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橘平、術について尋ねる

 3人は公用車の白い乗用車に乗り、現場へ直行した。運転は葵、二人は後ろに乗っている。


 一応、からかわれたことを自分の中で清算した向日葵は、橘平に「お守り書いて」と手の平を差し出す。


 橘平はお守りの効果について、まだ半信半疑である。桜から先日の電話で聞いたけれど、すべて平凡な自分が有術を使えるなぞ信じられなかった。


 武道を習い始めたが、まだまだ、桜を守れるほど身についていない。走るのは得意だが、「なゐ」から逃げられるほど速いか分からない。橘平は葵や向日葵のように特殊な力も体術も持ち合わせていない、「役立たず」の自分に引け目を感じていた。


 自身の有術なのか、お守り自体に効果があるのか。どちらかは判別できないまでも、今日はその効果を自分の目で確かめられる絶好の機会。効果があるというなら、みなの役に立てるかもしれない。その期待を胸に、橘平は彼らの仕事に同行していた。


 田園風景と家並みが続く中、お守りを描く様子をミラーで見た葵は「実は」と、先日、一人で妖物を駆除した時のことを語り始めた。


「ええ、そーだったの!?初めて聞いたんだけど」


「初めて話したからな。今日、2人に伝えようと思ってた」


「はあ、なんか、お守りってすごいんすね……」


 桜だけでなく、葵も同じような効果を感じたという。橘平は桜を疑っていたわけではないけれど、だんだんと、八神には特殊な力があるかもしれないと信じ始めていた。


 橘平が難しい顔をし始めたところで、向日葵が話を変えた。


「そうそう、きっちゃん。躰道来てくれてありがと。けっこー筋いいじゃん」


「そっすか?やった。武道って、桜さんを守るのにすごく役に立ちそうな気がします」


「結局始めたのか」


「はい。あ、桜さんから聞いたんすけど、葵さんもやってるって」


「基本は剣術の方だけど、そっちも行けるときにな」


 木刀もかっこよかったが、道着姿で戦う姿も見たい。


 そう思った橘平は、おねだり心を持って聞いてみた。


「そのうち、葵さんも稽古来ますか?」


「……そのうちな」


「え、え、じゃあ向日葵さんと試合します?見たい!!」


 向日葵が手を叩き、大きく口を開けて笑った。


「いいね、しようしよう。葵くーん、今度私と試合ね」


 その言葉に葵は無言だった。向日葵はにやっとし、橘平に腕を絡める。


「男の人たち、だーれも私に勝てなかったでしょ?」


 向日葵の表情と行動から、葵をけしかけようとする意図が伝わった。


 橘平も向日葵とがっつり腕を組む。


「うんうん、向日葵さんめちゃつよですよね!」


「そー、めちゃつよなの~アオにも『圧勝』するから見てて~」


「あれ~前互角って葵さん、言ってたよな~」


「ワタシのほーが強いって言ったでしょ」


「やっぱそーなんすね」


「素手じゃあ私に絶対勝てないの、葵くんは!」


 言われっぱなしに業を煮やしたのか、葵が口をはさんだ。


「互角だよ互角!」


 どーだか、と向日葵が鼻を鳴らすと、ちょうど現場に着いた。


 車から降りると、葵はメガネを外し、ケースから日本刀を取り出した。


 前回もそうであった。日本刀を手にするとき、葵はメガネを取る。桜も神社を壊すときなど、メガネを外していた。


 これはなぜなのだろうか。橘平は山の中を歩き出した葵に後ろから質問した。


「一応、俺は人より有術の能力が高いんだ。そのせいか、勝手に普段から力が漏れてしまって。自分でも調整はできるけど、その調整に気を使って疲れるから、特殊なメガネで抑えてるんだよ。有術を使えないほど疲労すれば、調整しなくてもいいけど」


 このメガネには相手を静止する有術が込められているという。その能力で、葵の能力を抑えているということだ。


「そーいや、向日葵さん、有術では葵さんに勝てないって言ってましたね。葵さん、有術はめちゃつよ、と」


「そーだねん、そーいうこと」


「力が漏れると、どーなるんすか?」


「例えば…食事中に箸が口に入っただけで血が出たり」


「まじでっ!」


「子供の頃、実際にやったことあるんだよな…」


 その時のことをありありと思い出しているのか、淡々とした口調の中に痛みを感じた。


「救急、車?」


「父親が治療の有術が使えるから、すぐ治してもらった。有術の負傷は有術でしか治せないからな」


「へえ……今は仕事だからメガネいらないってことですか?」


「そう。今は有術を思い切り使わなきゃいけないから、調整する必要無しってこと」


「もしかして、桜さんのメガネも?」


「そーなの。実は、さっちゃんもめちゃつよなの」


「瀕死の葵さんを一瞬で治してましたもんね…えっと、葵さんはその状態で物を触ると武器になっちゃう、じゃあ人は?」


「人には俺の有術は流れない。例えば」


 と、葵は前から橘平の左手首をつかみ、少年の右手を自身の肩に置いた。橘平は思わずびくりと体が震えた。


「何も起こらない」


「へー。じゃ、逆に俺から葵さんに触っても大丈夫ですか?」


「うん、試してみたらいい」橘平の手首から手を離した。


 橘平は大丈夫とはわかりつつも、恐る恐る葵の手を握った。何も起こらない。ただ、葵の手がひんやりしているだけだった。


「うおお、何もないぞー」


 ぶんぶんと、橘平は葵の手を振る。葵は橘平の手を抑えて振りを止め、握った手も引っこ抜き、前を向いて木々が茂る山の中をずんずん歩いていった。


「は!怒った!」


「怒ってないよ。めんどくさくなっただけじゃん?」


 向日葵は隣を歩く橘平の手を引き、葵の背についていった。


◇◇◇◇◇ 


 山の中はしんと静まり返り、危険な化物がいるとは感じられない。橘平と向日葵の雑談以外に、気になる音もない。


 しかし、この辺だとされるポイントに着くや、急に周囲の空気が変わった。

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