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葵、付箋を渡す

 午後も妖物の出現はあったが、課長曰く「普通のヤツ」ということで、葵と樹の出番はなかった。樹は課長とタケノコ堀に出かけ、課には入力作業に没頭する向日葵と報告書の作成やその他作業をこなす葵だけになった。


 葵はおもむろに席を立ち、向日葵とパソコンの間に無言で真四角の付箋を割り込ませた。


 突然現れた黄緑の付箋に向日葵はびくっとしたが、そこにはカクカクした上手くも下手でもない字で【きっぺい君の電話番号教えて】と記されていた。


 また葵からの明々後日からの話題だ。


 酒の事を聞かれたくなく、朝から彼を無視していた向日葵だったが思わず、「え、知らなかったの?」話しかけてしまった。


「知らなかった。教えてほしい」


「じゃあメッセージで送るから」


 これをきっかけに、向日葵の無視はあっけなく終了してしまった。


 向日葵も無視をしたいわけではない。終わりはいつにすればいいのか、ずっと迷ってはいたのである。




◇◇◇◇◇




 橘平がベッドの上で桜に〈うーん、女子が男子たちと野宿は……良くないと思うよ〉などとメッセージのやり取りしている最中、突然、覚えのない電話番号からの着信が鳴り響いた。やはり知らない番号はびっくりしてしまい、無視してしまった。


〈知らない番号から電話来た誰だ、知らない番号びっくりする〉


〈出てみたらいいのに〉


〈うー、じゃあ次かかってきたら〉


 と打ったそばから、同じ番号より着信があった。橘平は恐る恐る出る。


「はい、どなたでしょうか」


『橘平君?』


 聞き覚えのある、しんと静まり返った暗い森を思わせる低い声だった。


『葵だけど。番号は向日葵から聞いた』


「え?!あ、葵さ、えっと、何か急用でも!?」


 わざわざ向日葵から番号を聞くほどである。


 何か重要な用事があるのではと、橘平はスマホを両手で持ち、耳に押し付けた。


『この間、酔っぱらった向日葵から電話来た?』


 橘平は目が点になった。それも、その時の悩みは解決しているはずだ。


「い、いまさら」


『何?』


「いいえ、何でも、ちょっと虫が」


 どの程度話していいのか迷うけれど、飲酒後に橘平に電話したことまでは、すでにバレているようだ。


「ありました。結構前の話ですよ?」


『理由知ってるか?』


 電話相手のせいである。電話があったことは隠さなかったが、その理由について話してはならないと橘平は思った。


『向日葵って酒にめちゃくちゃ弱くて、飲まないって決めたはずなんだけど。そんなヤツが飲むって何かひどく辛いことでもあったのかと…』


 その言葉の後、葵は無言になった。


 橘平は向日葵を心配しての電話だと察し、口元が緩んだ。恋の応援は困難かと思われたが、意外とそうでもないようである。


「アレ、葵さんのせいですからね!俺酔っぱらいに絡まれていい迷惑っすよ。でも解決したんで。もっと優しくしてあげてくださいね~。おやすみなさい!」


 橘平は勢いよくかつ嬉しそうにそう言うと、さっと通話を切り、電話番号を〈三宮あおい〉で登録した。


 


「なんだ俺のせいって!そこを言えよ!舎弟!」


 一方的にぶつ切りされた葵は、電話の画面に向かって軽く舌打ちした。ソファに思い切り体を預け、天井を仰ぐ。


 もやもやした感覚は残るも、「向日葵の無視は終了したからいいか」それ以上のことは望むまいと、心の中で区切りをつけた。


「……向日葵をイジメているつもりはないけどなあ」


 また見当違いなことを考えつつ、体を起こして寝室へ向かった。




〈電話、葵さんだった!〉


〈えーそうなんだ。番号知らなかったの?〉


〈うん〉


〈何かあった?〉


〈別に。向日葵さんが心配なだけの電話〉


〈ふーん。心配ねえ〉

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