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葵、意図的に外される

余談

橘平、神社の娘と出会うでイメージしている曲(これからも増えるだろう)。

BUMP OF CHICKEN 『Aurora』

Mr.Children 『HANABI』

鬼束ちひろ 『焼ける川』

 土日に高校生以上の一般有術者たちを参加させることが決まった。


 環境部全体の会議で、その旨が報告された。現場責任者として、最低でも部の誰か1人は出勤するけれど、あくまで監督者。駆除は一般有術者たちに任せるということだ。現場での職員の負担は多少減るはずだという。


 蓮が手を挙げる。


「振替休日と有休は」


「要・相・談」


 ぴしっと鞭打つように、環境部の一宮藤ノ介部長が独特の抑揚を付けた喋りで答えた。


「私たちだって取りにくいのが現状なんだよ、蓮。この事態を早く収束して、穏やかに暮らしたい。その気持ちは誰もが一緒だよ」


「そうそう、そうだよ蓮君!」


 休日出勤絶対拒否の二宮課長が蓮を指さし、激しく同意する。蓮は課長のことは無視し、一宮部長と顔を合わせ続けた。


「お伝え様のほうでも原因調査に難儀しているんだ。私たちができることは、妖物を駆除し、村を守ること。一生続くわけではないだろうし、今のこの時期をなんとか助け合って乗り切ろう」


 正直な話、部長や課長らも含め、全員が今まで以上の仕事量をこなしている。上と掛け合って、こっそり役場の仕事を少しずつ減らしてはいるものの、命の危険がある任務に強いストレスが溜まっていた。部長らに訴えても仕方がないということは誰もが頭では理解しているつもりだが、心身の疲れはごまかせない。


 二宮課長も、彼らのストレスを発散させる方法はないかとずっと考えている。


 有能な仕事脳を駆使して考え上げた策を、会議の席でぽろっと披露した。


「フジさん、桜まつりの時さ、環境部で宴会やんない?」


「いきなりなんだね、キミくん」


「みんなで酒飲んで騒げばさ、疲れとれるでしょ」


 もっと疲れるじゃないか。


 部下たちは心の中で、一斉に奇声をあげた。酒を飲めばパワハラセクハラの二宮公英、重箱の隅をつつくような説教で相手を陥れる一宮藤ノ介、誰も彼らと飲みたくはない。ちなみに、伊吹はこの件に関してあまり深く考えていないので除外する。


 こんな時、実際に声を上げられるのは、二宮課長大嫌い三宮桔梗。みな彼女に熱く期待していた。


 桔梗がスタッキングチェアから立ち上がる。部下たちの視線が桔梗に集まった。


「酒代、お二人持ちですか?」


 誰も予想していなかった質問が飛び出た。桔梗はここからどう反論するのか、みなで見守る。


「ああ、いいよいいよ。ね、キミくん」


「OK~」


「そう、ですか……」


 桔梗は机の上のスマホを操作し、二人の方にわざわざ近づいて行って、画面を見せた。


「●●と▼▼と◇◇と◎◎、△△……を買っていただけます?」


 画面に映っていたのは、誰もが知るような有名な高級酒だった。このあたりの店ではまず売っておらず、都会にでるかネットで買うしかない。


「こんな高いのばっかり何ー? 買えない買えない! スーパーかコンビニで買えるのにしてよ~」


 桔梗は机を拳で殴った。がん、という重苦しい音が会議室に響く。拳を外すとうっすらとへこんでいた。


「部下への福利厚生がなってませんね。宴会はなしです。みんな、会議終わりよ、解散!」


 これで宴会は流れるだろう。みなほっとし、帰り支度を始めた。


 ところが、「いいよ、全部買ってあげる。これでみんなが元気になるなら、ね…!」一宮部長がそう言い出した。


「みんな、桜まつり楽しみね!」


 態度を一変させ、桔梗がみなに無邪気な喜びを向ける。彼女が狙っていたのは、宴会の中止ではない。これであった。


「ははは! お酒大好きだなあ、桔梗さん!」


 陽気に笑う伊吹は、他の部下たちからは宇宙人に見えた。


「ぶっ潰してあげるわ、伊吹」


 みな部長と課長に集中して忘れていたが、桔梗も酒を飲めばパワハラ気質。彼らと似ているのだ。


 影がほぼない自然環境課の三宮課長は、この状況に流されるしかなかった。


「僕、そんなにお酒強くないから遠慮するよ! 葵くんでも相手にするといい」


 名前を挙げられた葵は、伊吹を呪った。伊吹の発言に全く深い意味はなく、単純に自分より酒に強い人間を挙げただけであった。




◇◇◇◇◇


 


 退勤も迫る夕暮れ、来週以降の1か月分の休日出勤のシフトが配られた。どこをみても感知器課長の名はなく、感知係は課長の父と娘で埋まっていた。


「あ、桜まつりの土日!出勤回避~」


「何、ひまちゃん、そんなに桜まつり好きだっけ?」


 隣席の蓮が、その喜びように疑問を抱く。変に喜び過ぎたかなと、向日葵は焦って言い訳をした。


「と、友達とこの日に約束しててえ、休日出勤あるかも~って話だったからさっ。これで遊べる~って」


「俺もその日ないわ」葵が呟く。


「あっそ、君のスケジュールなんてどうでもいい働け」蓮がとげを刺す。


 向日葵が「これで一宮家大捜索作戦すすむな~葵にタケノコのバター醤油焼きでも作ってあげよかな~」と心の中でウキウキしていた矢先のことだった。


「でもね、アオイくん」


 葵が振り返ると、作業服姿のあさひが彼の後ろに立っていた。毛穴も産毛もないようなつるりとした肌が眩しい。


「あとで連絡がくると思うけど、桜まつりの土日は私と神社でご奉仕だよ。だからその日はわざと外されているんだ、私と君は」


「え、そんなこと今まで一度も」


 あさひは葵のメガネに手をかけ、すっとはずす。あさひに見つめられ、葵は目の奥がぴりぴりする。


「わからないことは先輩の私に聞いて。そんなに難しいことはない。ただの裏方だよ。アルバイト感覚で大丈夫だから」メガネを葵の顔に戻した。


 にやけ顔の蓮が葵をバカにする。


「結局君も連勤か。大変だね。ゴミ清掃だったら、君にごみを渡しに行ってあげるよ」


 一宮家の捜索ができるのか危うくなってきた。


 向日葵は桜に連絡するためにスマホを手にすると、その桜から連絡が入っていた。


〈なんとかして野宿に行きたいよー!〉


〈え?どゆこと?〉

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