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向日葵、八神親子が大好きだと気づく

いつもありがとうございます。

 話は昼に戻る。


 向日葵が総務部での用事を済ませ、自身の課へ戻る道中のこと。廊下で橘平の父・幸次に出会った。


「向日葵ちゃん、こんにちは」


「やっがみかちょ~!こんにちは~!」


「そういや今日、息子がお世話になるみたいで」


「お世話だなんてえ!私が誘ったんですから!」


 思い切り手を横に振り、向日葵は笑顔を浮かべる。


「それで思い出したんだけどさ、実は橘平ってちっちゃいころ、武道教室に見学いっててさ」


「ふえ?」


「そんときに橘平の面倒見てくれたの、向日葵ちゃんだったんだよね」


「ぬええ!?全く覚えてないです!」


 向日葵は間抜けな声で驚いた。言葉通り、全く記憶にない。


「あの子なんてもっと覚えてないよ。いやあ、それにしてもさあ」


 黒縁眼鏡の奥にある幸次の目じりが下がる。


「君は昔から変わらない」


「めっちゃ変わりましたよう!テンションとか、メイクとか髪色とか、なんかいろいろ!」


「見た目じゃないよ。心だよ。あの頃と変わらず、向日葵ちゃんは優しくて素敵な子だね」


 優しくて素敵。向日葵はその言葉に胸が「きゅん」となるのを感じた。


「息子と仲良くしてくれてありがとう。じゃあよろしくね」


 そういって幸次はすたすたと歩いていった。


 入職当時より、向日葵の中で幸次は「役場一、優しい紳士」である。


 彼女の金髪やメイクについて何一つ言わない、外見に惑わされることなく、内面に真摯に向き合ってくれる人物だ。橘平の素直で優しく、気配り上手なところは父親似なのかもしれない。向日葵はそう感じた。


「やーん、私もしや、八神親子がタイプってこと~?」


 軽くスキップしながら自席に戻った向日葵は、仕事を他所にして、とろけた顔でふふふ、っとにこにこしていた。


 その様子に桔梗が「良いことあったの?」と声をかける。


「うふふふ~私ってえ『優しくて素敵な子』、なんですって~!」


 桔梗が眉をひそめる。


「もしかして誰かに口説かれたの?どこ課のクソよ。それとも窓口に来た村人?」


 葵の耳がぴくりと反応する。


 先ほどからの彼女の嬉しそうな様子。とても気になっていたが、葵は向日葵と、職場では仕事以外の話は極力しないようにしていた。向日葵も同様である。


「違いますよお~!福祉の八神課長がぁ、向日葵ちゃんは子供のころから優しくて素敵って」


「八神幸次が?!無害な顔してクソだったのね、私の向日葵を」


「だから本当にそーいうんじゃないんです!あー課長素敵。いつも思うけど、外見じゃなくて中身を見てる人なんだもん。きゅんっとした!私もそーいう人と一緒になりたーい!」


 桔梗は立ち上がり、すたすたと向日葵の席までやってきた。


 そして向日葵の机をバン、と叩いた。


「向日葵、この世の男の9割はクソよ。口が上手いヤツはもれなくクソよ。あなた、騙されやすいかもしれないからクソには気をつけなさい」


「9割って」


「この課をみなさい。今、男がいないから言うけど、樹ちゃん以外クソだわ。はい9割」


 桔梗は樹のことを、なぜか相当気に入っている。しかし他の男性職員、特に課長のことは大嫌いを通り越して、表現の仕様がない。


 しかし今、課に「男がいない」と言ったが葵はいる。


「にしても、八神幸次ごときに陥落するなんてぬるすぎるわ。訓練しなきゃ。葵!」


 突然振られた葵は、おもわず肩がびくっと動く。一応、居たことは認識されていたらしい。


 桔梗は葵の隣席の椅子に座る。樹の席だ。


「あんた『向日葵ちゃんは優しくて可愛いね』って言ってみなさい」


「や、優しくて素敵、では」


「なんでもいいわよ、ほら言って」


 桔梗は手の甲で葵の頬を軽く叩いた。


「別に向日葵のこと何とも思ってないから言えるでしょ。訓練させなきゃ。クソに捕まったら可哀そうだわ」


 何とも思っていない。


 二人は周囲にそのように「見せてきた」。桜の守役も含め、子供のころからただの「同僚」。特に向日葵は慎重に、必要以上に「距離」を取ってきたのだ。


 先日、葵の方からその距離を詰めるという事件が起こったけれど、職場での振る舞いは別問題。外では向日葵と距離を取らねばならないことは、重々承知だ。


 ここで変に戸惑うのは逆効果だと判断した葵は、向日葵に言う。


「向日葵ちゃんは優しくて可愛いね」


 葵は時間が止まったような気がした。

向日葵の物語が少しでも面白いと感じていただけましたら、ブクマ、評価等で彼女を応援していただけると嬉しいです。良い一日をお過ごしください。

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