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橘平、先輩に対抗する

 カーテンから漏れる朝の光が目にあたる。橘平はゆっくり瞼をあけた。


 夢を見た。


 起きてすぐ、それが頭に浮かんだ。


『君は入口の絵、描ける?』


「入口の絵?」


『村の真ん中にある森に入るための。扉みたいなもんかな』


「森の扉って何?どういうの?」


『君の想像でいいんだ。森が開くような絵が描ければ。別世界への扉さ』


 頭の覚醒につれ、橘平は夢の内容をキレイさっぱり忘れてしまった。しかし、何かに導かれるように、無意識に、鉛筆を手にしていた。


 いつかの夢である。




◇◇◇◇◇




 橘平は優真たち同じクラスの仲良し組とともに、高校の屋上で昼のお弁当を食べていた。


 白飯の上に海苔が敷かれ、焼き鮭の切り身がまるまる乗っている。別の容器にサラダもついた、母の弁当。おそらく父も今頃、同じ弁当を食べているだろう。昼時に向日葵と話すこともあるのだろうか、と箸で鮭の骨を取りながら橘平は役場のことを考えた。


 橘平たちのグループから少し離れた場所で、三宮柏も友人たちとふざけあいながら昼ご飯を食べていた。


 柏は卵焼きを口にした時、橘平の姿に気が付いた。あの夜のことをにやにやしながら思い出し、友人たちに「この間の夜さ…」と話し始めた。


「きっぺー?あの地味が?」


「うっそ、意外」


「いや、地味で目立たない背景みたいなやつこそ、裏でいろいろやってるんだって」


 柏は悪意たっぷりに橘平を昼飯の肴にする。「裏でいろいろやってる」は意外にも間違ってはいないのだが、男子高校生たちの想像とは全く違う内容だ。


「相手の女子が気になるなあ。柏、顔見えなかったの?」


「見えなかったけど、体はちっちゃかった。だって、あいつが抱えて走れたんだぜ。もしかして小学生かな?やべー犯罪じゃん!!」


 そこで一同が大爆笑すると、さすがに橘平のほうもそのグループに目が行った。


 柏の顔を見つけた瞬間、橘平は血の気が引いた。げ、っと感じた瞬間、二人は目が合った。


 橘平は急いで目をそらすも、柏はにやにやしながらわざと周りに聞こえるように「夜のがっこーできっぺーく見かけたんだよねー!」「ひとりじゃなかった気がするけど、だれだろー?」「女子だったなあ~」などと宣う。周りの友人たちも橘平をあざけるように笑った。


 冷や汗、手汗、動悸、息切れが一気にやってきて、橘平はどうにかなりそうだった。


 鮭の骨はとったはずだが、のどにつっかかっている感じがして気持ちが悪い。


 優真が心配そうに声をかけた。


「どうしたの?大丈夫?」


「あ、ご、ごめん、あの、教室戻る!」


 急いで弁当をまとめ、橘平はご飯を半分も食べないうちに、屋上の扉を開けて出て行った。


 それを見て柏たちはさらに大声で笑っていた。


「悪いことするからだぜー!」


「小学生と夜の学校で何してんのー?」


 厚い扉の向こうから、そんなヤジが聞こえる。


 橘平はぎゅうっと拳を握る。


「桜さんは何も悪いことはしてない。俺だって何にも…何も!」


 橘平は屋上の扉を勢いよく開け、柏を睨み大声で叫んだ。


「うちの!!!!犬だよ!!!!!!」


 そしてまた優真の隣に座り、残りの弁当を勢いよくかっ食らい始めた。


 桜のことはバレてはいけない。けれどここで逃げたら、柏たちが考えているような事があったと認めることになる。それは桜に失礼だ。争いごとは好まないが、今日の橘平は自分でも信じられないくらい、柏に負けたくないという欲が湧いた。


 何も悪いことはしていない。ただのスパイごっこ。


 橘平はがつがつと弁当を食べ続ける。


 恥ずかしがったり、むきになって反抗したり、泣き出したりなど、柏たちが期待したような反応は返ってこず、つまんねーなあいつ、からかいがない、と彼らは興ざめしてしまった。


 これによって、友人たちの前で恥をかいてしまったような気がした柏は、橘平に対して腹立たしさを覚えた。


 豚肉をかみながら「絶対、女の子と、一緒、だったのに…!」と憎々しく呟いた。

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