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向日葵、葵をなだめる

「さて、葵君」


 向日葵は腕を組み、葵の頭上から声をかける。青年は膝に肘をつけ、うつむいて椅子に座っていた。


「落ち着いた?」


 葵はのろのろと顔を少しだけあげた。まだ向日葵とは目を合わせられないようだ。


「…さっきはすまん」


「質問の答えになってませんケド?」


「…落ち着いた、と思う。桜さんと橘平君にも謝らないとな」


 向日葵はしゃがんで、葵の顔を覗き込んだ。


「青葉さんとのことは、昔からじゃん。どーしたのよ?」


「別に…」


「また別にって。別にじゃないでしょ、あれは」


 生まれたての子猫のような潤んだ瞳で、葵は向日葵を見つめた。


「…あいつ、向日葵と遊びで付き合いたいんだってさ」


「え?だから?」きょとんとした目で、向日葵は返す。


「いや、だから…」


「アオ、それで怒ってたの?」


 彼が小さくこくり、とうなづく。


 向日葵ははーっと大きく息を吐き、「なにそれ。私が青葉さんと付き合うなんてありえないし。ってか襲われたって勝てるし」呆れた。


「分かってるけど、アイツが向日葵をそういう目で見てることが気持ち悪くて我慢ならん」


「ふーん」


「それに桜さんのこともだ。子猫みたいだとか、さらに気持ち悪い。ダメな相手でもお構いなしなんだ」


「うへ、さっちゃんのことはキモイな」


 3月のあたたかな光が居間を包む。


「で、玄関でのアレは何なの?」


「いや、あれは…あれだ、橘平君の有術じゃないか?」


 向日葵はテーブルの上のティッシュボックスを手に取り、それで葵の頭をぺしんと叩いた。


「あの子の有術は1回きり。言い訳に使うな」


 彼女がそう言って立ち上がろうとしたところ、葵は腕をひいた。


「わ、何ちょっと」


 そして向日葵に顔を寄せる。


 彼女の力を持ってすれば、葵の手から逃れることなどわけも無い。叩くなり殴るなりもできるのに、そのまま受け入れてしまった。


 橘平の有術はまだ有効なのかもしれない。向日葵はそう自身に言い訳した。




◇◇◇◇◇




 残りの肉も揚げきったところで、向日葵は台所へ戻って来た。


「お帰りなさい。肉、揚げ終わりました!」


「どれどれ~うまくできてんじゃん!さっそく食べましょ!」


 ご飯や味噌汁も用意し、3人は昼ご飯を居間へ運ぶ。


 葵は落ち着きを取り戻しており、先ほどの非礼を橘平たちにわびた。


「別に謝る必要ないですよ!人間、誰でも愚痴りたいときあるじゃないっすか。母さんなんか愚痴りまくりですよ。超うるさい」


 本当に気にも留めていないような少年のおおらかな態度に、葵は自身を小さく感じた。向日葵の好みのタイプが彼なのは、こういうところなのかもしれない。見習わなければ、と思ったのだった。


 そろって「いただきます」と言い、4人は出来立ての唐揚げを食べ始めた。少し焦げてしまった部分もあるけれど、味は十分美味しく、橘平と桜は「うまい」「美味しい」と言いながらもりもり食べていた。


 葵も相当腹が減っていたようで、無表情でひたすら肉を口に運んでいた。さらに、米もお代わり。葵はご飯をよそいに台所へ立った。


 その姿に、向日葵は暖かなほほえみを浮かべ「お腹すくとねえ、人間、イライラしちゃうもんよ」とコメントした。


 二杯目のごはんを持ってきた葵に、橘平は「俺らの作った唐揚げ、どうっすか?」と聞いた。


「美味しいよ」


 その一言に、高校生たちはハイタッチした。


「ねえ橘平さん、またひま姉さんに料理教わってさ、作って食べよ!次は何がいいかな」


「春っぽいやつ!」

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