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葵、約束させられる

 葵は息抜きのために休憩スペースへコーヒーを買いに来ていた。


 自販機の前でボタンを押そうとしたところ、背後から「アオちゃん、ここ最近、剣術の稽古ばっかりみたいね。躰道来ないの?」そう話しかけられ振り向くと、樹が立っていた。隣にはちんまりと二宮蓮が立っている。


「あー、そろそろ行くかな」葵は少し戸惑いながら答えた。


 彼ら能力者たちは、それぞれの能力に応じて剣術と躰道、どちらかで体を鍛えている。葵たち日本刀を武器とする破壊能力者たちは基本的には剣術を学び、樹たち支援系の能力者は躰道で鍛える。ただ樹のような静止能力者は棒を扱うため、剣術稽古の日に棒術の鍛練もしている。向日葵は武器が苦手であることはすでに説明した。


 刀組も、武器を失った時に備えて武道をたしなむ者もいる。葵の場合は向日葵がいるからという理由で続けていた。


 社会人になってからは、剣術は仕事に必須なので鍛練を続けているが、躰道は不定期になっていた。新卒当時はヒマな部署だったが、個人的に意外と野生動物の仕事関連で覚えることが多かったり、資格取得など、何かと忙しかった。自分の時間を確保するために躰道は数か月に1、2回程度に減っていた。最後に稽古へ行ったのは昨年の秋ごろで、今年はまだ参加していない。時間があきすぎて、行きにくくもなっていた。


「そーよ、鍛えなきゃ。いっぱい鍛えなきゃ!僕も今週から毎週行くって決めたの。剣の方もね。春休みだし!大人だけど!最近ほら、いろいろ忙しくてしばらくお休みしてたから」


 樹は大岩のような上腕とともに、葵の上半身を手でばんばん叩きながら「しっかりしてるけど、まだまだよ。一緒に鍛えよう!僕ぐらいの筋肉つけよう!」


「そ、それは無理だけど、鍛えはする」ひきつった笑みで葵は答える。


「そうだよ三宮の。最近バケモノ強くなってきたし、一緒に鍛えようじゃないか」蓮は自販機で黒い炭酸飲料のボタンを押す。がしゃんと飲み物が落ちてきた。「君さあ、剣術は強いけど、素手はそうでもないじゃん」しゃがんで飲み物を取り出す。「久しぶりに君がひまちゃんにぼっこぼこにされるの」ペットボトルの蓋を開けた。


 ぷしゅっと清涼感が広がる音の後に、蓮は悪意に満ちた声で言った。


「すっごく見たいな」


 レディース服のSサイズがぴったりなほど、男性にしては華奢で小柄な蓮。顔は「人間を憎んでいる野良猫」のようだと評され、お世辞にもカッコいいや可愛いとは言えないタイプだ。清潔感はあるので一見すると丁寧な人に見えるのだが、言葉にトゲがあり、嫌味が多い。仕事をそつなくこなすように見え、実は効率よくずるをしている。 


 背は高い、芸能人張りの二枚目、スタイルがいいと、自分とは見た目が正反対の葵が子供のから鼻持ちならない蓮は、大人になっても彼に突っかかる。そしてなぜか彼の名前を呼ばない。


「やだレンちん!アオちんもひまちに負けず劣らずけっこー強いでしょ!ぼこじゃないわよ、コツンよ!」


 言葉通り、樹は拳でコツンと葵の肩を叩く。突然何かを閃いたように手を叩き、「躰道、今日じゃない。ねえ今日の夜さあ、一緒にケイコ、しよ?」と顔をぐぐっと葵に寄せた。


 樹の無邪気すぎる瞳と体格の圧に負け、葵は「わ、わかった」稽古に参加することになった。もちろん、樹も蓮も一緒だ。


 席に戻った樹は、早速、向日葵にも「今日アオちゃん来るわよ~!僕もね!」と報告した。向日葵はスマホを取りだし〈舎弟のきっぺい〉を検索した。




◇◇◇◇◇




 橘平は午前中、陸上部の春休み練習に参加していた。部活を終えてジャージに着替えた橘平は、更衣室でスマホの電源を付けた。すると、向日葵から〈今日の稽古、葵くるよ~!!〉というメッセージが入った。


 これを見てすぐに、橘平は桜にメッセージを送った。


〈今日の稽古、葵さん来るんだって〉


〈兄さんくるの〉


〈すっごくワクワクする!〉


 画面からも伝わってくる橘平の興奮に、桜も行きたくて仕方なかった。向日葵たちの試合が観たいというより、遊びに行きたい気持ちである。


 しかし今日までは妹の面倒を見ることになっていた。また辛さを味わう。


〈橘平さん、動画撮ってきて~〉


〈りょーかい!〉


 にやついた顔で、橘平は通学用自転車にまたがった。


 


 そして稽古の時間がやってきた。


 稽古場は18時から開き、18時30分から子供たちが準備運動や基礎練習を始める。仕事終わりの大人たちが集まるのは19時であり、それまで中高校生たちが先頭に立って稽古を行うのだ。


 橘平も18時から稽古場にやってきた。今日から道着を着ることになり、より稽古への意欲が増す。


 しかし、今日は


「なんだか保護者の数が多い気がする……な」


 橘平はそう感じた。

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