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11.赦しを乞い、動き出す

一時間遅れ!


シリアスパート?は、とりあえず今回で終了です。主人公以外のシリアスパートはちょくちょくあると思いますが、とりあえず予定通りに行けば六、七章辺りまで主人公のシリアスパートはありません。なのでこっからネタ入れてきます。じゃなきゃただシリアスで重すぎる鬱展開小説になってしまうので。そして最後に、シリアスパート好きの皆さん、ありがとうございました。ここからはひとまず主人公以外のシリアスパートだけで我慢してつかあさい……ここまでは一章の長い前置きみたいなもんです。なのでここまでにあったこと全てにいろいろと意味があります。逆に言えば次話からが本番みたいなものですね。


それでは!ここまで読んだ方は主人公のシリアスパート最終回(すぐ終わる)にお進みください。


挿絵(By みてみん)


〈絵の説明〉

今回は一章後編に登場するキャラです。名前はまだ伏せておきます。容姿はかなり似せることができました。以上です

 一日目、何も変わらなかったでやんす。でもまだ時間はあるでやんす。残された時間でどうにかするしか……ええい!早く起きるでやんす!ユーマ!!


 二日目、また、何も変わらなかったでやんす。でも、虚ろな目は少しづつ光を取り戻してきたでやんす。……少しづつじゃ……ダメなんでやんすよ……早く……早く戻ってくれでやんす!ユーマ!!


 三日目、ついに最終日、夜になってしまったでやんす。もうすぐミリュがここに来るでやんす……ああ神様……奇跡は……起きないのでやんすか……?――?なにか下で音がするでやんす。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


「それで?これをどう説明するの?あなたたち」


 眠っているユーマをベッドに運び、その周囲で『英霊の影』のメンバーとちーにゃ、そして、ミリュが一斉に介している。


 今日はミリュとの約束の日の夜、ミリュは結果を見にここへ来たはずなのに、入った瞬間、問題のユーマが駆けてきたのだ。さぞかし彼女はびっくりしたことだろう。


「えっと…………それには事情がありましてですね……」


 カリカルパが事情を説明しようとミリュの前に出た。ミリュはそんなカリカルパを鋭い目で見て、「続けなさい」と言い放つと、カリカルパは、「はい」と答え、「結果から言うと、ユーマさんは治ったと思われます。ですが……」と続けた。


「なに?」


「おそらく、まだミグルの失態を話せていないので、裏切り者だと思われ続けてる可能性が……」


 カリカルパがそういうと、ミリュは納得したようで、「で?それはわかったけど、なんで枷が外れているの?」と、次の質問をした。


 今度はリアナが答えた。


「多分、ユーマがウィース・マキシマムを発動したからとれちゃったね、枷が外れる前に呟いてたし……」


 ミリュはその言葉を聞きながら、「そう、それなら確かに枷を外せるわね」と言いながら、ユーマの方を見た。


「そろそろ起こしたほうがいいんじゃないの?これで治っていなかったら問答無用で殺すけど」


 ミリュはそう言いながらユーマを起こそうと手を伸ばしたが、それをクレスが引き留めた。


「なに?」


「あの、まだ来たばかりですしお茶でもどうかなー、なんて……」


「………………震えてるわね」


 ミリュの腕をつかむクレスは、なるほど、震えているエフェクトが見えそうなほどにわかりやすく震えていた。


「はは………ちょっとだけ……ちょっとだけですよ……怖いんです……もし治ってなかったらって思うと……」


 クレスはそう言いながらミリュの腕を離した。ミリュはそんなクレスを見て、「そうね、でも、それじゃ何も変わらない」と言って、今度は誰にも留められることなくユーマの肩を揺さぶった。


 ユーマの瞼が震え、ゆっくりと目が覚める。


「――………ここは……あっ!そうだ!くっそ!はやく…………あ、おはようございます……」


 ユーマは一瞬逃げ出そうとしたが、今度は万全の状態で囲まれていることに気づく。すると、観念して布団の中から逃げ出すなんて無謀なことはしようとしなかった。


「ユーマ、私の名前はわかる?」


 ミリュがそう聞くと、ユーマは「…………ミリュだろ」と言いそしてユーマは続けて、「俺からも質問いいか?」と言ってから「なんで俺のことを”化け物”って呼んだ?」とミリュの目をまっすぐ見てそう言う。


「それは今から教えるから」と、ミリュは前置きをして、「その前にあなた、狂ってた時の記憶は覚えてる?」とユーマに聞く。


「狂ってたってのはあの気持ち悪い顔してた時のことか?」とユーマが聞くと、ミリュはこくりとうなづいて肯定した。


「えっと……俺は確か鉄球と戦ってて、いつの間にか眠ってて、で、そのあと目を覚ましたらミリュが牢の中にいて、で、また眠って、起きたらこいつらが牢にやってきて、逃げようとしたらミリュに眠らされて……ちょっと待て、俺眠ってばっかだな!!」


 ユーマが大きな声でそう言うと、ミリュは「やっぱり……軽い記憶障害になってたのかしら」と呟き、ユーマに「じゃあ、あなた、狂ってた時に私たちのことをなんて言ったのか……覚えてないわよね?」というと、ユーマは、「……なんて言ったのか覚えてないんだが……なんて言ってたんだ?」と聞いた。


 そしてミリュは一度目を閉じてから開け、ユーマに向けてこう言った。


「あなた、私たちのことを血袋って呼んだのよ」

「――!!??」


 ユーマはその言葉を聞いて自分が言ったことなのに信じられなく、息が荒々しくなっていた。


「なんで……?そんなっ……嘘っ……だろ……?」

「でも、それが事実なの」


 ミリュは残酷な現実を突きつけて、ユーマに向かってそう言いきった。


「私は、魔法を使って、あなたの頭の中に入ったわ」と、ミリュは言い、続けてユーマに「落ち着いて」と前置きをしてから、「あなたがあの森でしたことや感じたことはわかってるわ、だから、あなたのことは誰も咎めない、いいこと?」と言った。


 ユーマが息を整えるように大きく深呼吸をした。


「ああ、わかった、ありがとな、ミリュ」とミリュの目を見て彼はそう言った。


 だが、続けて彼は「でも、俺は俺を裏切ったこいつらを許さない」と言いながら『英霊の影』のメンバーを睨みつけた。


「それにも、理由があるの」


 ミリュがそういうと、ユーマは「理由?」とミリュの方を向いてそう聞く。ミリュはそんなユーマを見て、「ええ」と頷き、「詳細はここにいるミグルが話すわ」と言って、ミグルに焦点を当てた。


「んで?なんだ?ミグル、言い訳でもするのか?」


 ユーマは厳しい目でミグルを見つめてそう言った。ミグルはユーマの目を見返して「………そうでやんす、言い訳をするでやんす」と言い切った。


 ユーマは驚いていた。

 まさか素直に言い訳をすると言い切るなんて、思ってもいなかったのだから。


「すまんな、うちのアホリーダーの話を、最後まで聞いてやってくれねえか?」


 ユーマがミグルの発言に驚いていると、不意にダイドがそう言った。


「俺は…………つまらねえ言い訳は聞きたかねえぞ」


 ユーマはミグルにそう言い、そのまま今でさえ厳しい目をさらに強めた。


「俺の…………」

「なんだ?」

「俺の……………………不手際でやんす!!」

「は?」

「実は冒険者ギルドでユーマに話しかけるよりも前から、ずっと話を聞いてたでやんす。単独でモンスターを討伐するのは討伐対象以外のモンスターもいることからやめておけと言われていたところも全部。それで、俺の仲間たちに『ユーマが単独でモンスターを討伐する手伝いをしてくれ』って頼んだんでやんす…………ユーマにもそれをきちんと伝えておけば裏切られたとも思わずに…………あんなことにならずに済んだでやんす…………だから…………だから!!ごめんで…………やんす…………」


 ミグルは話していくうちに涙が出てきていた。


「なんであのモンスターが討伐対象だって教えてくれなかったんだ?」

「見たことのない敵に対して、瞬時の対応力をつけるためでやんす」

「じゃあ、なんで鉄球が出てきたときすぐにいなくなった?」

「俺たちも突然ホーガン・ナゲが出てきたので驚いてすぐに場を整えていたんでやんす」

「じゃあ、あの柵は?」

「他のモンスターに邪魔させないためでやんす」

「お前らはあの時何してたんだ?」

「柵の外にあるモンスターを倒してたでやんす」

「じゃあカリカルパは…………」

「ユーマの様子見とピンチの時に助けるためにいったでやんす…………」


 ミグルが一つ一つ質問に答えていく。その答えを聞いたユーマは歯を強く噛んだ


「ふざけんじゃねえ!!ふざけんじゃ…………ねえ…………」


 怒りたかったのに、怒れなかった。

 でも、それをしょうがないと笑って終わらせることも出来なかった。


「なん……だよ……お前ら…………」


 俺は裏切られたんじゃなかったのか?


「ユーマが起こる気持ちもわかるでやんす…………本当に……ごめんでやんす」


 ミグルは続けてもう一度、俺に謝ってくる。


「ふざけんじゃ…………」


「ユーマ、あなたがこれを受け止めたくないのはわかるわ、でも、これが現実なの」


 ミリュは俺を諭すようにそう言ってきた。


「ユーマ……俺たちからも、すまなかった」

「すいませんでした。ユーマさん、僕が気付いていれば……」

「ごめんね……」

「すいませんでした……」


 ミグル以外の『英霊の影』のメンバーも謝ってくる。


「なん……だよ…………なんだよそれ!!」

「ユーマ、受け止めなさい」


「わかってる!わかってるんだ!!」


 ミリュに制止された俺はつい熱くなってしまい、声を張り上げてしまった。


「わかってる、このアホのせいで今回のことが起きたって、誰も悪くないんだって……でも…………認めたくねえんだよ!!」

「でも……これが現実……」


「だからそれもわかってる!……わかってる……のに……」


 張り上げた声はすぐに小さくなり、俺は掛け布団を見つめる形で俯いた。が、どうしても続きの言葉が出てこない。


 俺はそのまま黙りこくり、室内には気まずい空気が流れた。それを断ち切るようにミリュが、「今はユーマを一人にしましょ」と、『英霊の影』の皆を見ながら提案した。


 不意に、泣きそうな顔でミグルが「わかったでやんす」というと、一人づつ部屋から出ていった。


「ちーにゃ、ちょっと残ってくれ」


 最後尾にいたちーにゃが出ていこうとした時、俺はそう言ってちーにゃを引き留めた。先ほどは雰囲気を察して黙っていたようだが、一つだけ聞きたいことがある。


 ちーにゃは、俺が呼ぶと「なんですか?ユーマ君」と言って振り向いた後、ドアが閉まる音とともにちーにゃ以外の皆が出ていったことを把握すると、ちーにゃは「どうしたのですか?」と聞いてきた。


「…………なあ、昨日、あの時……お前はなんで笑った?」


 ミグルたちがやったことについては取り合えず今はいい、ミリュが証人だしな。まあ、ミリュが裏であいつらと手を組んでいた可能性も考えたが、それはないだろう。…………ないと思いたい。っていうか信じたい。


 だが、問題はそれとは別にある。

 昨晩、俺が起きたときに、なぜちーにゃが笑ったのか、それだけが理解できなかった。それを本人に聞くために残したのだが…………


 俺がそう思っていると、ちーにゃはなんだそういうことか、と言わんばかりに俺の目を見て、


「ちーにゃもあの時、『英霊の影』のしたことを知っていたので、両者の認知に差異がありすぎるとおもうとついおかしくなって…………それで笑ってしまったのです。これでいいのですよね」


 と言ってきた。


 そのまま、ちーにゃはもう一度ドアを開け、「今度は逃げないでくださいね」と、俺にくぎを刺してから部屋を出ていった。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


 ーーー剛力@ハールヴァルの大森林ーーー


 レンタメンテの一部を覆う大森林、通称ハールヴァルの大森林で、冒険者パーティ『剛力』のメンバーたちが魔物から逃げている。


「おい!リーポス!回復くれ!」

「あいよ」


 マスキュラスが走りながらそう言ってリーポスの方を振り向く。リーポスはそれを聞くなり間髪入れすに対象にあてると回復する球、通称ヒールスフィアを高速で詠唱してからマスキュラス目掛て投げた。


 それがマスキュラスが負傷した場所に当たると、みるみるうちに傷が癒えていく。それを確認したマスキュラスはそのままモンスターの群れに突撃し、指さして。


「リーポス!こいつ縛ってくれ!」

「あいよ」


 マスキュラスがそう指示すると、リーポスはすぐにインヒビティオを使用して、モンスターを縛り上げた。


「リーポス!」

「あいよ」


 次にリーポスを呼んだのは赤毛の女、ビアである。


 ビアは腕の傷をリーポスに見せた。そこをめがけてリーポスがヒールスフィアを放つと、ビアは満足気に「感謝する」と言ってマスキュラスとともに、モンスターの群れに向かって突撃していく。


「リーポス!!」

「あいよ!」

「リーポス!!!」

「あいよ」

「リーポス!!!!」

「おいお前ら!!!もう少し攻撃を躱したり受けないってことを学んだらどうだ!!??」


 マスキュラスとビアはモンスターの群れに怪我をも恐れずに果敢に突っ込んでいく。はたから見ればそれは勇者だ。


 だが、ヒーラーであるリーポスから見たらそれはただの愚行だ。


 マスキュラスはそんなリーポスをちらと見たが、リーポスの叫びに呼応するように咆哮をあげたモンスターたちに目を向け、背中越しに、


「わりぃが愚痴はあとにしろ!!」と言う。リーポスは何か言ってやろうと思ったが、ビアがまたすぐに「リーポス!!」と言って回復を求めてきたため、それを言うことができなかった。


 リーポスは言いたいことを喉の奥に隠してビアの傷を癒した。


「あー………………くっそ、今は見逃してやる!!インヒビティオ!! 」


 マスキュラスとビアに話をするのはまた後だ。今は目の前のことに集中。


 リーポスはヒーラーだが、少しなら戦える。リーポスはインヒビティオでモンスターを縛り、得意の二度蹴りでモンスターを狩っていく。


 こんな時のためにリーポスは靴の先端から刃物が出るような仕組みの靴を履いている。普段は靴という鞘にはまっているが、紐をほどけばあっという間に凶器の出来上がりだ。


 彼らは次々とモンスターたちを狩っていく。

 ではここで現状を説明しよう。彼らは……冒険者パーティ『剛力』のメンバーたちは、町の近くの森の深部にいた。


 レンタメンテの近くの森、ハールヴァルの大森林の奥にはダンジョンがある。現在、彼らはそこに行った帰り道だ。だが、ダンジョンから出て、帰ろうとした矢先にこうだ。


 ハールヴァルの大森林の深部には今目の前にいるパヤパヤやコボルトなど、草原や森の浅いところでは見ない様なモンスターが多数生息している。


 故に普段はダンジョンから出たら一気に森を抜けるのだが……


 まさかのダンジョンを出た瞬間に丁度いたコボルトの群れにエンカウント、数が多すぎるため、数体倒した後に森を抜けるため走り出したが、走っている途中でパヤパヤの群れに出会ってしまい、このように囲まれてしまったという最悪も最悪な状況だ。


 パヤパヤとコボルトは、同じ獲物を狙っているため、諍いを繰り広げているが、獲物である『剛力』のメンバーから目を話すことはない。


 三人は立ち止まる。いつのまにかパヤパヤとコボルトの群れに囲まれてたのだ。抜け道はない。それをリーポスは確認すると、頭の中で、(最近やたらとモンスターに囲まれているな……)と思いながらマスキュラスに「で、どうする?マスキュラス」と聞いた。


「――??マスキュラス?」


 リーポスの問いに答えることなく、マスキュラスは沈黙していた。おそらく彼は何らかこの状況を打破さるための策を考えているのだろう。


「リーポス、ちょっとここ直してくれないか?」

「お、おおいいぞ」


 不意にビアにそう言われ、ビアの背中を深々と切り裂いていた爪痕をヒールで治した。


 すると、そのタイミングでマスキュラスは、仲間の二人に「少し下がってろ」と言った。


「そうだな、確かにその手を使うべきだな」


 リーポスはマスキュラスの策を瞬時に全て理解し、同じく策を理解したビアとともに、少し離れた。その瞬間、近くにコボルトが来たが、インヒビティオで縛っておく。


「よし!いいぞ、マスキュラス!やってやれ!!」


 ビアがそういうと、それが合図となり、マスキュラスはその鋭い眼光をさらに鋭くして「お前らぁ……運が悪かったな」と目の前にいるパヤパヤとコボルトに向かって叫ぶと、そのまま腕をクロスさせて目をつぶり、


「――オーラ」


 と、唱えた。


 マスキュラスが唱えた瞬間、彼の体の周りから赤い煙のようなものが二本、螺旋状に立ち上って行った。


 彼が次に目を開けると、その靄は爆散するように晴れ、代わりに彼の体が淡く赤色に発光していた。


「さぁ!死にてぇ奴からかかってこい!!」


 マスキュラスが言いながら仁王立ちをしていると、まるでお約束のようにモンスターたちは一斉にマスキュラスをめがけて襲い掛かった。


「グルァ!!!」


 コボルトが三体ほど、マスキュラスの周りから彼を逃がすまいと包囲して襲い掛かる。


「ハッ!なんだぁ?おめぇら、それしか脳がねえのか?脳がねぇやつはすぐ死ぬんだぞ?そんなだからてめぇらはすぐ死ぬんだよ!!――ヴァルクレア!!」


 マスキュラスがコボルトに挑発しながらそう唱える。すると、以前にビアが使用した時よりももっと激しい炎がマスキュラスの体中に纏われた。


 この間僅か2秒、コボルトが突進して襲い掛かるほどの時間しかたっていない。だが、その2秒があれば十分だ。


 マスキュラスに向かって突進してきたコボルトたちは、マスキュラスが強烈な打撃に打ち伏せられる。そのまま彼は、体中に纏われた炎を生かし、足や腕を使って次々と撃破していく。


 灼熱の打撃の餌食になった魔物たちの打撃が入った箇所からは、肉がどろりと焼けただれている。


 打撃が入った場所が全て腹なだけあり、魔物たちはすぐに絶命した。どうやら風穴があいているようだ。


「さぁ!次はどいつだぁ!?」


「グルアァ!!」

「パヤッ!パヤッ!!」


『剛力』を包囲するコボルトは咆哮をあげて勇気を奮い立たせ、パヤパヤは金切り声をあげて威嚇している。


 次の瞬間、モンスターたちはマスキュラス……ではなく、リーポスとビアに向かって一斉にとびかかった。


 奴らはオーラを使っているマスキュラスではなく、リーポスとビアを先に仕留めることに優先順位を変えたのだろう。


 二人は一歩も動き出す素振りがない。


 リーポスは着ている服のポケットに手を突っ込みながら、奴らを見て……いなかった。


「――やってやれ、マスキュラス」


 リーポスがそういうと、いつの間にかリーポスの前に立っていたマスキュラスが、「おうよ」と言い、今度は体中に雷を纏った。


「ゼルクラッド!!」


 バリバリと雷鳴が轟く音が辺りに響き渡り、土煙が彼らを覆い隠した。


 土煙が晴れ、代わりに肉が焼ける臭いを含んだ煙がモンスターたちの死骸からもんもんと浮き上がっていた。


 先ほどまでの威勢はどこへやら、モンスターたちの命はこの場にはもうなかった。そしてその中に佇み、唾をペッと吐き捨てているのはこの惨状を築いた張本人であるマスキュラスだ。


「へッ!雑魚どもめ」


 マスキュラスが暴言を吐いて雷を解くと、それと同じタイミングで淡い赤色の光を放つオーラも露散する。


 その後ろでリーポスが屈みながらモンスターの死骸を見て回っている。ビアはと言うと、彼女はワイルドに座りながら水を飲んでいる。


「よし、とりあえず素材は取っておいたぞ」


 と、リーポスがマスキュラスを見てそう言う。どうやら彼はモンスターの死骸から素材を採っていたようだ。


 マスキュラスはそんなリーポスに「そうか、じゃあ帰るぞ」と、言い、ビアを一瞬見たのちに町の方角に向かって歩き出した。


 それにリーポスとビアもついて行った。


 それではここで、彼らが町に帰るまでの間、先ほどマスキュラスが発動した『オーラ』について説明しよう。


 オーラとは、生まれたときから存在する天性のもの……ではなく、この世に生を受けた後、運が良ければ手に入れられる力だ。


 この世界には、『オーブ』と呼ばれる、力の結晶がある。それに触れると触れた対象はそのオーブの力が手に入る。


 オーブは布に包んでも持ち運べないため、探索時に見つけたものだけが手に入れられる。だが、オーブはそもそも希少なものなので、そうそう見つからない。


 マスキュラスも運が良かっただけなのだ。


 そんなマスキュラスが持つオーラは『力のオーラ』使用すると、疲れを感じなくなり、肉体は強靭になり、魔力も増幅するという効果だ。


 しかし、オーラには共通しているデメリットがある。それは、”一日に一回しか使えず、それも五分間だけ”というものだ。


 故に、使うタイミングを見定めなければいけない。


 それでは最後に、おそらくこれを聞いたものはみな、こう思ったはずだ。


 ”オーラは二つ以上持つことができるのか”


 端的に言うと、二つ以上持つことは可能だ。可能なのだが、そもそも持っているものが少ないことと、デメリットがあることからそうそういない。


 オーブ自体見つけることが困難なことも理由の一つとなるが、もう一つの理由がある。それは、『オーラ』の使用方法が全て共通なことだ。


『オーラ』はオーラと呼ぶことで発動する。故に二つ以上持っていた場合、そのどちらかがランダムで発動するのだ。


 それと、一日に使えるのはそのどちらか一方のみ、と、デメリットが増えてしまうのだ。


 これでオーラの説明は以上、そろそろ『剛力』が町に着いたようだ。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


 あれから時間がたち、『剛力』のメンバーはレンタメンテへと帰還していた。帰還直後、マスキュラスはそのまま町にある冒険者ギルドに向かって行った。


 冒険者ギルドに素材を換金しに行き、そのついでに冒険者ギルドに併設されている酒場でお酒を飲むためだ。既に外は陽が沈み、あたりはかなり暗くなっている。


 酒場には一仕事終えた冒険者たちが皆楽しそうに笑って酒を飲んでいた。その酒気に包まれた酒場にずかずかとマスキュラスは入っていく。


「――、マスター、今来たこちらの方に999年製のアバドンウイスキーを、一杯」

「―――かしこまりました」


 マスキュラスがカウンターに座ると、二席離れた席に座る男がマスキュラスにアバドンウイスキーを頼んだ。それを聞くなり、マスキュラスは目の前に所狭しと並ぶ酒瓶を見つめながら、


「んで?どうしたよ?ギルマス」


 と言った。


 ギルマスと呼ばれた男はこのギルドのトップであるギルドマスターである。なにか用があるのだろうか?


 ギルドマスターは、マスキュラスの声を聴きながら、赤ワインを手の中で転がし、少し飲んで喉を潤した後、「少し……殺人鬼について話が聞きたくてな」と頬を酒気に染めてそう言った。


 おそらく、マスキュラスが来るよりもっと前から酒を嗜んでいたのだろう。


 マスキュラスはギルドマスターのその言葉に嫌そうな顔をしながら目の前に置かれたアバドンウイスキーを少し飲んだ。


「あぁ?なんでそんなこと話さなきゃなんねぇんだよ?」


 マスキュラスは不機嫌そうな声でギルドマスターにそう言うと、「殺人鬼を間近で見た君に話が聞ければよいと思っただけだ」と言いながら、ギルドマスターは残りのワインを飲み干した。


 ギルドマスターは赤いマントを羽織っている髪の毛が真っ白な白髪の老人だ。昔は凄腕の冒険者だったようだが、今は一線を退き、モンスターではなく書類と向き合う毎日だ。


 そんな彼が急に殺人鬼について調べ始めたのだ。マスキュラスは少し不審に思った。


「ギルマス、てめえの言い方じゃわかんねえよ、ったく、なんでてめぇは殺人鬼について調べようと思った?話はそっからだ」


 マスキュラスはアバドンウイスキーを飲み干してギルドマスターに聞く。すると、ギルドマスターは、少し考えるような仕草をした後、「ただ、少し興味がわいただけだ」と言ってグラスを鳴らした。


 マスキュラスは横目でギルドマスターをちら、と見て、空になったグラスにもう一度注がれたアバドンウイスキーをちび、と飲み、


「ハッ!まあいい、てめえが腹のうちで何を企んでるのかは知らねえがな!」


 と、豪快にグラスをカウンターにたたきつけ、火照った顔をギルドマスターの方にはじめて向けた。ギルドマスターは少し酒気に飲まれ微かに顔が上気しているが、そこまで酔っていないようだった。


 そんなギルドマスターの様子を確認したマスキュラスは、殺人鬼に遭遇した時の様子を詳細に語り始めた。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


「そうか、いい話が聞けた、礼を言う」

「へいへい、ギルドマスター様のお役に立てたようで何よりですよっと」


 マスキュラスは殺人鬼について話しきったあと、そこまでそう思っていなさそうな口調でギルドマスターに向かってそう言った。ギルドマスターはそんなマスキュラスを一度見た後、酒場のマスターに代金を支払って席を立った。


「そのアバドンウイスキーの代金は既に支払っている。情報料といったところだ。ではお先に失礼」


 ギルドマスターはそのままギルドマスター室に向かって、千鳥足で歩いて行った。マスキュラスはギルドマスターのその背中をアバドンウイスキーを飲みながら見つめていた。


 ◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆◆◇◆◇◆


 ーーーギルドマスター@冒険者ギルド・ギルドマスター室ーーー


 (少し酒を飲みすぎたな)


 そう思いながらギルドマスターはふらふら歩いて、目的地であるギルドマスター室に入る。部屋の中には蠟燭の灯がともっていないせいか、かなり暗い。


 その暗闇の中に三人の人影があった。彼らは皆、黒装束を見に纏っている。


「ギルドマスター、例の件、情報は聞き出せたか?」


 三人のうち、身長が低い方の男が、ギルドマスターに向かってそう聞く。


 ギルドマスターは、それを聞きながら自分の執務用の椅子に腰を掛け、「ああ、今ちょうど聞いて来たばかりだ」と、黒装束の男にそう言った。


「では、話してもらおうか」

「ああ」


 ギルドマスターは、先ほどマスキュラスに聞いた話を黒装束の男に話した。すると、黒装束の男の隣にいる女がギルドマスターに、「これを読んでください」と言って手紙を渡した。


 ギルドマスターはそれを手に取るなり、燭台に蠟燭をともし、手紙の封をきって、手紙を読み始めた。ギルドマスターは、それを読み切ると、「了解した」と黒装束の三人に言った。


「手紙に書かれている通り、この町に『夢幻の魔女』が来ている。どうやら魔法ギルドからの援軍らしい、おそらく、騎士を呼べば、殺人鬼もそれに気づいて町から逃げてしまう可能性を考慮しての判断だろう」


 と、三人目の大男が腕を組んで柱に寄り掛かったポーズで言う。ギルドマスターは、「君たちも大切な援軍だがな」と、三人を見ずに言う。


「今日はもういいだろう、少し酒を飲みすぎてな、もう寝たいのだ」と続け、ギルドマスターは、彼らに部屋から出ていくように促した。


 最後に、三人の内、身長の低い男が「もう一人、面白そうなのがいますがね」と言い残してから窓を開け、そこから闇に消えるように夜空に消えていった。


 三人が部屋から出て行った後、ギルドマスターは深く息を吸い、一度、目を閉じ、頭の中を整理する。


「『国王の影』に『夢幻の魔女』か……かなり大事おおごとになってしまったな……」


 ギルドマスターはそう呟いて執務用の椅子に深々と座り、天井を見つめてぼーっとしていた。

〈次回予告〉

ついに目を覚ましたユーマは討伐クエストは諦め、町中クエストに専念する。【ユーマの平和な異世界生活】始まりません。

次回!『なんてことのない日…?』

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