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橘平と桜、ご先祖の共通点を知る

 二人はアニメの深い議論に夢中になり、一番大事なことを忘れてしまっていた。


 橘平は慌てて話題を変えた。


「じいちゃん!」


 焦って声が張り、裏返ってしまった。橘平は祖父におかしく思われないよう、急いで声を戻す。


「あ、あー。えっと、こないだ貸してくれた古い本?冊子?あれさ、えーと、先生に読んでもらったんだ」


「ほお、早速」


「それで、今じいちゃんが言った借金だらけのことも書いてあった。それに、ほかにも気になることが書いてあってさ」


 橘平は曽祖父から聞いたことのある女性「まもり」が、一宮家へお嫁に行ったこと、でも他の資料では無理矢理連れていかれたとされ、その後一宮家からお金をもらっていたことが書いてあった、と言うことを話した。


「ちょっと気になる話だったから、じいちゃんが何か知ってたら聞きたいなって。どういうことなんだろって」


「俺も詳しく知らないんだけど、まもりさんは一宮のお嬢ちゃんと仲が良かったらしくてさ。ああ、そう、ちょうど橘平たちみたいにね」


「そうなのですか、まもりさんと一宮の」


「よく一緒に遊んでたらしいよ」


 家のある位置は正反対、あまり接点のなさそうな借金だらけの八神の女性と一宮のお嬢さん。その二人が、現代の橘平と桜のように、親交を持っていたらしいことが判明した。不思議な縁だと、二人は感じた。


「一宮のお嬢ちゃんがとんでもないバケモノに襲われてるのを助けてあげた、なんて話も聞いたね。どうやって助けたんだろうねえ、小柄な女性だったみたいだけど、意外と強かったのか足が速かったのか」


 バケモノは妖物で、助けたのはおそらく、橘平と同じ「お守り」の力。八神家にも脈々と有術は受け継がれていたのだと、桜はだんだん確信を持ってきた。


「それにしても、なんで無理矢理連れていかれたのかねえ」


「でもお嫁に行ったって書いてあるやつもあった」


「俺が聞いたのは連行なんだよ。よくわかんないね。晩年は帰ってきたみたいだし」


 寛平は有術について知っているだろうか。そういう考えも浮かぶのだが、まだ桜も橘平も、そこまでは踏み込めなかった。


「それとさ、父ちゃん、橘平からするとひいじいちゃんね、が言ってたけど、まもりさんが亡くなってすぐ、一宮の人たちがまもりさんに関するものを全部持ってちゃったらしいよ。着物から何から」


 桜は文献ばかりあたっていて、一宮の持つモノは全く考えに浮かんでいなかった。もしかしたら、まもりに関する物品がでてくるかもしれない。八神家のようなこじんまりした蔵や倉庫ではなく、それこそ、神社も含めれば大事なものは広大な場所に散らばっているが、まだ時間はある。桜はさっそく、探せる場所からあたってみようと決めた。


「でもね、持っていかれないように守ったものもあってさ。それは今もうちにあるんだ」


 ちょっとおいでと、寛平は二人を一階の仏間に連れてきた。


 地袋の襖をあけて取り出したのは、木製のお伝え様の模型のようなものだった。本殿、拝殿、鳥居、そして拝殿前に円形の森、森の前に鳥居がある。それらが一つになったジオラマのようなものだ。小さいながらも細部にわたって神社の作りや色彩が再現されている。


 まるで、そこにお伝え様があるかのような精巧な作り。橘平と桜は息を飲んだ。


 満開の桜の木の下にあったもの、バケモノから出てきたもの。この本殿と拝殿は、それらとそっくりだった。


「すっごいキレイで凝ってるでしょ。面白いのがさ、ここ、覗いてみな」


 桜は寛平が指した森の部分を鳥居の方からのぞくと、狛犬と思われるミニチュアがあった。


「森に…狛犬でしょうか?」


「多分。角があって鬼みたいだけどね。なんで神社の方じゃなくて森の中に置いたのかは、まもりさんに聞かないとわからないけど、なかなか幻想的な風景で俺は好きだよ」


 橘平も覗いてみる。確かに、角が生えた狛犬のような置物がある。


「これだけは守るように、ってまもりさんから言われて、必死に隠したんだとさ。あ、桜ちゃん、これ一宮の人には秘密にしてね。バレたら持っていかれちゃうかもしれないから」


 唇の前に人差し指をだし、茶目っ気のある笑顔で寛平は桜に伝えた。


「もちろんです。秘密にします」


「ありがとう。俺、この神社の模型が大好きでね。いつか、こんな風に美しいものが作りたいんだ。とは言っても、俺にはまもりさんのように一から作り出す才能はなくて、プラモデルって道を選んだんだけど」


 寛平は柔らかい布で軽くホコリを払った。神社を眺める瞳は優しげだが、曇りも見え、挫折を味わったような切なさが漂う。


「もう少しでお迎え来そうだし、それまでに良いもん作れるかなぁ」


「何言ってんだよ、まだ元気じゃん!作れるって!」


 ぼーっとして、ちょっと抜けている。そんな祖父しか知らない橘平だったが、いまの姿に祖父の過去が透けて見えたような気がした。


「ありがとよ。それとさ」


 寛平は巻物のようなものも、地袋から取り出した。


 広げると、女性の絵が色彩豊かに描かれていた。まるで生きているかのような漆黒の瞳が印象的な美しい女性だ。


「うわ、上手いな…マジで生きてるみたい。写実的な技法がこんな田舎に伝わってたの?」


「これもねえ、まもりさんが描いたらしいんだよ。誰の絵かわかんないけど」


 寛平は何かを思い出したように桜を見やる。


「この人の目、桜ちゃんに似てる気がするね。仲良しだった一宮のお嬢ちゃんかな」


 橘平も絵と桜を交互に見た。瞳に宿る強さがそっくりだ。


「私、似てる、かな?」


 まもりを知ることは、一宮のお嬢さん、つまり桜の先祖にも繋がっているらしい。


 桜は自身の先祖と思われる女性の絵に触れた。


 その目は何かを訴えているように感じた。

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