に血が出ていて血染めとなっているはずの白パーカーは白色を保っている。


「なん……で……?」


 血がついていないことはありがたい、ありがたいのだが、意味不明すぎる。俺は情報量が多いせいで頭の中がごちゃごちゃになっていた。


「ぇ……なんで……たて……る?」


 トラックに轢かれた痛みの箇所は体の左側、当然足も含まれている。なのに痛くないし普通に足として機能している。


 服は家を出た時と同じで、白パーカーにデニムを着ている。デニムのポケットをまさぐると、記憶の通り、中にはきちんとスマホが入っていた。……少しひびが入ってたけど……それに加え、モバイル充電器も入っている。


 ひび割れたスマホに移る顔は鏡でいつも見る紫藤優真で間違いない。


(転生の線はないな……)


 俺はそう思い周りを見渡した。ゴミが散乱している様子を見るに、どうやら俺は今ゴミ置き場にいるようだ。そのほかにはさっきからちゅんちゅんと鳴き続けている青い鳥が三匹ほどいるだけだ。


(どういうことだ?はー……とりあえずここを出よう。ここはくさすぎる。鼻が曲がりそうだ。)


 キョロキョロ辺りを見渡すと、俺が眠っていたゴミ置き場は薄暗い路地の中にあることが分かった。故に出口に続く光を易々と見つけられた。俺はその光を頼りに薄暗い路地を抜けた。


 路地を抜けた先は、薄暗い場所にいたせいか、光がすごく眩しい。目をこすり、少し時間がたつとようやく目が光に慣れてきたのか周りが見えるようになった。


「なっ……!!はぁ!?」


 路地を抜けた先の通りには、道脇を埋め尽くすほどの露店が立ち並んでいた。


 露店では、串焼肉や、果物、骨董品や、見たことのない液体などが売られている。見渡すと、たくさんの買い物をする人々でにぎわっている。


 買い物をする人々の中には獣人や、エルフ、ドワーフなど、ゲームやアニメの世界でしかいないような亜人たちも普通に町を歩いていた。


「えぇ、どっどどどどどどどどういうこと!?ここどこ?え!?夢!?」


 思いながら俺はほおをつねる。だが、ちゃんと痛みはあった。ってことは夢でもないから生きている……


「確実に俺がいた世界とは違うよな……?……ってことは異世界のはずだけど……」


 異世界転生なら怪我が治っていることに説明がつく、だがスマホも持ってるしなにより顔が変わっていない。


 異世界転移の線が今のところ濃いが異世界転移なら怪我が治っているわけがない。


 (なんで?)


 そう思ったが、考えてみても全然わからない。


「とりあえず町を探索してみるか……」


 まずは情報収集だ。町並みを見るに西洋風の異世界に転生したようだが。


「まあ異世界ってほとんど西洋系だけど……でもやっぱ異世界の言葉は最初から理解できるもんなんだな」


 (異世界で言葉が話せるのが普通だとしても文字が読めるのは果たして普通なのだろうか……?)


 俺は思いながら辺りをキョロキョロ見渡す。露店の店名や商品名が理解できるのはでかい。文字が読めるに越したことはないな。


「えっと、あの店はレストラン?かな、で、あっちが魔法のパン屋?なにそれ?魔法?…………魔法!!!」


 どうやらこの世界は魔法があるようだ。それを悟った瞬間俺は目を輝かせた。


「そうだ!異世界なら、魔法があるんだ!」


 魔法、俺は何度魔法が使えればよかったと思ったことがあったことだろうか……その魔法を使うという夢が!この世界では叶うかもしれない!


 俺はそう思い、これから始まる異世界生活に少しだけ希望を見出していた。


「ん?でも異世界転生したにしてはアニメとかで見る典型的な神様的な人にもあってないけどな……」


 俺は考える。だが考えてもわからんものはわからん!今はいいだろう!てかさっきからわからんもの多いな!


「まあいいか……ん?ってか!異世界に来たならチート能力的なやつが使えるかも……?おおっっ!なんかテンション上がってきた―!!」


 (そうだ……異世界転生したのならチート能力を持っているはずだ!………ふっふっふ……いったい俺はどんな力が使えるのだろうか……ちょっと試してみようか……えーっと、何かよさそうな的は……)


 俺はよさげな的を探すため、辺りをキョロキョロと見渡した。


 (っていうかこの世界顔面偏差値高すぎない!?しかも髪の色の種類豊富すぎだろ……赤……青……金……白……金髪ならまだしも髪色みんなすごいな……どこを見ても美女、イケメン、美女、イケメン……)


 はっ!もしやこれは超絶美少女ヒロインが登場するタイプの異世界転生じゃないか!?……ってか落ち着いて考えてみろ!


 異世界系は大抵異世界から来た現代人が最強な力を手に入れてかわいい女の子たちとイチャイチャしながらハーレムを作るはずだ!!…………俺もそうだったらいいな……


 そんな邪なことを考えていると、なにかしら神様からもらったであろうチート能力(仮)を使用する的にちょうどよさそうな薄汚れた壁を見つけた。


「よし、ここでいいだろう………………フ……フフフ……フハハハハハハ!!!……我が力、今こそ解放されし時!!ていやっ!炎よ!いでよ!」


 だが何も出ない。


「……………まじか……何も出ない……」


 俺は落胆しながらも他はないかと試してみる。


「ということは炎が出るわけではないのか……次だ!水よ!いでよ!」


 だが何も出ない。これも違うようだ。


「……これもでない……じゃあ雷か?雷よ!いでよ!でない!?嘘!?これも!?……風か?風よ!いでよ!嘘……風もダメなのか……」


 俺は壁に向かって炎や水、雷、風を出そうとした。だが、一つも出なかった。


(いや、まだチャンスはあるはずだ。)


 もしかすると魔物を操るものかもしれないし、精霊がついているのかもしれない。


「精霊よ!いでよ!」


 だが何も出てこない……


「くそぅ……精霊がついているわけではないのか……一体何なんだ!!俺の能力(仮)は!!誰か教えてくれ!!」


「ねぇねぇお母さん、あの人、なんで壁に向かって叫んでるの?」


「こら、よしなさい、見ないの!めっ!」


 声のした方へ振り向くと、見知らぬ親子に一人で壁に向かって魔法を放とうとしていたのを馬鹿にされた。俺の視線に気づくと、親子は逃げるようにどこかへ行ってしまった。よくよく周りを見てみれば、その親子以外の人も、ひそひそとこちらを見て何か喋っている。


 (え!?これめっちゃ目立ってるんじゃねえか!?やべぇ……超恥ずかしい……羞恥心で軽く五回は死ねる。そりゃそうだよな、町中で急に壁に向かって叫びだすやつなんて……ちょまて!よくよく考えたらめっちゃ不審者すぎねぇ!?俺も町でそんなやつ見かけたら確かに距離とるわ!!)


 俺の頭は羞恥心でパニック状態になっていた。恥ずかしくなって顔を手で隠しながらもう一度周りをよーく見ると、この場にいるほぼすべての人間が俺を見つめていた。あー……恥ずかしい……


 すると、奥から何やらごつい男二人が俺の方に向かって走ってきた。二人ともサングラスを付け、頭に警官のような帽子をかぶり、二人とも同じ服装をしていた。


(これやばいやつじゃね?…………あの二人の服がペアルックで俺の方にたまたま向かってきているだけの可能性は……絶対にないな……)


 そんなことを考えているうちに二人は俺の前に立ち、その巨体で俺の上からサングラスを少し外し、ガンを飛ばしてきた。


 (怖ぇ……これカツアゲされる奴じゃねぇか?やべぇ……俺何も持ってないです……見逃してくだせぇ……)


 俺は身構えた。だがそれは杞憂だったようだ。なにせ、


「あのー、すいません、ハルモニア王国レンタメンテ朝市場管理委員会のものなのですが、市場の中で変なことするのやめてもらってもいいですか?」


 全然ゴロツキでもなんでもなかったのだ。


「へ?あ、ああさっきのことですか……すいません、ちょっと魔法が使えるのかと興奮しちゃいまして……」


 (あれ?)


「ああ、そうなんですか、お兄さん、まさか露店の店で変なもん飲まされたんじゃないですか?それできっと意識が朦朧としてあんなことしてたんじゃないですか?がっはっは」


 (え?これ笑った方がいいやつかな?)


「は……はは……そうかもしれませんね」


「ああ、きっとそうだ。兄ちゃんもしってると思うが、魔法は適当に叫んだだけじゃ使えねぇよ、それに、魔力が少ないやつは初級魔法くらいしか使えねえぞ?だからほとんどのやつは魔力が少ねぇから初級魔法くらいしか使えねぇんだよ、な?あっはっは」


 (そうなの?そんなの初めて知ったわ、でも魔力が少ないと魔法は使えないのか……ん?待てよ、これあれじゃねぇか?異世界から来た俺が、通常の人間より魔力が多いパターンじゃねぇか?そうと決まればすぐに!!)


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


「少ないですね」


「え?」


「だから少ないんですって、あなたの魔力」


 突きつけられた残酷な事実。確かに目の前にある水晶には異世界の文字で50と書いてある。俺は半ば絶望した顔になりながら建物から出ていった。


「マジかよー……俺の魔力は一般ピーポーくらいしかねぇのかよー……くっそー……魔法が使えると思ったのによー……うう……」


 俺は今から一時間ほど前にハルモニア王国レンタメンテ朝市場管理委員会の人に絡まれた後、魔力の量を確かめるためにここを紹介してもらったが……結果は前述の通り惨敗……はぁー……お金は取られないとはいえ、だいぶ心がえぐられるな……これ……


「俺……人脈も力もないのにどうすればいいんだよ……ってか俺を召喚or転生させた人は俺に何を望んでここに来させたんだよ……力ぐらい与えておいてくれよー……」


 だがそんなむなしい声は誰に届くこともなく俺は適当な建物の壁に体を預けた。

 さて、これからどうしたものか……


「力もないし人脈もない……見知らぬ世界に一文無しで飛ばされた時の絶望感はんぱねぇな……俺の思い描いた異世界転生ってこんなんじゃない……もっと最強の力とかを手に入れてちやほやされるのを思い描いていたの……ん?いやまてよ、俺そういえばこの世界に来てからまだ一時間くらいだぞ?諦めるのはまだ早いのでは……?そうだ!まだ希望はあるんじゃないか?おお、そう思ったらなんかやる気がみなぎってきた―!!よし!とりあえず異世界転生の鉄則!困ったときはギルドに行く!ということでギルドに行きまっしょい!」


 俺はそう思い、勢い良く元気に冒険者ギルドへ向かうことにした。


 だが、


「お前さん、一人でやる気になっているとこ悪いが」


 (ん?誰?……うわっ!)


 俺は体重を預けていた建物の壁に勢いよくたたきつけられた。目の前にいるのは明らかにガラの悪そうな二人の女、そのうちの一人が所有するナイフが俺の首筋に突き付けられた。


「なん……で……?」


 こういう時は迂闊に動かないほうがいい、無駄に動いたらナイフが当たるからだ。死んだら元も子もないからな。というのは建前で、単に腰が抜けただけだ。


「ほぉ……抵抗しないとは……お前さん、なかなか頭が回るじゃないか」


「ですね、姉御!」


 (誰だ……こいつらは……?)


「お前たちは誰……」


「お前さん……今どういう状況かわかってんのかい?」


 (俺が今どういう状況なのか……?えーっと、この状況を客観的に見てみると……うん、”盗賊かチンピラに絡まれている”状況だな!!え!?異世界に来てしょっぱなから!?嘘!?)


「あはは……あの……このナイフ…………どけていただけませんかね……当たっちゃうと危ないんで……あはは……」


 (相手は言葉の通じない獣ではない、人間だ。話せばきっと……)


「お前さんはふざけているのかい?もしくはよっぽど死にたいのか……」


 (えぇ……ご冗談を……死ぬ体験なんて一度きりでいいですよ……それに話も聞いてもらえないのか……困ったな……異世界初日にして命の危機が迫っているとは……どうやら俺はずいぶんと幸運の神様から嫌われているらしい。どうする……どうしようにも切り札なんかもないし……助けてくれそうな人脈すら作れていない。これぞまさに絶体絶命の大ピンチというやつだ。)


「ほぉ……お前さん、急におとなしくなりやがったな……ようやく自分の立場が分かったかい?」


 絶体絶命と気づいて意気消沈していた俺は、何もすることができず、ただ、されるがままになっていた。


「じゃあお前さん、本題に入ろうか……」


 (まだ本題にすら入ってなかったのかよ……だいぶ長い前置きだな)


「お前さん、人を殺したろ、いや、殺したね」


「え!?」


「とぼけるな!!」


 (とぼけるなんて……俺は本当にやってないし知らないんだが……)


「あの……本当に知らないんですけど……」


 そう言った瞬間、彼女らはゴミを見るような目で俺のことを見てきた。


「お前さん……アタシらをなめんじゃねぇぞぉ!?」


 言いながら女は少しナイフに力を入れた。ナイフの刃が俺の首の皮を切り、少量だが血が零れ落ちた。


「―――……!!!」


 それだけで俺の体には十分に恐怖が刻まれた。


「お前さん……これでも口を割らないと来たか……なら、次はお前さんの首と胴はこうなる。そう、泣き別れなる……お前さんはそれでいいのかい?」


 彼女「こうなる」と言いながら、首をきるジェスチャーをした。これはきっと彼女なりの最終通告のようなものなのだろう。だが俺は何も知らないし何もしてない、だって、この世界に来てからまだ一日も時間がたっていないのだ。


 それに、俺はそんなことをできる状況にあったとしてもきっとしないだろう。だが、このまま押し問答を続けていてもいつか、彼女が痺れを切らして前述の通り俺の首と胴が泣き別れになる可能性も捨てきれない。


 どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする!!!!!!!!!


 考えてもその答えは思いつかない。俺はいったいどうすれば……どうすればこの状況を打開できる?そう考えていた矢先、彼女らの後ろから誰かが走ってきた。


「あなたたち!!こんなところで一体何をしているの!?」


 その誰か……否、少女は顔を覆い隠すほどの仮面をかぶっていた。そのせいで素顔を拝むことはできないが、声で女性だとわかる。仮面の少女はピンク色の髪を紐で縛っており、服装は白色の軽装に薄ピンクのミニスカートだ。


(あいつもこいつらの仲間なのか?)


 そう思ったがどうやら違うようだった。


「あぁ?なんだお前さん?こいつの仲間か?」


 仮面の少女はその言葉に一切反応しない。


「姉御!あいつはきっとこいつの仲間ですよ!アタシがあいつを取り押さえてきます!姉御はそこでその男を取り押さえておいてください!」


 どうやら俺を抑えていないほうの女が彼女を取り押さえに行くようだ。彼女は仲間ではない!そう言いたかったが、首にあてられたナイフが俺にそれを許さなかった。


「大人しく捕まれ!殺人犯の仲間!!」


 女はそう言って仮面の少女を取り押さえようとした、女は鉄製のグローブをはめていた。あれで一撃を食らったら一日は立てなくなるだろうと思うほどゴツイ代物だった。


 だが、仮面の少女はただたたずんでいる。二秒もしないうちに仮面の少女と女の差は1mほどになった。


「危ない!!よけろォォォ!!」


 俺は思わずそう叫び、仮面の少女のもとに行こうとしたが、ナイフを俺に突き付ける女に顔面を地面にたたきつけられ、俺は仮面の少女のもとへ行くことはできなかった。


 次の瞬間、仮面の少女に女の拳が当たる、はずだった。


「本当はこんなことしたくないけれど……仕方ないよね」


 彼女がそういった瞬間、彼女は服の裾から短刀を取り出し、身を翻してパンチを避け、そのまま短刀の柄で女の首筋を強く打ち気絶させた。


「もう一度言うわよ!あなたたちはここで何をしているの?」


 (か……かっけぇ……すげぇ異世界に来てからはじめて戦闘見たけど……やべぇ……すげぇかっけぇ……)


 すると、俺の頭にかかる力が少し弱まった。どうやら俺の頭を押さえていた女が立ったようだ。


「ほぉ……お前さん、なかなかやるじゃないか……だが……こうも簡単に仲間をやられちゃぁ、ただでは返さないよ!お前さんの身ぐるみここに全部おいてきな!」


 そう言って彼女は服の裾を開け、その服についている大量のナイフを仮面の少女に見せつけた。


「さぁ、落とし前、つけさせてもらおうか」


 ナイフの女がそういったことを皮切りに、俺の目の前で戦いが始まった。


 先手を打ったのはナイフの女だった。彼女はナイフを三本ほど仮面の少女に投げた。だが、仮面の少女はそれをいとも簡単に短刀で叩き落としたが、その間にナイフを投げてすぐに走り出していたナイフの女が、両手に二本のナイフを握りしめて仮面の少女に急接近していた。


 ガキィィィィン!と、鉄がぶつかり合う音が辺りに高らかに鳴り響いた。


「ほぉ、やるじゃないか」

「できれば話し合いで解決したかったんですけどね」


 ナイフの女は仮面の少女の力を利用して、飛ぶようにして後退し、仮面の少女との距離を取った。すると、ナイフの女は勝ちほかったかのような笑みを浮かべた。


「ヤン!今だ!」


 ナイフの女は叫んだ。次の瞬間、気絶しているはずの女が急に起き上がり、仮面の少女の右足のふくらはぎを鉄のグローブで激しく強打させた。


「っっ……!!痛たっ……」


「ヤン!よくやった、あとはアタシに任せろ!」


 ヤンと呼ばれた女性はもう限界だったのだろう、仮面の少女に一撃を入れた後、またすぐに気絶した。仮面の少女は先ほどの攻撃のせいで足元がふらついている。ガキィィィィン!また鉄がぶつかり合う音が聞こえた。


 だが、仮面の少女は先ほどの攻撃のせいで短刀に力が入らないのだろう、ナイフの女に押されている。


「ははは!さぁ!大人しく地に伏せろ!」


 ナイフの女はそう言いながら左手のナイフで仮面の少女の短刀を食い止め、右手のナイフで彼女の脇腹を深々と突き刺した。脇腹にナイフが突き刺さったのを確認したナイフの女は、すぐに右手のナイフの柄を仮面の少女の前頭骨に強く強打させた。


 仮面の少女は血を吐いて膝を地面についた。短刀はもう持っていられないようで、ガシャン、と音を立てて短刀が地に落ちた。


「はぁ……はぁ……はぁ……お前さん、なかなかやるじゃないか」


 ナイフの女は息を整え、俺の方に向かってきた。


「さぁ、次はお前さんの番だ」


 ナイフの女はゆっくりと俺に近づいてきた。


(やばい……)


 グサッ


 その時刃物が刺さる音が鳴り、ナイフの女は俺の目の前で血を吐いて倒れた。ナイフの女の奥の方を見ると、どうやら仮面の少女が落ちていたナイフを拾ってナイフの女に最後の力を振り絞って投げたようだった。


 俺は腰が抜けていたが、それでも急いで仮面の少女のもとへ走っていった。どうやら彼女は気絶しているようだ。


 首筋に手を当てて心音を確かめたからわかるが、死んではいない。だが、ナイフの女に突き刺された脇腹からは血がどくどくと出てきていて、このままでは取り返しのつかないことになってしまう。俺は自分のシャツを脱いで仮面の少女の傷を塞ごうとした。


「死なないでくれ!頼むから!死なないでくれ!」


 周りを見ると、俺を襲ってきた二人組の二人は気絶しているがナイフの女は血が出ていて、このままでは危ないということが分かった。


 どうするどうするどうするどうするどうする……


 俺はこのグロテスクな惨状を見て呼吸が荒くなっていた。心臓がバクバク鳴り響いていて正直うるさいぐらいだ。思考もほぼ停止状態で頭の中が真っ白になるというのはこのようなものなのだな、と場違いながらもそう思った。


「どこかっ!!病院!……くそっ場所がわからない!どうする……誰か!――――――――あ」


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


「いやー、危なかったですねー、あのままだと死んでましたよ、あの娘」


 そう言ったのは俺の魔力が少ないときっぱり言い切った女性だ。女性は前述のセリフを言った後、すぐに忙しいと言ってすぐこの部屋から出ていった、


 俺は今、先ほど魔力をはかった建物の中にいる。あの場面で俺が辛うじて思いついたのは、すぐそばにあったここでにみんなを連れてくることであった。


 俺がいる部屋の中にはベッドが六つほどおいてあり、そのうち三つを二人組と仮面の少女が使っている。


 一応仮面の少女の仮面は取ったらやばそうだったため取らないようにしている。そのせいで水を与えることすらもできない。


 二人組は置いて行くのはまずいと思ったため連れてきた。もし連れてこなかったら介護してくれた女の人に何を言われるかわからない。だから連れてきたんだが……


「ここに来てからもう今日で二日だが、一向に目を覚まさねぇな、こいつら」


 一応、気絶だけのヤンは一度起きたのだが、安静にした方がよい、と、ここに来た医者にいわれたため今は眠っている。起きたときヤンは俺がいることに動揺していたが、殺されていないと知って安堵していた。俺、人殺したりなんかしたことないってのに……


 ともかく、ここに来てから二日がたったというわけだ。俺は仮面の少女にお礼を言いたいし、この二日、様子を見ている。


 呼んでもらった医者によると、俺があの時シャツで傷を塞いでいなければ仮面の少女の命は危なかったかもしれないようだ。俺にそう言った医者は仮面の少女とナイフの女を治癒魔法で癒してすぐに去っていった。


 ちなみに、仮面の少女は内臓のある当たりに傷が入ってたため、シャツで塞いでなかったら傷口が開いてそこから彼女の臓物とご対面することになっていたとか……そうならなくて本当に良かったと心から思う。


 ちなみにナイフの女はあばら骨が内臓を守ってくれたため大量出血だけで済んだらしい。大量出血だけって……だいぶ危ないけどな!!


 そんなこんなで時間だけが過ぎていった。というわけで俺は今、仮面の少女の身元を知るためにとりあえず冒険者ギルドに来た。


 本当は一日でも早く冒険者ギルドに行きたかったのだが、仮面の少女の容態を見ておくために行くことができなかった。


 だが、今日は体調が大分安定していたらしい、だから冒険者ギルドの発行する冒険者プレート?ってやつを仮面の少女が持っていたから冒険者ギルドに安全を伝えに来た。ここへの道は魔力をはかってもらったお姉さんに教えてもらったため、迷わずに行くことができた。


「すーーはーー…………よし、冒険者ギルド!頼もー!!」


 冒険者ギルド前で大声でそう言ったあと、俺は冒険者ギルドのドアを開けて冒険者ギルド内に入った。


 中にいる人に変な人を見るまでみられたがまあいいだろう。


 冒険者ギルドの中に入ると、まず真正面に見えるのは冒険者ギルドの受付だ。冒険者ギルドの受付は受付嬢の三人で仕事をまわしているようだった。


 その受付を囲うように階段がある。どうやら、どちらの階段を使ってもたどり着く先は同じようだ。


 次に右側を見ると、酒場のカウンターのような場所と大量の机と椅子があった。今は昼のため昼食を食べる冒険者たちしかいないが、夜になると、ここはおそらく酒場になるのだろう。


 最後に左側を見ると、クエストが張り付けてある掲示板や、なにやら地下に続いていそうな階段があった。俺は冒険者ギルド内を一通り見まわした後、受付嬢のもとへと歩いて行った。


「こんにちは、冒険者ギルドへようこそ、見ない顔ですが本日はどのような御用件でいらしたのでしょうか?」


「えっと、今日は身元確認がしたくって」


 そう言って俺は銅でできたプレートを差し出した。プレートには、”らるゔぁ?ありす?”という文字のようなものが書いてある。異世界の不思議、なぜか通じる言葉、なぜかわかる文字、これのおかげでプレートの文字を理解することができた。


 俺は受付の人にプレートを差し出した。受付嬢は差し出されたプレートの確認を始める。すると、突如、受付嬢の瞳から涙がこぼれだした。


「アリスちゃん……嘘でしょ……死んじゃったの……?」


 (え?死んだ?誰が?どゆこと?)


 俺の頭の中は疑問符でいっぱいになった。


「あの、アリスちゃんの最期は……立派でしたか?」


 (いやだから死んでねーし……今頃すやすや寝てるよ、誤解してるよこの人、どうしよ、てかなんでこうなるんだよ……)


「あの、勘違いされ……」

「アリスちゃんが!?アリスちゃんが死んじゃったのですか!?嘘ですよね!?」


 俺の言葉をさえぎるようにして、一人の少女が駆け寄ってきた。身長は〇ラえもんより小さいくらいだろうか、髪の色は風鈴色、目の色は紫苑色の中に紅玉色が混じっている。肌の色はベージュ色だ。少女はカウンターの上が見えないのか、背伸びをしていた。


「ねぇお兄さん!このプレートを持っていたのって、仮面かぶっている女の子でしたか?」


「そうだけど……」


 そういった瞬間、少女は泣き崩れた。


「アリスちゃん……死なないって……言ってたじゃないですか!!アリスちゃんのバカ!!なんで……なんで死んじゃったのですか……!!」


 (いやだから死んでないって!!何をどう勘違いしたらどうなるんだよ!!)


 よく見ると受付のお姉さん三人と女の子、それ以外にも冒険者ギルドにいる屈強な男たちも皆涙を流していた。さらばアリス、永遠に、とでもいうように。勝手にあの子を殺さないでもろてもええですかね?


「あのー、何か勘違いしているとこ申し訳ないんだけど……そのアリスって、死んでないよ?」

「「「「「「「は!?」」」」」」」


 ギルド内にいる人全員の声がかぶった瞬間だった。


「え?プレートをお持ちになったということは死んだという事じゃ……」


「いや、この娘の身元を確認するためにこれを持ってきただけだ、これの持ち主はベッドで今頃寝ているだろうよ」


 俺がそういった瞬間、まだ少し涙が残っているが、皆笑い出した。


「よかった……アリスが死んでいなくて……本当に良かった……」

「紛らわしいことを言うな、小僧」

「ちーにゃ、アリスが死んでなくてよかったね」


「はい!アリスちゃんが死んでなくて本当に良かったのです!アリスちゃんが死んでいないと知ってうれしいのです!」


 女の子は、まだ涙が残る瞳をこすりながら満面の笑みでそう答えた。俺に向かって駆け寄ってきた女の子はどうやらちーにゃと言うようだ。


 それとこれは後から聞いた話なんだが、どうやらプレートの持ち主以外の人がプレートをギルドに持ってくると、そのプレートの持ち主は死んだとみなされるらしい、今後気を付けよう。


 と、俺が冒険者たちの誤解を解くと、次の瞬間……


 ボコッ!


 (えっ……なにがおこ…………)


 俺の顔は地面に付いていた。


(…………は?)


「おいホラ吹き野郎!これはお前が紛らわしいことを言ったことへの戒めだ!これに懲りたら次からは紛らわしいことを言うんじゃねぇ!」


「ちょっと!マスキュラスさん!確かに紛らわしいことを言ったのは事実ですがここまでやることはないでしょう!」


「チッ!」


 どうやら俺は殴られたみたいだ。そして、俺を殴ったのはこのマスキュラスという男のようだ。彼は俺の頬を殴った後、そのまま舌打ちだけを残して、酒場のカウンターにずかずかと歩いて行った。


 マスキュラスは蛮族のような見た目で髪の毛がほとんどない。目の色は一瞬だけ見えたが赤色だった。肌の色は少し日焼けをしているのか茶色だ。


 俺が上半身だけ起こしてマスキュラスのいる酒場のカウンターを見ると、彼はどうやらお酒を頼んでいるようだった。


(いてて……あいつなんで急に……ああ、俺が紛らわしいこと言ったからか。)


「少年!大丈夫か!」


 酒がグラスに注がれてうまそうに飲んでいるマスキュラスを見ていると、不意に後ろから女の人の声が聞こえた。


「おお、気を失っていないのか!大したものだな!あ!あいつが手加減したからか!まあマスキュラスはあれでもBランク冒険者だ!あいつの拳をもろに食らったんだからな!さぞかし痛かっただろうな!!」


 (この人は……誰だ……?)


 目の前にいる女性は赤色の髪の毛を無造作に背中に降ろしていて、目の色は橙色だ。マスキュラスと同じで、この女性も少し蛮族のような見た目をしている。彼女も日焼けをしているのか茶色い肌だ。


「おい、ビア、声をかけるだけじゃなくてけがを治してやれよ、ほい!」


 そう言って、ビアと呼ばれた女性の後ろからやってきた男は、光り輝く玉のようなものを右手に生成し、俺がマスキュラスに殴られた場所に投げつけてきた。


(なんだこれ?)


 よけることもできなく、殴られた場所に光り輝く玉が命中すると、痛みが引いていった。


(なにこれ?本当になにこれ?とりあえずお礼を言わなきゃな。)


「けがを治していただきありがとうございます」


「ん?礼はいらねぇぞ、うちのバカがつけた傷を治しただけだからな」


「アァ?誰がバカだ!!リーポス!!」


 (この人はリーポスっていうのか、ってえぇ!?この人、獣人だ。さっきはギルドの明かりのせいでよく見えなかったが、この顔は……)


「うさぎ?」


「お?なんだ兄ちゃん、兎の獣人を見るのははじめてかー?ほれ、俺の姿を目に焼き付けておきな」


 そう言ってリーポスは少し俺の前でポーズを決めた後、すぐにビアと呼ばれた女性とともにマスキュラスの方へと歩いていった。リーポスと呼ばれた兎の獣人は白いもふもふの毛に包まれている、触ってみたい。それと、目の色は赤かった。


「ててっ……なんだったんだ、あいつらは……」


「あの人たちはBランクパーティの”剛力”のメンバーの皆さんなのです」


 俺がそうつぶやくといつの間にか隣にいたちーにゃにあの人たちのことを教えてくれた。


 どうやらあの人たちは剛力、という冒険者パーティのようだ。以後覚えておこう。


 俺はそう思い、ちーにゃに視線を送った。すると、ち―にゃは何か聞きたげな目をして俺の方を見ていたことに気づいた。多分それを聞きに俺の方へ来たのだと思う。それにしてもちっちゃいな……


「ちーにゃ……であってるよな?なんか聞きたいことでもあったか?」


「はい、ちーにゃの名前はちーにゃなのです、ところでその……おにーさん、アリスちゃんは今どちらにいるのですか?」


 そういうことか。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


「アリスちゃん!アリスちゃん!!!」


 俺はあの後、ちーにゃをアリスのもとに連れてきた。ここに来る前に受付のお姉さんにアリスについての情報を少し聞かせてもらった。アリスはCランク冒険者で、冒険者パーティには未所属、今はこの町にいる殺人鬼を探すクエストの最中らしい。


(なるほど、それで俺のところに来たわけか。殺人鬼ではないけれども。)


 その話を聞いた後、俺はちーにゃの「アリスはどこにいるのか」の答えを教えるために連れてきたというわけだ。


 ここに来るまでにちーにゃにはすでに俺の名前を教えてある。ちーにゃはそれに対してフルネームを教えてくれた。ち―にゃのフルネームは”チーニャ・パルウム”というらしい。覚えておこう。


 ちーにゃは寝ているアリスを見た瞬間にすぐ駆け出し、アリスの体を抱きしめて泣いていた。しばらくすると、ちーにゃは泣き止み、そして俺にこう聞いてきた。


「ユーマ君、アリスちゃんをこんなのにしたのは誰なのですか?」


 俺は横のベッドで寝ているナイフの女を指さした。


「こいつ」


「こいつなのですか!?なんで横で寝かせてるのですが!?」


「いやだって大量出血してたから……」


「大量出血しててもなぜ……」と、ちーにゃはぼやき、そのままちーにゃは呪いの言葉のようなものをしゃべり始めた。


(怖っ!!)


「あのー……ちーにゃさん?これはいったいなにをしているのでしょうか?」


「決まっているのですユーマ君、こいつを呪っているのです」


 ですよねー……なんとなく予想はしてたけども。


「あのー、ちーにゃさん、これは一体どのような呪いをかけていらっしゃるのでしょうか……」


 そう聞くとちーにゃは満面の笑みで答えた。


「こいつが寝ている間悪夢にうなされる呪いなのです!」


 (怖ぁ……これはまたえげつないものを……)


「アリスちゃんをこんなにして、やすやすとは死なせない、苦しめて苦しめて苦しめて、この世を地獄と、そう、死んだほうがましだと思えるまでなぶってやる……」


 (わぁ、ここで呪うのを止めたらやばそうだな……俺に矛先向いてきそう。うん、止められないな、ごめん、ナイフの女、それにまだちーにゃに聞きたいものもあるし……よし、そうだな、自然に呪うのをやめさせるのもかねて今聞こうか。)


「なあちーにゃ、アリスが追っていた殺人鬼の事件について教えてくれないか?」


 俺に似ていると噂の殺人鬼とやらはこの町で過ごすのなら脅威だと思うし、知っておくべきだと思う。

〈固有名詞辞書〉

ハルモニア王国・・・約1000年前に南の大陸にあるとある国の貴族が民を率いて興した国。先住民族の亜人たちとともに調和を保つ国を作っている。

レンタメンテ・・・『安らぎの町』と呼ばれている町、のどかな空気が流れる町、この町は高い塀に覆われていて町から出るためには北門、東門、南門、西門のいずれかから出るしかない。中央に領主の城があり、領主の城は湖の中央にある、入るには橋を渡らないといけない。領主の城の前(南側)には中央広場と呼ばれる大きな広場がある。広場の中心には噴水や時計塔があり、公園のようになっている。(遊具はない)城から見て北側には商業施設や市場の区域、東側と西側は住宅区域にレストランなどの飲食店、ギルドなどがある。町の南側にはスラム街や教会がある。


〈次回予告〉

少女を助けて異世界に転生した少年シトウ・ユーマの物語が始まる!

この街で今起きている『殺人鬼事件』事件の詳細をちーにゃから聞いたユーマは翌日冒険者ギルドに加入するべく意気揚々と冒険者ギルドに乗り込むが、冒険者ギルドに加入するためには試験を受けなければならなかった。試験費すらも持っていないユーマはとある方法でお金を稼ぐことになる!

次回!『ユーマ流 お金の稼ぎ方』

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サド言いがかりヤバすぎない?
2025/04/26 18:35 ナッパの頭
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