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葵、兄を迎えに行く

楽しんでいただけますように!

 彼らが料理教室を楽しんでいる間、葵は街の駅に来ていた。都会の大学病院で働いていた兄の青葉を迎えに来たのである。


 村唯一の医療機関「三宮診療所」は三宮分家の一つ、葵の家が代々受け継いで営んでいる。長男の青葉はそこの跡取りであり、このたび診療所に勤務するため、帰郷することになった。


 葵が車の中で新書を読んでいると、窓ガラスをこんこん、と叩く音がした。


 中肉中背の30歳前後の男性が手を振っている。青葉だ。


 葵は兄の姿を認めるやドアを開けた。「おい、危ないな」兄の言葉は無視して車を降り、トランクに荷物を詰め込んだ。


「葵!お迎えありがとう。いやあ、今年は正月に帰れなかったからなあ。1年ぶりくらい?」


「早く乗れ」


 と、さっさと車を出した。


 車内では青葉が「久しぶりだね、最近さあ~」とぺらぺら話すも、葵はほぼ無口。質問されれば最低限の語数で答えるだけだった。


「相変わらず喋んないな。何か変わったことないの?」


「なし」


 彼らは性格も容姿も、実に正反対だった。


 長身の葵と違って青葉はそう背は高くないし、顔も凡庸でこれといった特徴はない。しかし口達者で人当たりが良く、勤務先では部下上司関係なく、いろいろな人から可愛がられていた。


 その人が欲しい感想を的確に言葉にし、冗談も面白いと女性からの受けもよい。話術で人を誑し込む技術に長けており、どんな美人でもエライ人でも騙されてしまう。


「妖物のことは?」


「聞いてるだろお父さんから」


 窓から見える景色が、家や商業施設から、だんだんと緑に変わっていく。


「そうなんだけどさ。だから帰って来て、結婚もさせられるわけだしなあ」


 青葉はボトルのブラックコーヒーを一口飲み、「直前に彼女5人いて、別れるの大変だったよ。青葉さんと別れるなら死ぬとか言われちゃってさあ」と自慢げに話す。


 彼は他人や親の前では「良い人」として、こうした露骨な話題はふらない。同性の友人たちの前でもだ。女性にも敬意を持って接している。


 しかし弟たちの前だけでは、際どい発言、女性に軽い発言等々、裏の顔を出す。末の弟の蒼人は苦笑いで流しているが、葵はなるべく話を聞かないようにしていた。弟たちにどう思われているのか、知っているのか知らないのかはわからないが、おかまいなしにしゃべり続けるのであった。


「それにしても」と、青葉はボトルをホルダーに置いた。「僕が生きてる間にこんな状況になるなんて思いもよらなかったよ。シャレになんないくらい強いんでしょ?」


 そう問いかけるも、弟から一向に返事はない。


 青葉はしつこく「でしょ?でしょ?」と迫る。うるさくなってきたので葵は仕方なく「そうだよ」と一言発した。


 だまれと言いたいが、言っても効果はない。しゃべり続けるのがこの兄である。


 向日葵のように露骨に兄を嫌うことはせず、葵は関わる事を避けている。そのための無言だった。


「それで僕が必要になっちゃったと。優秀な治療能力者は村からもモテるね!」


 青葉は「治癒」の有術を持つ。今後は診療所で父親とともに、医師兼能力者として働く予定である。


「可愛い人いっぱいいるから、もう少し都会にいたかったけどな~。医者修業は終わりか、さみしー」


 お喋りで女性に軽い青葉だが、内科医としては優秀と聞いている葵。以前から不思議でならないけれど、自身の上司、二宮課長のように、性格と仕事は別なのだと再認識した。二宮課長も仕事だけは非常に優秀だ。


「ああそうそう、体なまってるだろう、鍛練しろってお父さんに言われてさ。まあその通りだよ。筋肉ゼロ。ほら腹がヒレ。治療要員で鍛練必要?」


 青葉は助手席から、葵の腹を触る。


「やめろ!!」


「さすが締まってるね。いいね。あとで裸見せてよ」


 次に青葉は葵の太ももを触った。


「細く見えるけど、筋肉がしっかりしてるね」


 はたき落としたい葵だけれど、運転中のため耐えた。


「向日葵ちゃんは相変わらず金髪?」


 葵は微かに頷いた。


 触られて吐き気がする。本当なら頷くのさえ拒否したい。けれど、答えなければしつこい。


 しつこくされるよりは、答える方がマシだと判断した葵であった。


「そっかー。彼女その2も金髪ギャルだったけどさあ。その子10歳年下で、顔はかわいいけどスタイルあんまりよくなかったね。そこが欠点。あと箸が持てない」


 こんな腐った奴と付き合う女も腐ってるんだろうと、葵は自慢話を聞かされるたびに呆れてしまう。10歳年下の子はきっと騙されたに違いないと、弟は彼女その2に同情した。


「向日葵ちゃんはさ、ほんとスタイル良いよね。顔は全然好みじゃないけど、スタイルが素晴らしい。帰ったら早速おーがもっ」


 そして、子供のころから知っている向日葵を、昔からそういう目でしか見ない事に葵は心底腹が立っている。


 桜のことも「子猫みたいな妹系でカワイイ」など評し、葵は気持ち悪さしか感じない。


 実家までまだ時間がかかる。地獄のドライブだ。


「結婚しても遊びはいいわけじゃない。一度くらい向日葵ちゃんともお付き合いしたいな」


 結婚してまで遊ぶ気しかない兄。


 葵の頭には車から蹴り落すか、助手席側だけ事故を起こすか、崖から放り投げるか…などなど、犯罪ばかりが浮かぶ。


「あくまでも遊びでね!秘密の関係ってやつも楽しそうだから、やってみたいんだよね~」 


 もし向日葵がこんな奴にだまされたらと思うと、怒りしか湧かない葵だった。




◇◇◇◇◇




 実家で青葉を降ろすと、葵はそのまま古民家へ向かうために車を庭の中でバックさせた。


「あれ、あおいー!どっかいくの!?」


「帰る」


「ここ家でしょ」


「今、一人暮らし」


 そういって、葵はすぐに古民家へ戻った。


「一人暮らし?この村で?」


「お帰り、青葉。葵はすぐ帰っちゃったか」


 青葉が振り返ると、父の桐人が玄関から声を掛けていた。桐人はすらりとした背格好で姿勢がよく、顔は青葉と似ている。


「ただいま。ねえ、葵って今一人暮らしなの?」


「そうだよ。仕事の一環でね。一宮の持ってる家で一人暮らし」


 葵が去った先を見やり「ふーん、そっか。一宮のねえ」青葉はボストンバックを手に、家に入っていった。

橘平たちの物語がお気に召しましたら、☆☆評価やブックマークなど、お気軽に橘平と桜を応援していただけたら嬉しいです!向日葵が喜びます!葵は知りません!

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