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桜、急いで返信する

 会合が終わったのは22時少し前だった。


 桜は誰よりも早くを席を立ち会場を出ようとしたところ、葵に声をかけられた。


「桜さん、ちょっと」


「葵兄さん」


「今日は」


「もう遅いから、今度にしよう。とりあえず今週は私一人でできるとこまで読んでみる。また八神家で」


 ちょうど彼らの後ろにやってきた柏の耳に「八神」という単語が聞こえた。


「一宮の跡取りが…『八神』?」


 柏はあの夜の事を思い出す。確か橘平は小さい女の子を抱えていた。桜は同年代女子の中では小柄で、小学生と言っても通る。


 とはいえ、一宮の箱入り娘で村の同年代と付き合いの薄い彼女が、八神家の息子を知っているとは思えなかった。聞き間違いだろうか。


 それでもどうしても気になった柏は、桜に尋ねようとした。


 しかし、それをどこかの大人に遮られてしまった。


「桜ちゃん、久しぶり」


 人当たりが良く穏やかな笑顔の青葉が現れた。


 桜も笑顔で答える。


「青葉さん、お久しぶりです。お元気そうでよかったです。診療所での勤務が始まったと伺っておりますが、お忙しいでしょうか」


「うん、思っていた以上に。昔は有術を使う機会なんてあまりなかったのに、今は毎日だよ。かなり疲れるね」


「治療には、相当の集中力と精神力が必要ですものね」


「でもさ、葵のような『攻む』人の方が体力も使う分、僕たちより大変なんだろうなあ」


「いえ、『支ふ』も『攻む』もどちらがより、というのはございません。同等です。特に治療は人間相手な分、いろいろ気を使うかと思いますし。いつも有術者の方を助けていただき、一宮の者として感謝しています」 桜は柔らかなほほえみを浮かべ、青葉に感謝を伝えた。


 この表情、青葉は意外に感じていた。幼少から知る彼女の笑顔は、感情を隠す仮面のようなものだった。特に双子の兄が亡くなってからというもの、いつも影を背負っているような、どこかはかなげな雰囲気を持つ少女だった。


 一方、今、目の前にいる桜はとても自然体だ。この変化の裏には何があるのだろうかと、青葉は読み取ろうとした。


 ポケットに入れていた桜のスマホがブブ、と振動した。〈八神橘平〉から〈今日、葵さんと史料解読の日だよね?何かわかった?〉というメッセージが入っていた。


「すいません、ではまた今度、お話いたしましょう。お休みなさいませ」


 桜が早足で去ったと同時に、葵も兄の側を離れようとした。が、「ねえねえ、葵!」と服を引っ張られた。


「桜ちゃん、すっごくめちゃくちゃかわいくなったねえ。一年前と表情が全然違う。ぱっと明るい感じで華やか~。どうしたのかな?何か知ってる?好きな子でもいるのかな。いやあ、すごくいいよお」


「女子高だし、それに」


「わかってる!ってか女子でもいいじゃない。僕だって、葵みたいなきれいな男の子ならOKだよ。俺ら跡継ぎ連中は結婚相手決められちゃうんだから、それまで楽しまなきゃね。ま、その後もだけどっ!」


 自分を例に出されて気持ち悪さこの上ない葵は、無視して会場の片づけに戻った。


 つまらんなあ、と青葉の次のターゲットを探す。会場を片付けている向日葵と樹に目を留めた。


「樹ちゃん、こんばんわ」


「青葉ちゃーん、こんばんはろー!」


「向日葵ちゃん、ケガの具合はどう?」


「おかげさまで元気です!」


「ちょっとでも異常を感じたら、すぐ診療所来てね。うちでもいいけど」


 青葉は先日治療した肩に触れる。向日葵は若干の気持ち悪さを感じ「……ありがとうございます、じゃあ、またケガしたらよろしくお願いしますね!」と、青葉から離れた。


「ありゃ、行っちゃった」


「ねーねー青葉ちゃん、帰って来た記念でお酒でも飲もうよう~」


「もちろん」


「わーい!他にもおともだち呼んで大宴会だ~!!」


 樹はそう言いながら青葉と肩を組んだ。




◇◇◇◇◇


  


 桜は神社を出るまで競歩のように、そこからは玄関まで全速力で走り、家の中は早足で自室へ向かった。


 部屋の扉を閉めた瞬間、橘平に返信する。


〈ううん、用事が入ってできなかったの。そのこと今度話すから〉


〈わかった〉


〈寝る前に一人でちょっとだけ読む!〉


〈明日も学校でしょ?無理しないで!〉


〈無理してないよ~〉


〈俺あした、躰道行く!〉


〈本格的に始めるんだね!すごい!いつか覗きに行くね。スパイごっこ2〉


〈恥ずかしいからやめ!ってか誰と?〉


〈ひとり?〉


〈それつまんないよ絶対。だから来なくてよし!またどっか一緒にいこ!〉


〈そうだね!どこがいいかな~?〉


その後もポチポチやりとりしながら、桜は書庫へ入っていった。

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