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橘平、親友の好みのタイプを知る

 昼食の後、優真は「ちょっと」と、橘平を校舎裏に誘った。


「さっきのさ、かっこよかったよ」


「え?そ、そう?」


「うん。あの人たち、ちょっとさ、いじわるじゃん。逃げないなんてすごいなあ。僕なら立ち向かえない」


 褒められて悪い気はしなかった。あの時はもう、恥も外聞もなく立ち向かうことと、弁当を平らげることにしか頭になかった橘平。あの姿が、意外にも友人の心を打ったらしい。


「でさ…あの…あの…」


 あのあのと、優真は口元をむずむずさせるばかり。その次の言葉が一向に出てこない。


「何?休み時間終わっちゃうよ?」


「よ、夜の学校で女子といたの?」


 結局、優真もそこに興味があったらしい。


「いつの間に彼女できたの?そーいうのは教えてほしいな」


 彼も柏と同じかと橘平はがっかりしたが、恩もあり子供のころからの仲良しの彼にまで「犬だ」、とは言えなかった。


 大きく息を吸い、ため息を吐く。


「優真には言うけど…女の子といた」


「ままままマジ!?」優真は両手で口を覆う。


「みんなが想像するような関係の人じゃなくて、親戚の子供」


「ほんとに?」


「小学生って聞こえなかった?」


「まあ、聞こえたけど」


「その通りなの。夜の学校に行ってみたいって頼まれてさ。バレたら親に怒られるだろ?だから必死に逃げただけ。それだけ!そこを」


 はたと、柏が剣術をしていたことは話していいのか、と疑問がわいた。


 あれは有術者限定の稽古だ。もしかしたら一般の村民には秘密かもしれない。このあたりの事情は葵たちのため、橘平は隠すことにした。


「…そこを、多分親かな、大人といた柏先輩に見られたんだ」


「ふ~ん…まあ一応信じてあげるけど。ねえ、本当に彼女が出来たら、僕に教えてよ?僕も教えるから」


 この食いつき、橘平は少々意外だった。海外小説や映画くらいにしか興味のない友人だとばかり思っていたからだ。


「そういや優真ってどういう人がタイプなの?」


 恥ずかしいけど、と優真は人気アイドルグループの一員の名を挙げた。明るくて芸人並みによく笑う、わりと派手な性格の女の子だ。


 これも意外だった。優真の性格や趣味から、大人しい子が好みなのだと橘平は勝手にイメージしていた。


「へー、そうなんだ!それって例えばさ、学校で言えばどの子が近い?っていうか、もしかして好きな人いるの?」


 長い友人だが趣味や学校の話ばかりで、好みのタイプなんて会話をしたことがなかった。


 初めての話題で、橘平は面白くなり「ちょっとからかってやろう」なんていたずら心も湧いてきた。


「えー!?いやそれははずか、はずか、恥ずかしいなあ!うん、えっと、学校の子じゃなくて、と、と、年上なんだけどお…」


「え、大人!?」


 これもまた意外な事だ。優真は大人に思いを寄せているという。


「う、うん。ににに、に、二宮向日葵さん!知ってる?金髪の!」


 橘平のよく知る人物だった。これも予想外だ。


「こんなチビじゃ釣り合わないのは分かってるけどさあ」


 優真は桜よりは多少背が高い程度の、男子としてはかなり小柄な高校生だ。運動靴のつま先で、円をぐるぐる描く。


「理想だよ。名前の通りだ。夏の青空が似合う、元気な笑顔…。近づくことだってできやしない、高嶺の花さ…」


 会うたびに腕を絡ませてくるし、ご飯も作ってくれるし、なんならお泊りもしたことがある。スウェットの袖も裾もまくってくれた。


 橘平にとっては高嶺の花というより、いつも側にいるたんぽぽな彼女である。


「絶対そういう関係になれないの、僕分かってる。だからさ、一度でいいからさ…抱きしめてほしいなあって…ああ、握手でもいい…」


 抱きしめてもらったこともある。


 橘平は、友人には絶対に言えない秘密を抱えてしまったような気持ちになった。からかってやろうなんて思ったけれど、相手が相手なだけに、からかえなかった。


 ごめんな、優真…。


 心の中でそう謝ることが精いっぱいだった。


「逆に聞くけどさ、橘平くんの好みのタイプは?」


 そう聞かれて橘平はすぐには答えられなかった。


 考えたこともないし、誰かを好きになったことも無いからだ。正直に言えば自分の好みは全く分からないが、そう答えるのも悪い気がしたので葵の真似をした。


「…よく笑う人」

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