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橘平、父が大泣きするのを初めて見る

「父さんはさ、そのお守りについてなんて聞いてる?じいちゃんとかから」


 黒縁眼鏡の奥の穏やかな瞳が、ほんの少し厳しく光る。


 橘平は父に微かな違和感を持ったが、幸次はすぐにいつもの優しい紳士の顔に戻った。


「ん?事故が起きないとか、成績あがるとか、あと悪いお化けから身を守れるって聞いてるけど」


 悪いお化け。それは悪霊「なゐ」や妖物のことではないだろうか。一同は同じことを考えていた。


「ほ、他には。あとその」


 橘平は唾を一度飲み込み「まもりさん、とか」彼女について聞いてみた。


「まもりさんねえ、かわいそうな人としか。すっごい手先が器用だったとか。そんなもんだよ。なんで?」


「あ、いや、じいちゃんがなんか話してたなあって。ちょっと気になっただけ」


「あ、そ」


 幸次はそこで息子との会話を終わりにし、「桜ちゃんはどれがいいかな?」


「では…これ」


「一つでいいの?」


「じゃ、じゃあお言葉に甘えて…」 といくつかアクセサリーを選び、幸次ブランドのロゴを付けてもらった。


「裸で持ってくのはあれだからさ、袋持ってくるね」


 幸次は一旦、部屋を出る。


 小さい紙袋を手に戻り、「橘平、なんか絵でも描いて、ここにアクセサリーいれてあげて。あと、俺のブランドロゴも入れてね」


 へいへい、と橘平はサインペンの細字の方で、小さな袋の表にそれぞれ「さくら」と「ひまわり」のイラストを描いていく。その鮮やかな手腕と迷いない筆運びに、3人はくぎ付けになった。まるで本物の花が、その袋に映されたようだった。


 そして袋の裏面には、八神のお守りも添えて。「桜さんは来週も学校がめっちゃ楽しいように、向日葵さんは安全に仕事ができますように」そう唱えながら橘平は模様を描いた。


 橘平からアクセサリーの入った小袋を受け取った桜は「こんなに素晴らしいものをいただけて、とても嬉しいです!」あらん限りの感謝とアクセサリー以上のきらぴかオーラを幸次に送った。


 この純粋な喜びは幸次の心に沁み込み、さらに涙腺も破壊した。彼の目から大粒の涙が滝のように流れだす。


 みな驚いたが、中でも父親の大泣き姿を初めて見た橘平は3人よりもびっくりしていた。


「父さん!?ど、どうした!?」


「こ、こんなに喜んでもらえ、ぶえええ。良い娘さんだああああ」


 そこへばっちりヘアメイクした母親の実花が、お茶とお菓子を持って息子の部屋に現れた。


「あおい、じゃなくて、みなさま~お茶…お父さん!?」


 もちろん、実花もこの状況に仰天し「何、なんで泣いてるの、涙でメガネ溶けるんじゃないの!?」と混乱した。



◇◇◇◇◇


 

 幸次の感動も収まり、3人は「そろそろお暇しますね~」と帰宅することにした。


 それぞれが玄関を出ると、幸次が向日葵だけを呼んだ。

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