15.嵐の前のなんとやら
10000PVありがとございます。
「ほんと、なんで空から落ちてきたんだよ……意味不明、無理解」
俺はぼやきながら三人から二人増えて五人の看護をする。ちなみに冒険者ギルドによると、看護すれば町中クエストと同じ判定になるらしいから、これはボランティアとかじゃなく、お仕事でちゃんとお金を貰えるようだ。
俺が落ちてくるアリスとミリュを発見したのはほんの一時間前のことだ。
「ってかアリスはほんとにどこ行ってたんだよ、ってかなんでミリュも……?」
今は二人ともルイナさんに温かい布で汚れを拭いてもらっているが、俺の前に落ちてきた時はそれはそれはひどく汚れていた。だが、『剛力』の三人と違って怪我とかはしてないが、ただ呻いているだけ……
(ほんとに何が起きたんだろ)
だが、そんな事を考えても時間の無駄だ。目が覚めたあと二人に聞けばいい、他のことを考えよう。
「にしても、あの蛇人間ほんとにどっかで見たことある気するんだよな」
(もし見ていたとしたらこの世界……なわけねぇよな、となると前の世界……ん地球?でも地球に、ましてや日本にあんな化け物はいなかった、ってことは……)
「アニメかゲーム、それと小説とかかな……あと漫画の可能性もあるな……」
可能性があるとすれば前の世界のメディアどもだろう。
「あー……でも俺そういうの結構好きだったから割と見たりプレイしたりしてたんだよな……」
これはまずい、これでは何の作品が特定が出来なくて、あの蛇人間がなんなのか分からないではないか、まあそもそもあの蛇人間を見たことがあるというのは俺の間違いというのなら本末転倒だが。
「あー!くっそ!気になる!」
「―――何が気になるんだぁ……兄ちゃん……」
「え?リーポス!?」
俺が病室だと忘れて大声を出した次の瞬間、ベッドで寝ていたはずのリーポスが目を覚ました。
「痛ぇ……」
リーポスは頭をさすりながら体を起こす。彼はそのまま、キョロキョロと周りを見回し、『剛力』のメンバーとアリス、そしてミリュがいるのを確認すると、ほっと息をつき、それから俺の方を見て、
「兄ちゃん……あれから……どれくらい時間が経った……?」
質問が来た。あれから、というのがどこからかは分からないが、俺たちが『剛力』のメンバーを見つけてからだったら……
「二時間くらいだな」
俺は言った。
「二時間……か……じゃああの殺人鬼は……」
「あー、リーポス、悪いんだが」
おそらくリーポスは蛇人間のことを言っているのだろう。だが、蛇人間は殺人鬼ではなかった。起きた直後で俺も言うのを少し躊躇ったが、早く言っておいたほうがいいだろう。
「あの……リーポス……あの蛇人間は、殺人鬼じゃないぞ?」
俺は言う。すると、リーポスは「冗談だよな……?」と、言い、顔をわなわなさせる。
「兄ちゃん……?何いってんだ?蛇人間?あいつに俺たちがやられるわけねぇだろ?」
「え?」
確かにそうだ。リーポスたちは、市場で殺人鬼を何体も倒していた。
「俺たちがやられたのは正真正銘殺人鬼だったんだ」
「え?蛇人間じゃないの?」
「ああ」
「マジかよ……」
ここで衝撃の新事実発覚、まさかのあの場に殺人鬼がいた。
「となると、俺もタイミング悪けりゃ殺人鬼とエンカウントしてた……?」
俺が呟くと、それにリーポスが反応する。
「えんかうんとってのがなんなのか分かんねぇが、兄ちゃんも殺人鬼と遭遇してた可能性もあるな」
(危なかった……)
俺は思いながら胸を撫でおろす。
「じゃあ、リーポス、俺からも質問いいか?」
「ん?いいぞ」
「アリスはどこに行ってたんだ」
そう、それが疑問だったのだ。『剛力』のメンバーたちと一緒にあの建物に入ったはずなのに、あの場に倒れていたのは『剛力』のメンバーだけだった。
アリスが殺人鬼に捕まってたのだとしたら、とっくに食われているはずなのに、食べられていない。意味不明なのだ。
だが、俺の質問をリーポスは理解できなかったようで、「は?兄ちゃん、何言ってんだ?じゃあなんでここにアリスがいる」と言ってきた。
「親方!空から女の子が!って感じでゆっくりじゃないけど落ちてきました」
「ちょっと何言ってるかわかんねぇが……アリスは空から降ってきたのか?」
「はい、ミリュもですが」
「どういうことだよ!」
「どういうことですかね?」
俺たちは頭の上に疑問符を思い浮かべる。
「まあそれは一旦置いておいて……じゃあアリスは殺人鬼に連れてかれたってことでいいんですかね?」
「ああ、推測だがな」
「推測?それってどういうことですか?」
「あの時市場であったアリスいただろ?」
「ええ、いましたね」
「あれ、ニセモンだ」
「はい、にせも……はい!?」
俺は驚いて、一瞬理解が追いつかなかった。
「え?偽物……?にしても精巧過ぎませんか!?ってか誰が化けてたんですか!?」
「あれは、蛇人間が化けてたんだ」
「蛇人間が……?」
「ああ、そうだ。俺たちは罠にはめられたんだ」
リーポスは言いながら自分の手を見つめる。
(そうか、あれは罠だったんだ。てっきり建物の中にいた蛇人間が建物のドアを閉めて一網打尽にしたんだと思ってたけど、殺人鬼が蛇人間を使って罠にはめたって考えると全部繋がるな…)
「こりゃ大変なことになったな」
リーポスが呟く。
「大変なこと?」
俺が聞き返すと、「ああ、兄ちゃん、市場で話したことは覚えてるか?新種の話」と、リーポスが、聞き返し返しをしてきた。
「ああ、はい、覚えてますよ、確か新種のモンスターが現れると冒険者ギルドがそのモンスターの研究で、忙しくなるんですよね?」
「そうだ。モンスターの情報やギルド本部への報告、討伐方法の解明、その他もろもろ、それに加え、今回の場合は……」
「モンスターが人間に擬態して、かつ、殺人鬼に協力している……ですよね……」
俺が言うと、リーポスは「知能も高い事もな」と、付け足した。
「これ、かなりまずいんじゃないですか?」
「ああ、かなりまずい」
「何がまずいんだ?」
「「――!!」」
俺たちの間に割って入ってきたのは、この冒険者ギルドのギルドマスターだ。
「あ、リーポスさん、あとよろしくお願いしますさようなら!」
(さっさと退散だい!)
「おお、君もいたのか、シトウ・ユーマくん」
「あああああぁぁぁぁぁあ!!!(なんか名前バレてるんですけどーー!!!)」
俺は叫びながら頭の中でも叫んでいた。叫びすぎyeah。
ギルドマスターに名前を呼ばれた俺は、石像のように固まってしまった。
「少し……君たちが遭遇したという、例のモンスターについて話が聞きたくてな」
ギルドマスター言いながら部屋の中へと入って来る。立ち上がって固まっていた俺をギルドマスターは肩を掴んで逃げ道を塞いだ。
(なんか怖い!!)
思いながら俺はギルドマスターの横に座る。
「それで?リーポスは今怪我をしているだろう?ユーマくん、君が説明してくれるかな?」
「ひゃっ…!ひゃい!!」
盛大に噛んだ。
俺はその後、たどたどしいながらも、ギルドマスターに事件の一連の流れを話した。
(何回か噛んだけど……まぁ…大丈夫っしょ!)
俺は思いながら何か思案しているギルドマスターの顔を見つめる。すると、ギルドマスターは、俺の視線に気付いたのか俺の方をちらと見た。
少しビクついてしまったが、それ以上ギルドマスターは何もしてこないので俺はほっと息をついた。
「それで、この話は誰かにしたのか?」
不意に、ギルドマスターが口を開いた。
「えっと……受付嬢のルイナさんに話して、で、新種のモンスターだからもう今頃は冒険者ギルドに紙かなんか貼ってあるんじゃないですかね?」
ギルドマスターは「もうそんなに……」と呟いていたが、それはいいとして、
「あの、ギルドマスター?そろそろ出てってもらえますかね?ほら、六人重傷者がいるわけですし……」
とりあえずこの部屋からでていってもらいたい。昨日の夜のことがあるし、なんなら逃げたしすごく気まずい、そう、例えるなら別れた彼女を含んだ友達たちと一緒にご飯を食べないといけないくらいに……まあ、俺彼女いたことねぇから実際のとこわかんねぇけど!!年齢=彼女いない歴の人間だけど!
と、頭の中で悲しくなるという自爆技をかましていき、俺は、ギルドマスターにはやくでていってもらうため、満面の笑みを浮かべながら目力を強くしてギルドマスターを見つめる。
(出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ出ていけ)
怖いんです。昨日の夜のこと、もし誤解されてたと思うと……うっうっ……(泣き真似)人の心なんてわからんので、できればしばらく距離取りたいんです……すいません……杞憂であって欲しいんです……
頭の中で言うが、それはギルドマスターには一つも届いていない。
俺はそれをわかっているが、怖いからやめない。なんかこのままだと昨日の夜言った『フッ…この町に潜んでいる……殺人鬼を倒すためさ…』を実行しにいってこいって言われそうで怖い。
昨日の夜なんか深夜テンションでテンション爆上げyeahだったし……今思い出すと羞恥心で顔真っ赤だわ…
思いながら俺は今もテンションがおかしいyeah……こほん、おかしくなっていることに気づいた。
が、今はそんな事どうでもいい、ギルドマスターよ、はやくでていってくれ、すごく失礼なこと考えているとわかっているが、出ていってくれ、とりあえず出ていってくれ。
そんな俺の願いが届いたのか、ギルドマスターは「時間を取らせて悪かった」と言い、立ち上がって思いの外すぐに帰ってしまった。
これはこれで拍子抜けしてしまうが……まあいい、俺はそのまま眠っているリーポスたちを見た。
いつの間にかリーポスは眠っている。
「こいつ……」
だが、リーポスは俺がギルドマスターと距離をおきたい事知る由もなかったのだ。仕方ない……仕方ない……今なら眠ってるし一発くらいなら殴っても問題ないのでは…?
(よし、リーポス、歯ぁ食いしばってくれ、お前に恨みはないけど、いやあるわ!うりゃあ!)
俺は思いながら拳をリーポスに振り下ろそうとした。
「あぁ?ここは……ギルドの医務室…?」
声が聞こえた途端、俺は振り下ろそうとした拳をサッと隠す。
「お……おはようございます……マスキュラス……さん……」
俺が言うと、マスキュラスが鋭い眼光をこちらに向けてくる。
「なんだぁ?ホラ吹き野郎……?あぁ、くっそ……そういうことか……」
マスキュラスはどうやら俺を見た瞬間、事態を把握したようで、そのまま部屋にいる人物を、目で確認した。
「俺たちは、殺人鬼に負けた。そうだろ?ホラ吹き野郎」
「そのホラ吹き野郎って言うの辞めてくれない?俺には親から名付けられたユーマという名前が…」
「ユーマ、そうだろ?」
「え?あ……ああ、そうだ」
(なんだ?マスキュラスのやつ、あっさり引き下がったな…)
俺は拍子抜けしてしまい、気の抜けた返事をマスキュラスに返してしまった。
(こいつこんなに聞き分けいいやつだったんだ……見た目的に絶対渋ると思ってたのに…)
この時俺は学んだ。人は見かけで判断してはいけないと……
「おいホラ吹き野郎!聞いてんのか!」
「ひゃい!」
俺は自分の世界にトリップしてたせいでマスキュラスの話をよく聞いていなかった。
「ったく、もう一回だけ言ってやる、おいユーマ、アリスをどこで見つけた?」
「そこで」
「は?」
俺が「そこで」と言ったタイミングでギルドの入り口の方を指差すと、マスキュラスは予想外のことに驚き、気の抜けた返事をしてしまっていた。
「どういうことだ?」
マスキュラスはすぐに冷静さを取り戻したようで、とりあえず詳細を聞こうとしたようだった。
「アリスは空から落ちてきた、ミリュと一緒に」
「は?」
(やっぱそうなるよな〜……多分俺も聞く側だったら「は?」ってなると思うしな……なんなら今ですらどういう状況か分かってないし……)
俺はそう思いながら「俺もわからないんだよ、一応ルイナさんにギルドの屋上を調べてもらったけど結局何もわからなかったらしいし」と言う。
そんな俺の言葉にマスキュラスは「なんだそれ?意味わかんねぇ……」と呟いてから「てっきり俺ゃぁアリスはもう殺人鬼に殺されてるもんだと思ってたが……」と言う。
「まあとりあえず今は休むことが大切だと思うぞ、子守唄いる?」
「いらねぇよ!!ったく、わかったよ、今は体力を回復しねぇといけねぇからな、静かにしてろ、ホラ吹き野郎」
そう言って、マスキュラスは俺のいる方とは反対側を向く感じで目を瞑った。こいつなんだかんだ聞き分けいいんだな……
「さてと、あとは『剛力』のメンバーで起きてないのはビアさんだけなんだが……さっきから起きてますよね?」
俺がそういうと、ビアのベットがもぞもぞと動き、ひょっこりビアの顔が布団の中から出てきた。ビアは少し考えるような仕草をしたあと、
「おはよう!シトウ少年!」
と、大声で言ってきた。
「さっきまでマスキュラスと話してただろ?邪魔するのも悪いと思ってな!声をかけなかったんだ!今はマスキュラスが寝てるみたいだな!」
「ビア、お前の大声のせいで折角眠りかけてたってのに起きちまったぞ!どうしてくれる!」
「ちなみに俺もさっきから起きてるぞ」
マスキュラスは寝てないと知っていたが、リーポスも起きていたのか……と思いながら「早く寝ろ」と釘を刺して俺は部屋を出ていった。そろそろ時間だしな。
◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆
「あ、ユーマさん、お疲れ様です」
そう言って部屋に入ってきた俺に声をかけてくれたのはルイナさんだ。他にいるのは…
「ああ、君もきたのか」
「あ、ギルドマスター……」
俺が今会いたくない人ランキング堂々一位であるギルドマスター、
(まあ、そりゃいますよね)
別に俺はギルドマスターのことを嫌っているわけではない。だが、俺はギルドマスターが怖かった。
(だってあの人なんか企んでる顔してるもん!)
俺も見間違いの可能性が高いが、ギルドマスターは何か企んでいるような気がした。俺はそういうのにできるだけ関わりたくないので一定期間は避けようと思っているだけだ。それだけは忘れないで欲しい。
「で、なんでお前がいる?」
「俺もこのギルドのメンバーでやんす、これを見るのは問題ないと思うんでやんすがね?」
そう言ったのは俺がまだ許していないミグルだ。意外と俺ねちっこいからな〜、
「言うけど、俺はまだお前のこと許したわけじゃないからな」
「……わかってるでやんす」
ミグルは言いながら正面にある蛇人間の死骸を見つめている。
そう、俺たちは今、市場に放置されていた蛇人間の死骸の周りに立っている。場所は冒険者ギルドの実験室、粉砕された鱗も全て回収済みで、魔法ギルドというギルドのお偉いさんたちもきているようだ。
尚、魔法ギルドの人たちは厨二病言葉で話すため彼らの話は極力省略させて頂く。
ちなみに他にいるのは商業ギルドの人たちなどで、彼らは蛇人間の素材の買取価格などを話している。
呑気なものだ。町が蛇人間によって壊滅させられるかもしれないと言うのに……
「にしてもほんとにこの蛇人間どこで見かけたんだろ……」
蛇人間を見ながら考えるが、全く思い出せない。
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!わっかんねぇぇぇぇぇ!!」
俺は頭を抱えながら、思わず大声を出してしまった。
「汝、静寂を破るもの、この場の掟に従えぬもの、行いを改められるまで立ち去るが良い、それが、我々にとっても良いことだろう(略:お前この静かな空気ぶち壊すんなら早よ出てけ、うっせえわ)」
不意に魔法ギルドの人がそう言った。
「あれ?俺声に出てた…?」
俺は今更になって気付いた。
「早急に去れ(略:はよいけ)」
最後しか何言ってるかわからなかったが、出て行けと言うことだろう。
(まあ、当然だな)
俺は思いながら部屋を出ていった。
◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆
「フラマ!!」
炎になりきれなかった火の粉が舞い、同時に俺の声が誰もいない闘技場に響き渡る。当然だ。この時間の冒険者の大半は居酒屋に行ったり冒険者ギルドの食堂で飯を食ったり、夜の店に行ったりしている。
故にこの時間帯はほぼ貸切状態となる。
「インスパイラ!!」
だが、弱々しい風が吹き抜くだけだ。
「――フォルティス・コルプス」
それは、魔力が全身に纏われ、それが爆発するように消えていった。
「もっかい!」
だが、俺はそれでも諦めない。諦めたら俺が嫌だ。
「フラマ!!!」
先程より大きくなり、火球と唐牛で呼べる大きさになった。だが、またすぐに火の粉となる。
「インスパイラ!!!」
風は、前のように俺の周りに纏われず、一瞬、闘技場に風が吹き抜けた。だが、弱々しい風だ。
「フォルティス・コルプス!!!」
(魔力を体全体に平べったく塗り拡げる感じで……)
そう意識しながら発動させると、気を抜けば暴発しそうだが、少しは制御できるようになった。
「ぷはぁっ!」
息を吐くとフォルティス・コルプスは解除される。だが、解除されても暴発したりはしなかった。
「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」
俺は闘技場の真ん中で仰向けになって天井を見上げる。
「くうっ!っしゃ!!」
ビアとリーポスに教えてもらった時に比べたらすごい進歩だ。俺は嬉しさのあまり仰向けのままガッツポーズをした。
何度も何度も失敗したが、及第点と言ったところだろうが、ここまで進歩できたのは大きい。
「誰もいない闘技場で一人魔法の鍛錬、ね」
「………っっ!!ミリュ!?」
俺が倒れていると、上から俺の顔を覗き込むものが現れた。ミリュだ。
「なんで!?気を失ってたはずなのに!」
「ふん、あんなの私ならすぐに解けるわ、精神魔法の使い手に精神魔法を食らわせるなんて、あの蛇もバカなことをするわね」
ミリュは言いながら腕を組んでいる。そして、俺が立ったのを確認し、
「私たちが眠っている間、あなたが看てくれてたんですってね………ありがとう」
礼を告げてきた。「ありがとう」という言葉が少し小さい声だったような気がするが、気にしないでおこう。
「お前、もしかして照れ…」
「そう言えば一人でガッツポーズしてたけど…なにかあったのかしら」
ミリュは話を逸らした。俺はそのことを追求せずに、
「ああ、ついにフラマとインスパイラ、それにフォルティス・コルプスの練習しても暴発しなくなったんだ!」
と、進捗を報告した。
「そう」
ミリュは俺の言葉に短く呟き、何故か遠い目をして一度目を瞑り、「なら、実用的に使えるようにもっと練習しなきゃね」と言った。
「ああ、そうだな」
「じゃあ見せて」
「え?」
「あなたの魔法を見せて、と言っているの、はやくしなさい」
ミリュは言いながら目を細めた。
「あ、はい」と俺は即座に応答し、右手を前に突き出し、「フラマ」と唱えた。
俺の手のひらに出来たのは半径10cmほどの火球だ。
(だけどこれを飛ばそうとすると…)
パァァァン!!
音を立てて火球は火の粉となった。
「なんでかこうなっちゃうんだよなぁ……」
俺が途方に暮れたように項垂れるとミリュが不意に光化させていた杖を取り出し、短く、「フラマ」と、唱えた。
ミリュが作った火球は俺の作った火球の100倍ほどの大きさがあった。
「あわあわあわあわあわあわ」
「……なにあわあわ言ってるの、心配しなくてもあなたには当てないわよ」
「だって怖いものは怖いんだもん!仕方ないでしょ!!」
ミリュはそんな俺を見ながら、俺の頭の上をカスる位置に火球を放り投げた。その火球は俺の髪の毛を少し焦がした。俺をハゲさせようとしたのかな?
「当ててるじゃん!!当てないって言ってたのに当たってるじゃん!!」
俺は唾を飛ばしながら叫ぶ。ミリュはそんな俺を見て笑いながら、
「ふっ……わざとよ」
と告げてきた。
「わざとだったら尚更駄目じゃねぇか!!」
俺は叫びながらミリュを睨む。だが、彼女はそんな事お構い無しに近づいてきて、こう言った。
「あなた、さっきの火球にだ大分ビビってたわね、そう、俗に言うビビリってやつね」
「あぁ?」
ブチッ!と言う音が聞こえそうなくらい俺はキレた。
「はぁ?ビビり?あんな炎ぶつけられかけたら普通驚くだろ!あんなのでビビり判定入ってたら全人類とは言わないがそれでも大半の人がビビりになるんですけど?そこんとこどう思っていますかミリュさん?」
俺が言いながらミリュに近づいていくと、彼女は一瞬考えるような仕草をしたあと、「自分の出した炎にもビビってるあなたに炎をかすらせたら面白そうだと思っただけよ?悪い?」と答えた。
「カッチーン」
俺は声に出して言う。
「おうおうおうおう!!俺をバカにし過ぎじゃねぇか?ミリュさんよ!」
「あら?そんなに言うなら、フラマくらいでビビったりしないわよね?ほら、あなた自分が出した炎ですらビビってたじゃないの、ビビリじゃないって言うのなら、フラマくらい使えて当然よね?」
ミリュはそう言って俺のことを煽ってきた。またブチッ!と言う音が鳴るくらいにキレた俺は、
「なんだおら!やってやんよ!」
と言いながら両手を前に突き出した。
(やってやんよ!舐められっぱなしでやめられるか!おら!)
「――フラマ」
俺の手のひらに火球が現れる。今は先ほどと同じくらいの大きさだ。
(まだだ)
火球は急速に大きくなっていく。だが、まだやめない。
(ミリュより時間がかかっても!絶対にあいつよりおっきい火球作ってやんよ!!)
火球の大きさは、2倍、3倍、4倍と、溜めるごとに溜まるスピードが大きくなっている。
火球はミリュが作ったのと同じくらいの大きさとなる。
「まだだ!」
今度は声に出す。
火球はミリュが作ったものの1.2倍ほどの大きさになった。
「おらぁ!!お前が言うビビリの火球受け止めてみろよ!ミリュよぉぉぉぉぉ!!!」
俺はそう言って、火球を思いっきり投げた。思ったより火球は熱くなくて、大きなボールを投げる感じで火球を投げることができた。
「『我がしるべに従いし者たちよ、いかなる刃も恐れるな。古の契約によりて、守護の環を編む。闇にも光にも屈せぬ意志よ。揺るがぬ盾は、今ここに築かれる。滅びの風すら届かぬ場所へ!』アエギス・トータリス!」
ミリュは迫りくる火球見ながら高速で詠唱し、中級魔法であるアエギス・トータリスを発動した。
アエギス・トータリスとは、物理攻撃でも、魔法でも、なんだったとしても、耐久力がなくならなければ壊れないという防御魔法だ。
ミリュはそれを火球と自分の間に展開する。だが、火球はそれを素通りした。
「っっ!!まずいわね」
ミリュは言いながら迫りくる火球を見つめていた。もうすぐで当たる。そう思った瞬間、巨大な火球がミリュのすぐ横をカスり、ミリュの後ろで爆発を引き起こした。
「おい、なんだ?ビビりはどっちだよ!あんな?俺これでもバスケやってたんだよ!ボールコントロール位できるっての!」
俺は言いながら、ミリュを指で指した。
砂煙が晴れ、未だ防御魔法を展開しているミリュが見えた。どうやら彼女は途轍もなく、そう、途轍もなく怒っているようだった、
「………、………!!…………!!!!」
「え?なんて?」
「だから!なんであんなのを!急に!人に向けて!飛ばせるのかって!聞いてるの!!」
ミリュは俺のしたことにすごくキレていた。
「あなた本当に勘が悪いのね!」
「おいおい……ビビリの次は勘が悪いやつかよ……散々な言われようだな…」
「違うわよ!」
ミリュはそう言って否定してくる。
(え?何が違うの?なんか違うことあった?)
「あなた…人に説明されないと何もわからないの?察しなさいよ!!」
急にミリュが迷惑彼女みたいなことを言い出した。だが、ミリュはなんのことを言われているのかちんぷんかんぷんな俺の様子を見て、諦めたかのようなため息をつき、
「はぁ……でもとりあえずあなたがフラマを使うことができたからよかったわ」
と言ってきた。
「あ、ちょっと待って、もうすぐで理解できそう」
俺はそう言って頭の中を整理する。そして、一つの結論に辿り着いた。
「もしかしてあんなに俺のこと煽ってたのって……」
「はぁ……ほんっっっっっとうにあなたは勘が悪いわね、そうよ、演技よ」
ミリュは忌々しげに俺を見てきた。
「あなた、ちょろいわね」
「何も返す言葉がありません……」
(畜生!よくよく考えてみればそうじゃねぇか!!あの煽り多分ミリュが俺のこと奮起させるために演技しただけなんだわ!気づけよ俺!!)
俺は思いながら頭を抱える。ミリュはそんな俺を見てふんっと鼻を鳴らし「いい気味だわ」と言いながら服についた砂埃を払っていた。
「あ、そうそう、あなたのさっきの火球のせいであそこ、燃えてるわよ」
「え?」
そう言ってミリュが指差した先には、なるほど俺がさっき火球を飛ばした場所だ。結構燃えてる。
「でも俺水魔法なんて使えねえぞ…」
俺は言いながら燃え盛る炎を見つめていた。
「あなた、なんの魔法を習ったの?」
ミリュが聞いてくる。
「えっと、さっき練習してた三つだな、フォルティス・コルプスとインスパイラ、それとさっきのフラマだ」
俺がそう答えると、ミリュは「そう」と呟き、「アクア」と、短く唱えると、俺たち二人の周りに水球を大量に作り出した。
「ユーマ、聞いて、この水球は普通に触れると」
ミリュはそう言って水球に触れる。すると、水球は弾け、水となって地面に落ちる。
「さあここで問題よ、この水球を使ってあの炎を鎮火するにはどうすればいいと思う?」
「ミリュがこのまま水球を炎に向かって飛ばす」
「……その方法もあるけど、今回私は水球を作り出すこと以外は協力しないわよ」
「じゃあインスパイラで風に乗せて運ぶ」
俺がそう答えると、ミリュは頭を抱えて「はぁ……どうしてそれが先に来なかったのかしらね……」と言い、続けて、「やるべきことが見つかったのなら早くしなさい」と言って俺の背中を杖で小突いた。
(こいつなんだかんだ言って俺の特訓に協力してくれてんだな…)
俺は思いながら右手を前に出す。
「ミリュ、ありがとな」
「礼を言う暇があったら早くしなさい、あまりにも遅れると明日の新聞の一面に冒険者ギルド全焼の記事が載ることになるわよ」
「わかってるよ、———インスパイラ」
俺が唱えると、少しづつ風が渦巻くように生成される。
(あの後、何度も練習したんだ)
俺は思いながら風を渦巻かせる。風には徐々に水球が絡まっていく。俺は全ての水球が絡まったことを確認すると、「行け」と小さく呟き、燃え盛る炎に向かって投げつける。
ジュゥゥ……
と言う音と共に炎が鎮火されていく。少しすると、炎が燃え盛っていた場所に残っていたのは水たまりと焦げた後だけだった。
「魔法使えると、気持ちいな…」
俺が一人呟いていると、ミリュが歩いてくる。
「これであとはフォルティス・コルプスだけね」
「やっぱお前優しいな」
俺が言うと、ミリュは「そんなことないわよ」と少し照れながら言っていた。
「でもなんでこんなに手伝ってくれるんだ?」
俺が聞くと、ミリュは遠い目をしながら「人にものを教えるのが楽しいって……少し前に気づいたからよ、だから、今回のことも私が勝手にやっただけ、いいこと?」と言う。
「じゃあ、次はフォルティス・コルプスね、あなた、魔力は大丈夫?」
ミリュは聞いてくる。でも大丈夫だ。
「魔力はこれ飲めば回復するからな」と言いながら俺は魔力回復ポーションを取り出す。
(巨大フラマとインスパイラでかなり魔力持ってかれたしそろそろ飲もうって思ってたんだよ)
俺は思いながらポーションを飲み干す。
「これで今日は18本目だな」
「は?」
「へ?」
俺が飲んだポーションの本数を答えると、ミリュは驚愕が隠せていない顔で「18本目!?あなたいつからここにいるの!?」ミリュに言われ、俺は思い出す。
「どれくらい経ったか忘れたけど確か8時くらいに始めたはずだが……」
俺が言うと、ミリュは「嘘でしょ……?」と呟き、「昨日からずっとここにいるってこと!?」と言ってきた。
「え?昨日から?………ちょっと待って今何時?」
〈次回予告〉
フラマとインスパイラを取得したユーマは、闘技場にやってきたアリスに連れられ、会議に参加することになる。今ある情報から策を思いつくことはできるのか!
次回!『あ、思い出した』
水曜に投稿できるかは知らんが一応見に来てね!