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14.蛇人間事件

テスト期間なのに最終確認してるけど暇じゃないからね!

「へぇ〜結構これ面白いな」


 俺は言いながら本のページをめくる。一ページ、一ページと、のめり込むように俺は本を読み進めていき、やがてその本を読みきった。


「挿絵結構グロかったけどそれがまたいいな」


 本の表紙に目を落とし、先ほどまで読んでいた本の内容を思い返す。本を読み終わった後、スマホをいじっていると、いつの間にか先ほどの本について調べていた。


「え?これ二次創作あんの?」


 調べていくにつれ、この本に感銘を受けた人たちが、二次創作をたくさん出していることに気づく。


「ちょっと読んでみよっかな」


 二次創作とはいえども、あの作品をもう一度読みたい。そう思った俺は、またこの本について調べていくのであった。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


「心当たりは……あるよ、だって、そのモンスター……私が市場まで連れてきちゃったから」


 アリスがそう言った瞬間、場が凍りついたかのように静寂に包まれた。


(アリスがここまでこいつらを連れてきた?なんで?どうやって?)


 俺の頭の中は途端に疑問符でいっぱいになった。


「おいアリス、詳しく説明しろ、何かあんだろ?理由がよ」


 そう聞いたのはマスキュラスだった。マスキュラスはそのままアリスの目の前に行くと、見下ろす形で「何があった?」と聞く。


(威圧感ハンパな!!あんな巨漢に見下ろされるなんて恐怖そのものじゃん!!近いって!俺だったら失禁するかもしんねぇぞ!?その場合命をかけてしないけども!)


 と、頭の中で俺が騒いでいると、アリスが口を開いた。


「そのモンスターは……殺人鬼の……仲間……なの……」と。


「は!?殺人鬼の仲間!?どこにそんな根拠があるんだよ!?」


 不意に、リーポスが言った。それを聞いたアリスは、「うん、だって、目の前で見たから」と、リーポスの方を見てそう言った。


「目の前で見た?どういうことだ?アリス?」


「そのままの意味よ、このモンスターは、殺人鬼の後ろから襲いかかってきたから」


 ビアが聞くと、アリスはわかっていたかのようにさう答えた。


「アリス、お前……まさか……」

「殺人鬼と遭遇したのか」


(おいマスキュラス、今絶対俺が言うセリフだったよね?なんでお前が言ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??)


 そんな俺の心中はさておき、アリスは俺とマスキュラスの推測通り「うん」と言いながら首を縦に振った。


「私、殺人鬼と遭遇したの、少し前にね」


「そうか、なら殺人鬼は今どこにいる?」


 アリスが殺人鬼と遭遇したという確証が取れた瞬間、マスキュラスはアリスにそう聞いた。


 てっきり俺は、アリスがここにいるのだからもう行方をくらまして、殺人鬼は逃げていったのだと思っていた。


 しかし……


「今、ミリュが殺人鬼と戦ってるの、今から案内するから、ついてきてくれない?」


 どうやら殺人鬼はまだ逃げていないようだった。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


 アリスに案内されること、はや30分、俺達は、町の南側にあるスラム街へと来ていた。


 俺は始めてスラム街に来たため、興味深く辺りをキョロキョロ見回した。ボロボロの家に、薄汚れた布を羽織る子どもたち、痩せこけた老人に、ハエにたかられる少女、そんな劣悪な環境下で、彼らは生きている。


 だが、そんな彼らを助けられる力が俺にはない。俺は心の中で『ごめんなさい』と謝りながら彼ら家の間を通っていく。


「本当に、ここであってるんだよな?」


「うん、もうすぐ着くよ」


 ここまで全力で走って30分なのだ。それもフォルティス・コルプスを使って。俺はリーポスにおんぶしてもらってここまで来たが、皆は、先ほどの戦闘のあとなのだ。疲労が溜まっているであろう。


 マスキュラスも少し苛立っているような気がする。


(はやく着かねえかな……)


 そう、俺が思ってすぐに、目的地に辿り着いた。アリスの言葉に嘘はなかったようだ。


「嬢ちゃん、本当に、ここなんだな?」


「うん、リーポス、ここだよ」


 リーポスが確認を取るとアリスは笑顔でここが目的地であると答えた。


(なんだ……?今一瞬リーポスが驚いていたような……気のせいか……?まあ、いいか)


 アリスの言葉を聞いた皆は、警戒しながら中へ入っていった。俺は少し移動して、外から中が見えて、かつ安全な位置に移ろうとしたが、


(……うーん、ちょっと待って、窓ォ!なァァァァァァァァァァァイッ!!!!皆ァ!!窓ォ!ナァァァァァァァァイッ!!!よし、窓ねえんだったら中で安全な場所を探して……あれ……?)


「ふんっ!ふんっ!ふんっ!なんで……?」


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


「扉が閉まってる?」


「ああ、さっきまであいてたはずなんだが……」


 言いながら扉の奥から力を入れて強引に扉を開こうとする音が聞こえてくる。おそらく、ユーマが中に入ろうとしているのだろう。


 その音を聞いて、マスキュラスは面倒だと思いながらも扉を開けようとしたが、彼らが入ってきた時は開いていたはずの扉は、最初から開いていなかったかのように固く閉まっていた。


「変だな」


 マスキュラスは言いながら先に入っていった仲間たちを見る。


 その時だった。


「ふふ……ふふふふふふっ!!あはははははははっ!!」


 アリスが、奇怪な声でケタケタと笑い出したのは。


「おい、アリス、これはどういうことだ!」


 マスキュラスは怒鳴ると、アリスは、後ろを振り向き、笑い涙を出しながら答えた。


「だって、紛いなりにもこの町最強の冒険者ともあろう人たちが、こーんな簡単な罠にのこのこと引っかかるなんて!あははは!おっかしぃ!!」


「アリス!何を言っている!?」


 アリス(?)の言うことを理解できなかったビアがアリス(?)に聞く。だが、それは、無駄だったようだ。なぜなら、それは言葉そのものの意味だったからだ。


 アリス(?)の顔がぐちゃぐちゃになり、それと同時に体もグロくぐちゃぐちゃになっていく。そしてそれは黒く変色していき、人型の蛇の形になる。


「これで分かった?おバカさん達」


「「「―――!?」」」


 そこに立っていたのは、見間違えようのない、先ほど倒した蛇人間と同じものだった。


「おい、てめぇ、本物のアリスはどこへやった?」


 驚くことに、マスキュラスは一番落ち着いていた。そんなマスキュラスを見ながら、蛇人間はフッと笑い「あの小娘のこと……?さあ?死んだんじゃない?」と答えた。


 次の瞬間、


「そうか、じゃあお前も死ね」


 目で追えないほどのスピードで迫ったマスキュラスは、そのまま、あんぐり口を開けている蛇人間の目の前に拳を突き上げて言う。


「―――ヴァルクレア!」


 炎が爆ぜる音とともに砂埃が舞う。砂埃が晴れ、そこに立っていたのは、一人だけ……ではなく、両者ともに立っていた。


 一つ変わっていたことは、両者の間に一人の男が立っていたこと、それと、彼がマスキュラスの拳を片手で受け止めていたことだ。


「まあまあ、喧嘩はよしなよ」


 言いながら彼は白いローブを風にたなびかせていた。リーポスたちは警戒を強める。


「そんなに警戒しないでよ〜」


 彼はリーポスたちの方を見る。彼は白いローブを羽織り、髪の毛の色は黒色だ。この特徴は……


「お前かァ!殺人鬼ィ!!」


 殺人鬼の特徴と一致していた。マスキュラスは拳を殺人鬼に振り下ろす。


「あれぇ?君、どこかであったかなぁ?」


 殺人鬼は言いながら片手でマスキュラスを持ち上げた。マスキュラスほどの巨漢を持ち上げる怪力、噂通りの化け物のようだ。


「うぁぁぁ!!」


 マスキュラスはそのまま壁に向かってボールのように殺人鬼に投げ飛ばされた。


「軽いなぁ」


 彼はフッと、空を切る音とともに消えた。次の瞬間、彼は自分が吹き飛ばしたマスキュラスの前に突如現れ、胴に強い蹴りを入れた。


 マスキュラスは反応が遅れてしまい、その一撃をもろに食らった。


「ぐはっ!」


「次は君たちだよ〜」


 殺人鬼は間髪入れず、ビアの目の前に現れる。ビアは、腕をクロスさせ、防御態勢を取った。だがそれは殺人鬼にとって、何の障害にもならない。殺人鬼はビアの腕に強打を入れてねじ伏せた。


「かはっ!」


 ビアは、吐血しながら倒れる。ピクリとも動かない。どうやら気を失ったようだ。


 その様子を事態を理解できていないリーポスが見つめる。殺人鬼はそれを見て、何を思ったのか不意にリーポスの後ろに現れ、肩をトントンと叩いてリーポスに自分が後ろにいることを気づかせる。


 リーポスは反射で後ろに蹴りを入れるが、もう後ろには誰もいない。


 何も理解できないまま、上空から飛びおりてきた殺人鬼の、フライングラリアットをもろに受け、リーポスは気を失う。


「これ、ほんとにこの町最強なのぉ〜?」


 殺人鬼はいいながら地面に倒れている『剛力』のメンバーを見つめる。


「さすがは"あの方"に認められたお人、お見事です」


「ここまでの誘導ご苦労さまぁ、ありがとねぇ〜」


 言いながら、少し離れた場所で事態を傍観していた蛇人間が手を叩きながら殺人鬼に言う。殺人鬼は、そんな蛇人間の仕事を労うように礼を言った。


「直にあちらも終わるでしょう。そうすれば、我々の邪魔をするものは"奴ら"だけになる……あははは!実に滑稽なものだな!」


 蛇人間はおかしそうにケタケタ笑う。


(ほんと、やられてるな〜)


 殺人鬼はそう思う。


「じゃあ、もうこの人間たちは、食べていいのかなぁ〜、よだれが止まらないんだよ〜」


 殺人鬼は言いながらよだれをダラダラと溢す。蛇人間はそんな殺人鬼に「いえ、まだ待ってください」と制止させた。


「あちらが終わるまでは、まだだめです。あなたにはあの方の加勢に行ってもらいます」


「…………はぁ……面倒だな……【蠕動する王】……あいつなら一人で大丈夫だろうに……」

「あの方のことをあいつなんて呼ばないでください!あの方はいずれ神になられるお方なのですよ!!」


 殺人鬼が、"あの方"のことを"あいつ"というと、蛇人間は先までのうやうやしい態度と打って変わって、激怒した。


「はは!完全に狂信者だなぁ……ま、いっか、いいよ、ちゃちゃっと終わらせてくるよ」


「……そうしてください」


 蛇人間は腑に落ちない顔をしながらも、手をひらひらと振って地下に降りていく殺人鬼の背中を見つめ、「あなたがもしも"あの方"に認められたお人でなければ八つ裂きにしてやったというのに……」と、出来もしないことをぼやいていた。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


 殺人鬼が地下へと降りていくと、白髪の少女が呻きながら倒れている。そして。そのそばには、蛇の姿をした蛇人間とは別のモンスターが立っていた。


「おぉ~、やってるやってるぅ〜、だいじょーぶ〜?」


 殺人鬼はカツカツと足音を立てながら降りていく。


『"オルフィス"…………貴様か……このむすめ、かなりのやり手であった。見事だ』


 殺人鬼……オルフィスが近づくと、【蠕動する王】、蛇人間に"あの方"と呼ばれていたモンスターがそう答えた。


「この、精神魔法の使い手らしいからねぇ〜、君と戦い方が同じだから苦戦したんじゃないのぉ〜?」


 オルファスが軽い口調で言うと、其は『断じて否、この娘の精神魔法は我の精神干渉よりも下であった……故に容易に制圧が可能であった。だが、そこな桃色の小娘よりは耐えたな……我の精神干渉にこれほどまで抗える人間などそうそういない……』と言った。


 其は言いながら桃色の小娘……アリスの方を見た。彼女は息こそしているが、苦しげな表情で呻いている。


『そこな桃色の小娘は、精神干渉こそ簡単だったが……"蛇化の呪い"が効かない』


 其は言いながら七つの目を光らせる。だが、蛇化の呪いは発動せず、ただ其の目が光っただけになる。


『白髪の小娘は精神魔法の使い手であるが故に蛇化の呪いが効かないのはわかる。だが、桃色の小娘までも効かぬのは理解不能だ』


「君が手を抜くはずもないし……変だなぁ〜……僕が始末しておこうかぁ〜?」


 オルフィスが言うと、其は『否』と前置きをし、続けて、『まだ原因がわからんのでな、始末するのは惜しい、かといってこの娘たちを無理矢理にでも蛇人間にでもしても、その後何が起こるか分からない、ならば、このままこの状態を続けることが賢明であろう……』と言った。


「まあ、君の言う通りにするよ」


 オルフィスは言いながらつい一時間ほどの前のことを思い出していた。


 オルフィスは一時間前、いつも通り、平民街にいるふっくらと肉付きのいい人間を食らうため、裏路地でさっとさらって、この建物に連れ帰ってきた。


 今までは裏路地で食べていたのだが、最近は"其が大きくなってきたため"この建物に連れ帰ってきていた。


 今日もいつも通り若い女を食らっていた時だった。いつの間にかつけられていたのだろう。不意に建物の扉が開き、二人の少女が入ってきた。


 オルフィスたちは地下にいたため、少女たちが来ることはないと高をくくっていたが、思いの外、少女たちはすぐに地下へと続く階段を見つけ、地下へ歩いてきた。


 少女たちは、すぐに攻撃を仕掛けてきたため、オルフィスも応戦しようとしたが、其が『我にやらせろ』と言ったため、オルフィスは傍観しているだけだった。


 少し時間がかかったが、其の得意技である、精神干渉のおかげで桃色の少女はすぐに制圧することが出来た。


 だが、白髪の少女は長い間耐え続けてきた。


(う~ん……なんか長いなぁ〜……お腹も空いたし……あのたちを食べれればなぁ〜……でも其がいるし……あ、そうだ)


 オルフィスは思いついた、蛇人間の"人間擬態能力"を使えば、さらに他の人間も捕まえることができるかもしれないと。


 桃色の小娘は、前々からオルフィスたちを追っていたことから、彼女が冒険者であることはわかっていた。


 だから彼女を使って、冒険者を捕獲しようとしていたが……正直、この町最強とも言われる冒険者パーティー『剛力』のメンバーを一網打尽にすることができるとは思っていなかった。


(拾いものをしたなぁ〜)


 オルフィスは思いながら、其を見る。其はオルフィスをチラ見するだけで、すぐに白髪の少女に視線を戻す。


 その時だった。


 ボカァァァァァァァン!


 大きな音が上の階で鳴ったのは。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


 これはまずい


 ユーマは直感でそう思った。


「急に扉が開かなくなるなんておかしい、こういうときなんか絶対起こってるし、内側からも開けないってなると……やっぱ罠にかけられてるって考えるのが普通だよな……?かといって俺がどうにかして凸っててもなんともならねぇし……誰か呼びにった方がいいよな……」


(なんか笑い声も聞こえてきてるし……絶対何か起こってる)


 俺の方針は決まった。なら、善は急げだ。


「急げ急げ!」


 俺は誰か助けを呼びに行った。だが、ここは貧民街、いるのは痩せこけた人たちだけ、到底助けてくれそうにもなく、どちらかと言えば助けられる側の人間しか周りにはいなかった。


「誰かっ!誰かいねぇのか!?」


 だが、この貧民街では誰も助けてくれそうなものはいない。……はずだった。


「……?お前さん、こんなところで何してんだい?」


「さ……ぁ……ど……?」


 突然のことに、驚いて声が裏返ってしまった。


「アタシもいますよ!!」


 声をかけられ、そちらを振り向くと『紅組』のサドとヤンがいた。


「―――!!ふたっ!二人とも!助けてくれぇ!!」


「急にどうしたのかい……?なにがあ……」

「殺人鬼が出たんだ!」


「――案内しな」


 サドは『殺人鬼』という名前を聞いた途端、それまでの軽口を言うような口調から一転して、真面目な口調になった。


「ついてきてくれ!」


 俺は言いながら走り出す。その後ろからサドとヤンはついてきてくれる。


「こっちだ!」


 路地を抜け、通りを走り、ゴミで作られた丘を飛び越え、目的地へと急ぐ。


「あの建物だ!」

「あれだね!」


 サドは俺を追い越し、扉を開けようとする。だが、扉は依然としてしまったままだ。前述の通りこの建物には窓がない。


 この建物に入るところが第一関門となりそうだったが……


「――ヤン」

「わかりました!」


 サドが一言呟くと、後ろからヤンが鉄手袋を嵌めて前に出てくる。


「味方じゃなきゃその鉄手袋かなりあぶねぇな……」


「あの時のことは悪かったって言ってんだろ!過ぎたことをいつまでもくよくよしてんじゃないよ!」


 いつの間にか隣に来ていたサドに俺の呟きが拾われ、ツッコミを入れられた。(が、まあいい)思いながら俺がヤンの方を見るとヤンは、なにやら力をためていた。


「お前さん、アタシたちはね、今までも壁にぶつかったとき、こうして真正面からぶち破ってきたのさ、だから、見てな」


「行きますよっ!!グランデルム!!」


 ヤンがそう叫ぶと、腕に土が纏われていき簡易の装甲が出来上がる。魔力で作られたその土は鉄手袋の周りに集まった。


「はぁぁっ!!」


 魔力で作られた故に土の強度は鉄をも凌ぐ硬さだったようで、拳が振るわれた鉄製の扉は豪快な音を立てながらガラガラと崩れていった。


「――!?誰ですか?」


 扉が崩れた先には、声を発した異形、否、蛇人間がいた。そしてその周りには……


「ビアさん!リーポス!それにマスキュラスまで!!」


 気を失っている『剛力』のメンバーたち、アリスがどこにも見当たらないが……


「お前さんが……殺人鬼かい?」


 不意に、横から声が聞こえた。それは、禍々しいほどの殺気を立てているサドの声であった。


 いつも荒々しい喋り方をしている彼女だったが、今はいつも以上に荒々しい……そう、彼女はキレているのだ。


「どうなんだい?何か答えな!」


 サドは痺れを切らし、建物の中に響き渡るような大声でそう叫んだ。


 だが、当の蛇人間は……


「殺人鬼……?誰がですか?私ですか?ふっ……はは!あの人と間違えたのですね!そうですか!不愉快ですね!!」


 と、キレ気味に言ってきた。


(なんでそんなにキレてんの?)


 そう思ったが、今は声を出さないでおこう。なんせ……


「あなたたち、"二人"でここまで乗り込んで来たのですか?随分甘く見積もられたものですね!それに、そこの男に関してはまだ逃げられるチャンスがあったと言うのに……本当に、おバカですね!!」


 蛇人間は言いながら俺たちに指をさしている。サドと俺の二人に。


 蛇人間の後ろに人影が現れる。ヤンだ。俺もいま気づいたばかりだが、いつの間にか後ろに回り込んでいたようだ。


(こいつ……やりおるな……!!)


 ということは、俺とサドの役割は蛇人間の注意を惹きつけること、俺とサドは目を合わせ、自分たちの役割を確認する。


「あぁ!?誰がバカだって!?バカっていうお前のほうがバカなんですぅ!もっかい言ってみろや!」


 俺の作戦その1【俺もキレ気味に話すことで対抗してる感を出す】


「フッ!バカはバカでもあなたは騒がしいバカですね!」


 失敗、蛇人間は挑発に乗らなかった。


「こいつのことはいい、で?お前さんは殺人鬼じゃなければなんなんだ?亜人でもなさそうだし……モンスターにしては喋り過ぎだが……」


 サドの作戦その1【蛇人間に話をさせて自分から視線を外させないようにする】


「そんなこと、あなたに言う必要、私にありますか?」


 またしても失敗、蛇人間の口を割らせることも難しそうだ。


 俺の作戦その2【その1でキレた状態を継続しながらガン飛ばしに行く】


「――なんですか?それ以上近づいたら切り裂きますよ?」


 俺が近づこうとした時、言いながら蛇人間は硬そうな腕を持ち上げて俺に見せつけてくる。


「ひぃっ!!」


 俺は萎縮して進めていた足を止めた。これも失敗だ。


「お前さん……死にたいのかい……?アタシに任せな」


 サドは小声でそう言う。


「おお、なんか頼もしいな」


 サドの作戦その2


「お前さんが死にたいのかい?蛇野郎」


 サドは言いながら蛇人間の方へ一歩近づく、


「あなた……それ以上近づいたら…………――!!」


 サドの作戦その2【殺気を放つ】


「あぁ!?なんか言ったか!?」


「なんですか!?そんなので私が怯むと思っているのですか!?舐められたものですね!!」


(違う、違うんだよ蛇人間、俺たちの目標はお前を怯ませるためじゃないんだ)


 蛇人間の後ろでヤンが魔法の詠唱を終えたのか、構えを取っていた。既に準備が終わっているようだ。それを見たサドは早急にことを済ませることにした。


「お前さんが舐められんのはそういうとこさね」


「――サグマ・テルラエ!」


「――!!」


 ヤンが唱えると、蛇人間の周りに複数の土でできた武器や土の塊が現れ、すぐさま蛇人間に向かって一斉射撃が行われた。


 蛇人間の周りに砂埃が舞う。


「おいユーマ!たたみかけるよ!」


「……っっ!はい!」


 サドに言われるが、全然準備をしていなかったため、一瞬判断に遅れてしまう。


 その間に、砂埃をかき分け、サドは蛇人間の鎖骨のあたりをナイフで切り裂いた。


「……くっっ」


 蛇人間は後退しようとするが、そこにはヤンがいる。


「グランデルム!!」


「――ぐはぁ!」


 蛇人間がノックバックして俺の近くに来る。


「ナイフに魔力をためろ!!」


 言いながら俺はナイフに魔力をこめる。次の瞬間、炎と雷がナイフから放出された。


「うぉぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


 グサリと鈍い音が鳴り、炎のナイフが心臓の部位に、雷のナイフが脇を貫通していた。


「ぐぅ………ぇ…………」


 ナイフを刺したまま硬直する俺と蛇人間、そして、上からポタポタと落ちてくる蛇人間の紫色の血。


 "蛇人間は絶命していた"


「やったん……だよな……?」


 俺は言いながら嫌悪感に体中が苛まれた。


「ひっ…………!」


 前のことがあってから、頭にリミッターがかかったのかのように、血を見るたびに過呼吸になってしまう。


 俺はすぐさま蛇人間からナイフを外した。


「お前さん……よくやった」

「やりますねぇ」


 ちょっと一人危ない労いの言葉だったが、現代の踏み絵は異世界まで適応されることはないだろう。俺はツッコまなかった。


「誰か水魔法使えませんかね?手、拭きたいんですけど……って言いたいんですけど"こいつら"先に連れ帰りましょう」


 そう言って蛇人間の血で濡れた指を下に倒れている『剛力』のメンバーたちに指した。


「そうだね、殺人鬼ではなかったにせよ、これは頂けない状態だからねぇ、三人だから一人ずつ連れてけるね、ヤン!」

「あいあいさー!」


(さっきからなんかヤンの言葉のバリエーション多くない?)


 思ったが、声には出さず、俺はリーポスを担ぐ。


「ほら、しっかりしてください!」


 俺は言いながら建物をでて冒険者ギルドへと戻っていく。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


 殺人鬼でこそなかったが、蛇人間の出没は、町に激震が走るものであったことに違いない。


 だが、俺たちはこの世界で生き残っていかないといけない、俺たちはまた、明日の朝日に向かって……


「あれ?そう言えばアリスはどこ行ったんだ?」


 今になってふと気づく。今は『剛力』のメンバーたちを冒険者ギルドの医務室のベッドの上に寝かせており、俺はその看護をしているのだが……


「――?アリスはみんなと一緒に入っていった……よな……?」


 呟きながら冒険者ギルドの扉を開け……


 ドサッ


「は?」


 何かが上から落ちてきた。そう、落ちてきたのだ。それがもしも"それ"なかったとしたら、こんな風に驚かなかったのかもしれない。


 ……前言撤回。これ以外でもちょっと驚いてたかもしんない。


 それはいいとして、なぜ、


「なんで……アリスとミリュが落ちてきたんだ……?」


 そう、落ちてきたのは人間、それも瀕死になった人間であり、友人だ。


 頭の中で、まだあの事件は終わっていないと、警鐘のサイレンがけたたましく鳴り響いていた。

〈次回予告〉

終わったと思っていたはずの事件はまだ終わっていなかった!だが!まだみんな寝てる!ぐっすり寝てる!

次回!『嵐の前のなんとやら』

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